音が別の物質へ入ると、境界で一部が反射し、残りが向こう側へ進みます。このとき、透過した音の音圧が、入ってきた音圧より大きくなる場合があります。増幅器のない境界で、音のエネルギーまで増えてしまうのでしょうか。
鍵になるのが音響インピーダンスです。音圧だけでなく、その圧力に応じて媒質がどれだけ動くかを一緒に見ると、音圧の増加とエネルギー保存は両立します。ここでは、二つの流体の境界へ音波がまっすぐ入る、損失のない理想例で考えます。
簡単にまとめると?
- 進行する平面波では、音の強さは「音圧の実効値の二乗÷比音響インピーダンス」。媒質が違えば、音圧の大小だけで運ばれるエネルギーを比べられません。
- インピーダンスが4倍の媒質へ入る例では、透過する音圧は1.6倍になりますが、透過する音の強さは入射の64%。残り36%が反射します。
- 反射で生じる定在波や、吸収・斜め入射・多層構造には条件の追加が必要です。境界近くの音圧測定値を、そのまま一方向のエネルギー量に置き換えないことが大切です。
音圧と、媒質の「動きやすさ」を結ぶ量
音圧 p は、音によって平衡状態から増減する圧力です。一方、粒子速度 uは、音の通過に伴って媒質の小さな部分が往復運動する速度を指します。波が遠くへ伝わる速さである音速 c とは別の量です。
吸収のない流体中を一方向へ進む平面波では、音圧と粒子速度の比は z=ρc となります。ρは密度です。ここで使う z は、正確には比音響インピーダンスで、単位は Pa·s/m。大きいほど、同じ音圧に対する粒子速度が小さくなります。[1][2]
「音響インピーダンス」という言葉には、粒子速度ではなく、管を通る体積流量で音圧を割る定義もあります。本稿では面積を含まない z=p/u を使い、流量に基づく定義とは区別します。
音圧の二乗だけでは、媒質をまたいで比較できない
音の強さは、単位面積を単位時間に通過する音響エネルギーの量で、単位は W/m²です。圧力が媒質を動かす仕事を考えると、瞬間のエネルギーの流れは p×u で表されます。正弦波の進行波について時間平均すると、次の関係になります。[2]
I=prms²/z
prms は音圧の実効値です。山の高さにあたるピーク値を使う場合は、二乗した値をさらに2で割ります。実効値とピーク値を混ぜないようにします。
同じ媒質なら音圧の二乗を比べれば音の強さを比べられます。しかし異なる媒質では、分母の z も変わります。音圧が高くなっても粒子速度が小さければ、向こうへ運ぶエネルギーは小さいまま、ということが起こります。
境界では、圧力と垂直方向の速度がつながる
媒質1から媒質2へ音波が垂直に入るとします。入射音圧を pi、反射音圧を pr、透過音圧を pt とすると、境界での圧力は左右で等しくなります。媒質の動きも、境界を押す向きの速度がつながります。[1]
pi+pr=pt
(pi−pr)/z1=pt/z2
速度の式に引き算があるのは、反射波が逆向きに進むためです。この二つの条件を同時に満たす音圧の比は、次のようになります。
音圧反射係数 r=(z2−z1)/(z2+z1)
音圧透過係数 t=2z2/(z2+z1)=1+r
媒質2のインピーダンスが大きいと r は正になります。境界では入射波と反射波の音圧が同じ位相で重なり、その合計が透過側の音圧につながります。これが、t が1を超えられる理由です。
4倍のインピーダンスへ入ると、音圧1.6倍・エネルギー64%
z2=4z1 として式を計算すると、r=0.6、t=1.6 です。ただし、音の強さの比には媒質の違いを入れます。
強さの反射率 R=r²
強さの透過率 T=(z1/z2)t²
したがって R=0.36、T=(1/4)×1.6²=0.64。反射36%と透過64%を足すと100%になり、エネルギーは増えていません。同じ断面積を通る波を比較しているので、音響パワーの割合も同じです。

単位を付けて確かめてみます。仮に z1=1,000,000 Pa·s/m、z2=4,000,000 Pa·s/m とし、入射音圧の実効値を1,000 Paと置くと、入射の強さは1 W/m²です。透過音圧は1,600 Paですが、透過の強さは0.64 W/m²になります。これは特定の材料を測った結果ではなく、関係を見やすくするための仮定です。
粒子速度の実効値も、入射波の0.001 m/sから透過波の0.0004 m/sへ小さくなります。透過波は圧力が大きくても、媒質の動きが小さい。この両方を掛け合わせることで、運ぶエネルギーが決まります。
逆から入ると、変わるもの・変わらないもの
同じ境界へ逆側から音を入れると、音圧係数は変わります。次の表は、どちらの向きもそれぞれの入射波を基準にした比較です。
| 進む向き | 音圧反射 r | 音圧透過 t | 反射 R | 透過 T |
|---|---|---|---|---|
| 小さいz → 4倍のz | 0.6 | 1.6 | 36% | 64% |
| 大きいz → 1/4のz | −0.6 | 0.4 | 36% | 64% |
負の反射係数は、反射音圧の位相が反転することを表します。エネルギーが負になるという意味ではありません。損失のない一つの境界では、向きを逆にしても反射・透過する割合は同じです。ただし、入射音圧を同じ値に固定すると、入射の強さ自体が媒質によって変わります。両方向の絶対的なパワーまで同じとは限りません。
二つの z が等しければ、このモデルでは反射はなくなります。密度と音速がそれぞれ同じでなくても、積の ρc が一致すれば、垂直入射時の反射を抑えられます。
測定や材料の比較で見落としたくない条件
音を材料へ伝える構成を比較するときは、音圧の大きさに加えて、媒質のインピーダンス、入射する音響パワー、反射と吸収の区別を確認すると判断しやすくなります。反射して戻ったエネルギーは、その場で熱へ変わったエネルギーとは別です。
もう一つ注意したいのが、反射面の近くで測る音圧です。そこには入射波と反射波が重なり、定在波の山や谷ができます。圧力の振幅が大きい地点でも、一方向へ多くのエネルギーが流れているとは限りません。I=prms²/z をそのまま使えるのは、ここで扱った一方向に進む波の音圧です。[2]
本稿の式は、微小振幅の平面波、均質で吸収のない二つの流体、平らな境界への垂直入射を前提としています。向こう側から再反射が戻ってくる層構造、吸収のある材料、斜め入射、せん断波も伝わる固体では、厚さ・周波数・角度などを含む別の検討が必要です。
音圧とエネルギーは密接に関係していますが、同じ物差しではありません。境界をまたぐ比較では、「圧力が何倍か」と「入射エネルギーの何割が進んだか」を分けると、見かけの増幅を読み違えずに済みます。
出典
- Oelze, ECE/TAM373 Notes, Chapter 6 – Reflection and Transmission(University of Illinois掲載、PDF 1〜5ページ)。
- UNSW Physclips, Acoustic impedance, intensity and power(比音響インピーダンス、音の強さ、実効値と定在波の説明)。
