センサーの小さな電圧を測るとき、測定器の帯域幅を広げると、信号の速い変化を追いやすくなります。しかし、表示の揺らぎまで大きくなることがあります。周波数の広い範囲に分布する雑音も、一緒に取り込むためです。
その基本的な一つが、抵抗で生じるジョンソン雑音(熱雑音)です。外から信号を加えなくても、温度を持つ抵抗には電気的な揺らぎがあります。ここでは抵抗そのものの雑音に絞り、「帯域幅を何倍にすると、測る電圧の揺らぎは何倍になるか」を計算します。
簡単にまとめると?
- 抵抗の熱雑音は、平均電圧がゼロでも消えません。大きさは電圧を二乗して平均し、平方根を取った実効値で比べます。
- 同じ温度と抵抗なら、理想的な通過帯域を100倍にすると、雑音電圧の実効値は10倍になります。
- 実際のフィルターでは、遮断周波数より高い成分も少し通ります。雑音の計算には、フィルターの形を含めた「等価雑音帯域幅」が必要です。
平均がゼロでも、電圧の揺らぎは残る
雑音電圧は正負に揺れるため、十分な時間にわたって平均するとゼロへ近づく場合があります。それでも瞬間ごとの値がゼロになるわけではありません。正負を打ち消さずに大きさを測るには、電圧を二乗して平均します。これが平均二乗電圧で、単位はV²です。その平方根を取ると、電圧と同じ単位Vの実効値(RMS)になります。
熱平衡にあり、対象の周波数で純粋な抵抗Rとして扱える部品について、古典的な熱雑音の式は次のように書けます。[1]
平均二乗電圧 = 4kBTRB
実効値 vrms = √(4kBTRB)
Tは絶対温度で単位はK(ケルビン)、Bは取り込む帯域幅で単位はHzです。kBはボルツマン定数で、ここでは現行SIの厳密な値1.380649 × 10−23 J/Kを使います。[2] 温度には摂氏の数字をそのまま入れません。例えば300 Kは約26.85℃です。
この式の電圧は、抵抗の両端を負荷の影響なしに観測する場合の値です。Bの範囲を一定の利得1で通し、それ以外を通さない理想的なフィルターを考えます。抵抗を別の回路につなぐと分圧や周波数応答が変わるため、その回路の出力へ無条件に当てはめることはできません。
1kΩの抵抗を、どれだけ広い帯域で見るか
温度300 K、抵抗1 kΩを例にします。雑音の平均二乗電圧が周波数1 Hz当たりにどれだけ分布するかを表す量が、電圧雑音のパワースペクトル密度です。正の周波数側だけで数える「片側」の定義では、Sv = 4kBTR、単位はV²/Hzになります。
その平方根は約4.07 nV/√Hzです。nVはナノボルト、10億分の1ボルトです。これは「すでに測定した雑音電圧」ではなく、帯域に対する密度です。実効値を求めるには、帯域幅の平方根を掛けます。Hzそのものを掛けると、単位も数値も合いません。
| 帯域幅B | 雑音電圧の実効値 |
|---|---|
| 100 Hz | 約40.7 nV |
| 1 kHz | 約128.7 nV |
| 10 kHz | 約407 nV |
| 100 kHz | 約1.287 µV |
1 kHzから100 kHzへ広げると帯域は100倍ですが、実効値は10倍です。加わるのは電圧の大きさそのものではなく、まず平均二乗の量だからです。同様に、帯域と温度を固定したまま抵抗を4倍にすると、実効値は2倍になります。
また、128.7 nVという実効値は「瞬間の電圧が必ずこの範囲に収まる」という上限ではありません。ランダムな揺らぎを統計的に表す尺度です。オシロスコープで見た最大値や、測定時間の異なるピーク・ツー・ピーク値と、そのまま比較しないようにします。
遮断周波数1kHzでも、雑音帯域は1kHzとは限らない
現実のローパスフィルターは、境界で急にすべてを遮るわけではありません。一段の理想的なRCローパスフィルターを考え、低い周波数での電圧利得を1、遮断周波数をfcとします。周波数fでの電圧利得Hの二乗は、次の形です。
|H(f)|² = 1 / {1 + (f/fc)²}
f = fcでは利得の二乗が1/2です。ここが通常いう−3 dBの遮断周波数であり、雑音がそこから先へ全く通らなくなる地点ではありません。

入力の雑音密度が一定なら、出力の平均二乗電圧は、各周波数で通過する割合を足し合わせて求められます。ここでは正の周波数全体について積分します。
vrms² = 4kBTR ∫0∞|H(f)|² df
この積分を等価雑音帯域幅と呼びます。低周波利得1という今回の条件では、同じ平均二乗雑音を通す矩形フィルターの幅に相当します。一次ローパスの式へ代入すると、変数をx = f/fcに置き換え、fc∫₀∞ dx/(1+x²) = πfc/2となります。
遮断周波数が1 kHzなら、等価雑音帯域幅は約1.571 kHz。先ほどと同じ300 K・1 kΩでは、実効値は約161.3 nVです。矩形の1 kHzで計算した128.7 nVより約25.3%大きくなります。遮断周波数だけを帯域幅の欄へ入れると、この裾の分を落としてしまいます。
抵抗を変えるときは、帯域も変わっていないかを見る
「抵抗を4倍にすると雑音電圧が2倍」という先ほどの比較には、帯域を固定する条件がありました。ところが、その抵抗自身がRCフィルターを構成する場合、抵抗を変えると遮断周波数も変わります。
一つの抵抗RとコンデンサCでできた、負荷のない理想RC回路では、fc = 1/(2πRC)です。この式と等価雑音帯域幅を組み合わせると、コンデンサ両端の平均二乗熱雑音は 4kBTR × πfc/2 = kBT/C となります。これは同じ古典的な平衡モデルからの計算です。
例えばRが1 kΩ、Cが約159.2 nFなら遮断周波数は約1 kHzで、雑音は約161.3 nVです。同じCのままRを100 kΩへ増やすと、遮断周波数は約10 Hzになります。抵抗の雑音密度は大きくなりますが、通す帯域が狭くなるため、このモデルで積分した雑音の実効値は変わりません。その代わり、回路が変化に追いつく時間は100倍になります。
これは、どんな回路でも抵抗値を無視してよいという意味ではありません。一定の帯域で抵抗単体を比べるのか、同じ容量を持つRC回路の出力を比べるのか。固定する条件を先に決めると、見かけ上違う結論を整理できます。
測定帯域を絞る前に、残したい変化を決める
ゆっくり変わるセンサーの値を読むなら、不要な高周波成分を通さないことで、熱雑音の実効値を小さくできます。一方、短いパルスや急な変化を見たいときに帯域を狭めすぎると、目的の信号まで丸くなり、応答も遅れます。雑音の数字だけを最小にするのではなく、必要な信号の周波数と待てる時間を合わせて決めます。
ここまでの数値は部品や測定器の実測値ではありません。熱平衡、一定の抵抗値、負荷の影響を除いた線形回路、そして量子効果を無視できる周波数範囲を仮定しています。高周波では、光子のエネルギーhfが熱の尺度kBTに比べて十分小さいかという条件にも注意が必要です。
実機では増幅器の電圧・電流雑音、低周波で増える1/f雑音、電源や外来電波の混入、部品の寄生成分も関わります。抵抗の熱雑音の計算だけで、測定系全体の揺らぎを説明したことにはなりません。まず密度と実効値を分け、次に実際のフィルターの形と負荷を含める。その順番で見ると、帯域を広げて増えた揺らぎが、どこまで予想できるかを判断しやすくなります。
出典
- Albert J. Williams 3rd, Principles of Oceanographic Instrument Systems: Sensors and Measurements, MIT OpenCourseWare、1983年1月作成・2004年2月改訂、6〜7ページ。抵抗の熱雑音と帯域幅の関係を参照。フィルター積分、表と図の数値は本稿の条件による独自計算です。
- NIST, Kelvin: Boltzmann Constant、2026年5月28日更新。現行SIのボルツマン定数の値と定義を参照。
