タグ: 回折格子

  • 回折格子、光の分かれる角度と線の細さを決める二つの条件

    回折格子、光の分かれる角度と線の細さを決める二つの条件

    白い光を、波長ごとに違う方向へ分ける。回折格子は、細かい構造が規則正しく並ぶことで、この働きを生みます。ただし「溝を細かくすること」と「たくさんの溝へ光を当てること」は、同じ効果ではありません。光が分かれる角度を見たいのか、近い波長を区別できるほど線を細くしたいのかで、注目する条件が変わります。

    簡単にまとめると?

    • 正面から光を入れる理想的な回折格子では、隣り合う構造の間隔dと波長λが、光を強め合う方向を決めます。
    • 間隔dを固定して照らす本数Nを増やすと、主なピークの中心角を保ったまま、その周りの山が細くなります。
    • 「波長を離して並べる力」と「一本ずつ細く見せる力」を分けて考えると、刻線密度だけで分光性能を判断する落とし穴を避けられます。

    隣のすき間から来る光が、同じ向きでそろう

    ここでは、同じ幅の細長いすき間が等間隔に並ぶ透過型のモデルを考えます。実際には反射型の格子もありますが、まずは光が通り抜ける場合に絞ります。すき間の中心から隣の中心までの間隔をdとし、波長のそろった光を正面から入れます。照らす範囲の振幅と位相は均一とします。

    格子から十分遠い場所で、正面に対して角度θの方向を見ます。隣り合うすき間から届く光には、d sin θという道のりの差ができます。その差が一波長、二波長という整数倍なら、波の山同士が重なります。隣同士がそろうので、さらに離れたすき間から来る光もそろいます。[1][2]

    この条件はd sin θ = mλと書けます。mは回折次数で、0、±1、±2…という整数です。m=0は正面、m=1は片側の1次、m=−1は反対側の1次を表します。強め合う主なピークを主極大と呼びます。θは格子の面からではなく、面に垂直な方向から測る角度です。

    間隔を固定すると、長い波長ほど外側へ分かれる

    具体例として、1ミリメートルあたり500本の格子を考えます。間隔は1/500ミリメートル、つまり2マイクロメートルです。この格子の1次について、500ナノメートルと600ナノメートルの光を別々に計算します。数値は特定製品の測定値ではなく、上の式を使った例です。

    波長 λ/d 1次の角度 0次の角度
    500 nm 0.25 約14.48° 0°
    600 nm 0.30 約17.46° 0°

    1次の角度差は約2.98度です。間隔と次数が同じなら、長い波長ほど大きい角度になります。一方、0次ではどちらも正面に重なります。光が複数の方向へ出ることと、どの方向でも波長が分かれることは同じではありません。

    また、式の右辺mλ/dの絶対値は1以下でなければなりません。たとえば間隔2マイクロメートル、波長600ナノメートルでm=4とすると1.2となり、その次数の伝搬方向は存在しません。次数を上げれば無制限に広く分けられるわけではないのです。

    本数を増やすと、角度のずれに敏感になる

    主極大の式には、照らす本数Nが出てきません。同じ間隔と波長なら、20本でも100本でも、すべてがそろう方向は同じです。変わるのは、その方向から少し外れたときの足し合わされ方です。[2]

    中心角からわずかにずれると、隣同士の位相にも小さなずれができます。位相は波の山や谷のタイミングを表します。本数が少なければ、端から端までのずれも小さいままです。本数が多いと、小さなずれが遠く離れたすき間まで積み重なり、互いを打ち消す組が生まれます。そのため、強くそろう角度の範囲が狭くなります。

    比較をはっきりさせるため、各すき間を十分に細い同じ光源として扱い、波の振幅を足してから絶対値の二乗を取ります。計算式は、隣同士の位相差をφ=2πd sin θ/λとして、相対強度 = |(1/N)Σ exp(ikφ)|²です。kは0からN−1までを足します。これは位相の異なる波を矢印として足す計算で、各主極大の高さを1にそろえています。

    回折格子の照らす本数20本と100本を比較した独自計算図。間隔2マイクロメートル、波長500ナノメートルで、1次の中心角14.48度は共通。本数が多い方が強度の山は細い。各ピークを1に正規化。
    間隔と波長を固定した独自計算。横軸の範囲は上下共通です。破線は1次の主極大に隣接する最初のゼロの位置で、各ピークを1に正規化しています。光量や絶対的な明るさを比較する図ではありません。

    間隔2マイクロメートル、波長500ナノメートルでは、中心角は約14.48度のままです。左右の最初のゼロの間を幅とすると、20本では約1.48度、100本では約0.30度になりました。本数を5倍にしたことで、この例では幅がほぼ5分の1になっています。これは半値幅、つまり強度が半分になる二点の間隔ではありません。

    この違いは、同じ刻線密度の格子でも、光の当たる幅が狭くて一部しか使っていない場合に重要です。格子全体に何本あるかだけでなく、実際に位相をそろえて照らしている本数を数える必要があります。ここでは間隔を固定したため、本数を増やすと使う横幅も広くなっています。

    角度の広がりと、線の幅を別々に比べる

    近い二つの波長を観察するときは、それぞれの中心角の差と、それぞれの線が持つ幅の両方が関わります。二つの中心が離れても、山が広ければ重なります。山が細くなれば、同じ角度差でも違いを読み取りやすくなります。刻線密度だけを見て「多いほど高性能」と結論づけず、どの次数で、どの波長を、どれだけの幅へ照射するかをそろえて比較します。

    今回の計算は、均一な照明、正面入射、理想的に等間隔で細いすき間、遠方の角度分布という条件です。有限のすき間幅は回折による明るさの包絡線を作り、溝の形状などは各次数へ入る光の量にも影響します。斜め入射では角度の式も変わります。実際の分光器では、入口スリット、レンズ、検出器の画素、照明の不均一さなどによる線の広がりもあるため、この図だけで装置の分解能は保証できません。

    格子の間隔dは、どの方向で波がそろうかを決める。照らす本数Nは、その方向からどれだけ外れるとそろわなくなるかに効く。この二つを分けて見ると、光を波長ごとに並べる仕組みと、細かな違いを見分けるための条件がつながります。

    出典

    1. OpenStax, University Physics Volume 3, 4.4 Diffraction Gratings. 格子の間隔と回折次数
    2. MIT, Chapter 14: Interference and Diffraction, §14.8, pp.14-20–14-22. 回折格子の主極大と本数による幅の変化