同じ量の黒い顔料を入れた塗料でも、塗った後の黒さが同じになるとは限りません。顔料が液体の中で細かく分かれているのか、集まって塊になっているのかによって、仕上がりは変わります。ところが、樹脂や分散剤が混じった塗料から、顔料の状態だけを読み取るのは容易ではありません。
東京大学と日本ペイントコーポレートソリューションズ(日本ペイントCS)の研究グループは、遠心Field-Flow Fractionation(遠心FFF)という分離分析法で、塗料中の顔料の凝集を捉える方法を報告しました。論文の公開は2026年7月22日、大学からの発表は10月20日です。黒色塗料の比較を通して、塗膜を作る前の測定と、塗膜になった後の漆黒性を結び付けています。
簡単にまとめると?
- 遠心FFFは、粒子を流路の中で分離し、出てくるまでの時間から違いを調べる方法です。今回、複数の成分を含む塗料中の顔料凝集を捉えました。
- カーボンブラックの量が同じで、分散剤が異なる二つの塗料を比較しました。黒さが弱い塗膜になる塗料で、顔料の凝集が検出されました。
- 試作する候補を絞る手掛かりになりますが、すべての色や配合に通用する予測式、開発時間の削減率まで示した成果ではありません。
液体の塗料と、乾いた塗膜の間をつなぐ
顔料は色を担う粒子です。黒色塗料で使われるカーボンブラックは、炭素を主成分とする黒い粒子で、塗料やインクなどの着色に用いられます。塗料には顔料のほかに、膜を作る樹脂や、粒子を分散させるための分散剤などが含まれています。
配合を変えてよい塗料を探すときには、塗って膜を作り、その色や外観を確かめる必要があります。その結果が悪ければ、配合を変えて試し直します。ここで液体のまま仕上がりに関わる情報を得られれば、すべての候補で塗膜を作る前に、どの配合を詳しく試すか判断しやすくなります。
今回の研究で比べたのは、カーボンブラックの含有量をそろえ、異なる分散剤を使った二つの塗料です。それらから作った塗膜の漆黒性、つまり黒の深さには違いがありました。顔料の量だけでは、この差を説明できません。そこで、液体中での粒子の集まり方に着目しました。
遠心FFFは、粒子を分けてから調べる
遠心FFFでは、薄い流路の中を試料が流れます。この流れと直交する方向に遠心力を加え、粒子を分離します。大学の発表では、質量の大きい粒子ほど、流路から出てくるまでの時間が長くなると説明されています。この「溶出時間」の違いを測ることで、単独の粒子と凝集した粒子の違いを捉えます。
ただし、長くかかった時間そのものが、塗膜の黒さを表すわけではありません。まず塗料の中で顔料がどう集まっているかを分析し、その結果を実際の塗膜の外観と照らし合わせます。分離して測る段階と、仕上がりとの関係を確かめる段階があるのです。
粒子を調べる方法としては、動的光散乱法も広く使われます。液体中の粒子が動くと、散乱する光の強さが時間とともに変わります。その変化から粒子の大きさを調べる手法です。一方、複数の成分が混在する試料では、成分を区別して評価することが難しい場合があります。今回の二つの塗料では、動的光散乱法で顔料の状態に明確な違いを見いだせなかったと報告されています。
三つの測定を、同じ役割として扱わない
遠心FFFで分析すると、漆黒性の低い塗膜を作った塗料に、カーボンブラックの凝集が見つかりました。この凝集は、試料を急速に凍結して観察するクライオ透過型電子顕微鏡でも確認されています。分離分析で見えた違いを、別の方法による観察と突き合わせた点が大切です。
| 調べ方 | 今回の比較での役割 |
|---|---|
| 塗膜の外観評価 | 二つの配合からできる膜の黒さに違いがあることを確認する。 |
| 動的光散乱法 | 今回の塗料では、顔料の状態に明確な違いを見いだせなかった。 |
| 遠心FFF | 液体の塗料を分離分析し、黒さが弱い膜になる側で顔料の凝集を検出する。 |
| クライオ透過型電子顕微鏡 | 凝集を直接観察し、分離分析による評価を確かめる。 |
発表の測定図では、二つの塗料をそれぞれ3回測った曲線が示されています。二つの配合の違いを見るだけでなく、同じ配合を測り直した結果も並べているわけです。ただし、この回数だけで、あらゆる製造ロットや別の配合に対する再現性が確認されたことにはなりません。
ここから読めるのは、今回の黒色塗料では、塗膜の黒さに関わる顔料の凝集状態を、塗膜を作る前に評価できたという成果です。顔料や樹脂、分散剤を変えた場合にも同じ関係が成り立つかは、対象を広げて確かめる必要があります。
試作を減らすために、何を確認したいか
例えば、複数の分散剤から候補を選ぶ場面を考えてみます。まず液体の塗料を分析し、凝集の違いから試作する候補の優先順位を付ける。その後、選んだ候補で塗膜を作り、色や外観を確かめる。今回の方法は、こうした開発の前半に情報を加える使い方につながります。
実際に取り入れるなら、対象の顔料や配合でも測定結果と仕上がりが対応するか、測定にどのくらい時間がかかるか、試料調製を含めて安定した評価ができるかが判断材料になります。塗膜に必要なのは色だけではありません。密着性や耐久性などを、この分析だけで保証することもできません。
試作する回数が減れば、塗料や基材を使う量、乾燥・硬化に必要なエネルギー、廃棄物の削減が期待できます。ただし、今回の発表には、開発期間や環境負荷が何%減ったという実測値は示されていません。成果の中心は、液体中の凝集と塗膜の黒さをつなぐ測定の手掛かりが得られたことです。完成した膜だけを見て配合を調整する工程に、その前の粒子の状態を知る手段が加わりました。
共同研究を担う日本ペイントCSの役割については、Cyclewaveの日本ペイントコーポレートソリューションズの企業解説でも紹介しています。国内グループを支える研究・技術開発、管理業務、IT基盤の仕事と、今回の塗料分析研究の位置づけを確認できます。
出典
- 東京大学「塗料の状態から塗膜の発色性を評価できる新手法を開発」(2026年10月20日)。研究内容、測定図、用語解説を参照。
- Ayaka Otsukaほか「Sensitive Detection of Pigment Particle Aggregation in Paints via Centrifugal Field-Flow Fractionation」Langmuir(2026年7月22日オンライン公開)。DOI: 10.1021/acs.langmuir.6c01568。論文情報と公開日は大学発表に基づく。
