タグ: ビオ数

  • ビオ数、物体を「一つの温度」で扱ってよい条件

    ビオ数、物体を「一つの温度」で扱ってよい条件

    熱い部品を冷ますとき、温度計に表示される一つの数字だけで、内部まで冷えたと判断してよいのでしょうか。金属の薄い板なら近い温度になりやすくても、熱が伝わりにくい厚い材料では、表面が冷えても中心に熱が残ります。その違いを見積もる手がかりがビオ数(Biot number)です。

    簡単にまとめると?

    • ビオ数は、物体の内部で熱が伝わる抵抗と、表面から周囲へ熱が移る抵抗の比を表します。小さいほど、内部をほぼ一つの温度で近似しやすくなります。
    • 体積を放熱面積で割った長さを使い、Bi < 0.1を目安にする方法が一般的です。ただし、形状や必要な精度まで含めた万能の保証ではありません。
    • 厚さ20 mmの板を比べる独自計算では、一様温度の近似はどちらも42.1℃でも、熱伝導率が低い板の中心には52.0℃の熱が残りました。

    「内部を通る」と「表面を渡る」を比べる

    冷却には、少なくとも二つの過程があります。中心の熱が材料の中を通って表面へ届く過程と、表面の熱が周囲の空気や液体へ移る過程です。内部で熱を運ぶ能力を表すのが熱伝導率k、表面と流体の熱の受け渡しを表すのが熱伝達率hです。同じ「熱を伝える」でも、担当する場所が違います。

    ビオ数はBi = hLc/kと書けます。Lcは代表長さです。集中定数近似の可否を見積もるときは、物体の体積Vを、熱をやり取りする表面積Aで割ったLc = V/Aを使います。面積で換算した内部の抵抗をLc/k、外側の抵抗を1/hと考えると、両者の比になっています。[1][2]

    Biが小さい場合は、内部よりも表面から外側への熱移動が進みにくくなります。内部の温度差が小さいまま、物体全体がゆっくり冷えていく状態を近似できます。Biが大きい場合は、内部から表面へ熱が届くまでの抵抗を無視しにくく、中心と表面を別々に考える必要が出てきます。

    冷却風を強めてhを大きくすると、外側には熱を渡しやすくなる一方、Biは大きくなります。表面の冷却が進むほど、内部との温度差が目立つことがある、という関係です。反対に、hが小さくてBiが小さい物体は、一様温度に近くても冷却そのものは遅いことがあります。小さいBiは「速く冷える」の意味ではありません。

    一つの温度にまとめると、計算はどう変わる?

    物体の内部を一様温度とみなす方法を、集中定数近似、または集中熱容量法と呼びます。物体が蓄えている熱と、表面から出ていく熱の収支だけで、時間ごとの温度を求めます。周囲の流体温度T∞、h、密度ρ、比熱cを一定とし、内部で発熱しない場合は、次の指数関数になります。[2]

    T(t) = T∞ + (Ti − T∞) exp(−t/τ)
    時定数は τ = ρcV/(hA)。Tiは初期温度です。τ秒たつと、周囲との温度差が初めの約37%になります。

    この式に熱伝導率kが直接出てこない点が大切です。内部で熱が十分に行き渡ると仮定したためで、どんな材料にもkが不要になったわけではありません。式を使う前に、kを含むBiで、その仮定が成り立ちそうかを確認します。

    厚さ20 mmの板で、中心に残る熱を見る

    厚さ20 mmの均質な板が、初めは全体で80℃だったとします。両面を20℃の流体に接触させ、熱伝達率hを50 W/(m²·K)に保ちます。端面からの放熱は無視し、厚さ方向だけに熱が流れる理想モデルです。密度と比熱の積ρcは、どちらの材料も2.0 × 106 J/(m³·K)とします。

    両面が放熱する板なので、V/Aは厚さの半分、10 mmです。ここで20 mmをそのまま入れると、Biを2倍に見積もってしまいます。片面だけを冷却する場合などは、放熱面積と境界条件から見直す必要があります。

    熱伝導率だけを50と0.5 W/(m·K)に変えると、Biはそれぞれ0.01と1になります。集中定数近似の時定数は、どちらも400秒です。しかし、板の内部の温度分布を含めて計算すると、400秒後に次の差が生まれます。

    400秒後の比較 熱が伝わりやすい板 熱が伝わりにくい板
    熱伝導率 k 50 W/(m·K) 0.5 W/(m·K)
    ビオ数 Bi 0.01 1
    集中定数近似 42.1℃ 42.1℃
    中心の温度 42.2℃ 52.0℃
    表面の温度 42.1℃ 40.9℃
    冷却400秒後の板の厚さ方向の温度。Biが0.01の板は中心42.2℃、表面42.1℃とほぼ一様。Biが1の板は表面40.9℃でも中心52.0℃が残る。
    両面対流冷却の平板について、位置ごとの温度を固有関数展開で計算。破線は一様温度を仮定した42.1℃。端面放熱・内部発熱・放射を含めない理想条件の独自計算で、実測値ではありません。[2]

    Bi = 0.01では、中心と表面の差は約0.1℃です。この条件なら、一つの温度にまとめても温度分布による違いは小さくなっています。Bi = 1では、中心と表面に約11.1℃の差があり、集中定数近似は中心温度を約10℃低く見積もります。表面の測定値が近似値に近いからといって、内部も同じ温度とはいえません。

    温度分布には、ビオ数に加えて、熱拡散率α = k/(ρc)と経過時間をまとめたフーリエ数 Fo = αt/L²も関係します。この板ではLは半厚さです。Biは内部と外側の抵抗の釣り合いを、Foはその長さに対して熱が広がる時間の進み具合を表します。表の値は、両面対流冷却の平板の級数解を使い、別方式の有限体積計算でも確認しています。

    0.1の目安と、実際の判断で残る条件

    内部を一様温度とみなす代表的な目安はBi < 0.1です。[1][2] ただし、境界条件、形状、時刻、中心と平均のどちらを知りたいかによって誤差は変わります。「0.1未満だから、どの温度も必ず一定の誤差以内」とは読み替えられません。

    部品を比較するときは、まずどの面から熱が出るのかを決め、V/Aを求めます。次に材料のkだけでなく、流れや接触条件に依存するhを見積もります。そのうえで、中心の最高温度や温度差が重要なら、単一の温度ではなく位置ごとの温度を計算する方法を選びます。

    多層材料、接触面の熱抵抗、場所によって異なる発熱、温度による物性の変化がある場合には、この均質な板の例からさらに条件を足す必要があります。ビオ数は、一つの温度で済ませるか、内部まで分けて調べるかを決める出発点になります。

    出典

    1. John H. Lienhard V / John H. Lienhard IV, A Heat Transfer Textbook, Sixth Edition, Version 6.00(2024年4月19日)。第5章、特に§5.2、§5.4・Figure 5.7。
    2. NPTEL, Unsteady Heat Transfer, Module 5 Teacher Slides。集中定数近似、ビオ数、両面対流条件の平板の級数解(PDF 4–11ページ、公開年表記なし)。