半導体に電流を流すとき、電荷を運ぶ粒子が多いのか、一つひとつが動きやすいのかは、抵抗だけでは切り分けにくい問題です。そこで役立つのが、電流と直角の方向に生じる小さな電圧です。
ホール効果は、電流が流れる試料へ磁場をかけると、その横方向に電圧が現れる現象です。電子や正孔といった電荷の運び手をキャリアと呼びます。ここでは一種類のキャリアが支配的な古典的モデルを使い、ホール電圧から密度を求めるまでを、測定のずれを含む具体例で考えます。
簡単にまとめると?
- 磁場によって移動するキャリアが横へ偏ると、その偏りを押し戻す電場ができます。横方向で力が釣り合ったときの電位差がホール電圧です。
- 単一キャリアの単純なモデルでは、電流・磁場・ホール電圧から面密度が求まり、導電層の厚さが分かれば体積密度へ換算できます。
- 測った横電圧には別の電圧も混ざります。磁場を反転した差は一定のずれを除けますが、試料の不均一さや時間変化まで解消するわけではありません。
横へ寄った電荷が、さらに寄る動きを押し戻す
薄い長方形の試料を思い浮かべます。長手方向に電流を流し、広い面に垂直な磁場をかけます。動く電荷は磁場からローレンツ力を受けるため、電流と直角の方向へ偏ります。電子の平均的な移動方向は、慣用的な電流の向きとは逆です。
偏りが生まれると、両側の電荷の差によって横向きの電場もできます。この電場による力が磁場による力と釣り合えば、横への偏りはそれ以上増えません。試料の両側に当てた電圧計は、この電場に対応する電位差を読み取ります。
大きさだけで書くと、平均移動速度をv、磁束密度をBとして、釣り合う電場は|E| = |v|Bです。幅wにわたる電圧は|VH| = |v|Bw。同じ電流でもキャリアが少なければ、一つひとつが速く移動する必要があり、このモデルではホール電圧が大きくなります。
厚さを知らなくても求まる面密度
キャリアの体積密度をn、導電層の厚さをd、電気素量をeとすると、電流の大きさはI = ne|v|wdです。上の電圧の式と組み合わせると幅と速度が消え、次の関係が得られます。
|VH| = IB / (ned)ns = nd = IB / (e|VH|)
nsは単位面積あたりのキャリア数、つまり面密度です。導電層が厚さ方向に一様なら、厚さで割ったn = ns/dが体積密度になります。基板を含めた部品全体の厚さではなく、実際に電流が流れる層の厚さが必要です。
説明用に、電流1.00 mA、磁場0.500 T、ホール電圧の大きさ3.121 mVを考えます。eを1.602176634×10−19 Cとして計算すると、面密度は約1.00×1018 m−2、すなわち1.00×1014 cm−2です。導電層が100 µmなら、体積密度は約1.00×1022 m−3、または1.00×1016 cm−3になります。これは仮定した数値による計算例で、実測結果ではありません。
同じ面密度でも、厚さを50 µmと見積もれば体積密度は2倍です。電圧の測定が正確でも、層の厚さの解釈が違うと比較する密度が変わります。測定報告を読むときは、面密度か体積密度か、どの厚さで換算したかを一緒に確認できます。
磁場を反転して、混ざった電圧を見分ける
横方向の端子が少しずれると、電流方向の電圧降下の一部まで拾ってしまいます。温度差も測定電圧に影響します。電圧計の値を、そのまま全てホール電圧とみなせない理由です。
ここで、磁場を反転すると符号が変わる成分に注目します。電流と端子の接続を固定し、同じ大きさの磁場を正負で測った値をV(+B)、V(−B)とすると、
Vodd = {V(+B) − V(−B)} / 2
が磁場に対して反転する成分です。両方に同じ大きさで混ざる電圧は引き算で消えます。この処理で消せるのは、二回の測定で変わらず、磁場の符号にも依存しないずれです。
先ほどの例で、ホール電圧が±3.121 mV、一定のずれが+1.000 mVあるとします。測定値は+4.121 mVと−2.121 mVです。差の半分を取れば+3.121 mVに戻り、和の半分からは+1.000 mVのずれも読み取れます。

+4.121 mVだけを使って密度を計算すると、約7.57×1021 m−3となり、本来の例の値より約24%小さくなります。電圧のずれは約32%ですが、密度は電圧の逆数に比例するため、密度の誤差率は同じ32%にはなりません。
NISTの測定解説では、磁場の反転に加え、電流方向や端子の組み合わせも変える手順を示しています。上の二回の差だけで、その手順全体を済ませたことにはなりません。測定中の温度変化や接触の不安定さは、別に確かめる必要があります。
密度という数値を、どのモデルで読んでいるか
ホール電圧の符号も有用ですが、電流・磁場・電圧端子の向きをそろえて初めて、電子か正孔かという解釈につながります。端子の二本を入れ替えるだけでも電圧計の符号は逆になるため、「マイナスだった」という記録だけでは足りません。
また、ここで使った式は一種類のキャリアと一様な導電層を仮定しています。電子と正孔の両方が無視できない場合などに、同じ式を当てはめて得た数を、そのまま全キャリアの実数密度と読むことはできません。ホール電圧から得る密度は、採用した輸送モデルと結びついた推定値です。
抵抗との組み合わせにも意味があります。同じ単純モデルで、薄膜の抵抗を表すシート抵抗が1,000 Ω/□、面密度が先ほどの1.00×1018 m−2なら、ホール移動度µH = 1/(ensRs)は約62.4 cm2/(V·s)です。移動度は、電場に対してキャリアがどの程度動きやすいかを表します。
抵抗の変化を見たあとに、密度と移動度のどちらが変わったかを考えられることが、横方向の電圧を測る利点です。比較するときは測定温度、磁場と電流、端子の向き、厚さ、ずれの除き方をそろえると、材料の違いと測り方の違いを区別しやすくなります。
出典
- MIT OpenCourseWare — Electromagnetics and Applications, Chapter 6(2009年春)。第6.6.3節、冊子182〜183ページ。ローレンツ力、横方向の釣り合い、キャリア速度との関係を参照。
- NIST — The Hall Effect。面密度・体積密度・ホール移動度の関係を参照。更新停止を明記した保存ページです。
- NIST — Resistivity and Hall Measurements。オフセットと磁場反転、電流・端子を変えた測定手順を参照。更新停止を明記した保存ページです。本文の数値例と図は独自計算です。
