タグ: 機械学習

  • データ駆動型材料開発、AIの予測を実験へつなぐ仕組み

    データ駆動型材料開発、AIの予測を実験へつなぐ仕組み

    新しい材料を探すときは、成分だけでなく、作り方や測り方も考える必要があります。候補を計算で絞れても、実際に作り、望む性質が得られるか確かめる工程が続きます。材料研究におけるAIは、この長い過程のどこを助けるのでしょうか。

    JSTの2026年版の俯瞰報告書は、データとAIを材料の研究開発全体へ取り入れる動きを整理しています。そこにあるのは、候補を予測するモデルと、データを集める仕組み、実験を動かす装置を結び付ける課題です。AIの出力から次の実験へ、実験の結果から次の予測へ。この往復を追うと、それぞれの役割が見えてきます。[1]

    簡単にまとめると?

    • 材料研究のAIには、計算・実験・文献のデータを、試料や測定条件と結び付けて整えることが必要です。
    • AIが出す構造や安定性の予測と、その材料を実際に作って性質を確かめる工程は別です。
    • 実験結果を次の予測へ戻すには、機器とデータの連携に加え、研究者の知識や判断も関わります。

    まず、何を比べられるデータなのか

    材料を探すための情報は、実験結果だけではありません。物理法則に基づくシミュレーションの計算結果、論文に書かれた性質や製法も手掛かりになります。報告書が重視しているのは、こうした異なる種類の情報を、AIが利用できる形へまとめることです。[1]

    たとえば、ある材料の電気の通りやすさを比べるとします。値だけを並べても、測定時の温度や試料の作り方が異なれば、同じ条件での比較にはなりません。どの試料を、どの条件で測った結果なのかを、値と結び付けておく必要があります。これは説明のための例ですが、データを集めることと、比較に使えるように整えることの違いを表しています。

    計算値と実測値も、出所を残して扱います。物理計算には設定した条件があり、実測には試料と測定条件があります。機械学習は、そのデータから関係を学び、まだ調べていない候補の評価を助けます。計算と実験を一緒に使う場合も、何を根拠に予測したかをたどれることが大切です。

    候補を出すことと、作れることを確かめること

    AIの役割の一つは、広い候補の中から、詳しく調べる対象を選びやすくすることです。結晶を対象とする研究では、機械学習で原子の並び方の候補を生成し、その構造の安定性をエネルギー計算で評価する手法が研究されています。結晶の対称性を探索の条件に組み込む例もあります。[1]

    ここで得られる「安定性の評価」は、計算上の候補を判断する材料です。その構造を狙って合成できるか、作った試料が期待した性質を示すかは、別に確かめる必要があります。候補の生成、計算による評価、実験での検証を分けて読むと、「AIが提案した」という言葉から分かる範囲もはっきりします。

    候補を示すモデルに加えて、論文から材料の情報を取り出す大規模言語モデルや、実験画像から記録を作る技術も報告書で紹介されています。AIを使う場所は、予測結果を出す一点だけでなく、その前後で情報を整理する工程にも広がっています。[1]

    実験の結果を、次の選び方へ戻す

    予測と実験をつなぐ流れを、四つの役割に分けてみます。実際の研究では、これらを行き来しながら進めます。

    表1 材料研究でデータとAIを使う工程。資料[1]本文305〜308頁をもとにQuantum Seaが整理。
    工程 渡す情報 次へ進むときの確認
    データを整える 計算・実験・文献の情報と条件 何について、どの条件で得たデータか
    候補を絞る 提案した構造や、性質・安定性の予測 何を予測し、どの範囲を評価したか
    作って測る 合成条件と、試料を評価した結果 狙った試料ができ、必要な性質を示すか
    結果を戻す 予測と実験の対応、次に試す条件 実験結果を受けて探索をどう変えるか

    自動自律実験では、装置を動かすことに加え、得られた結果を使って次の条件を選ぶ仕組みが重要になります。報告書には、提案した合成手順を実行し、実験結果を学習して最適化する事例も取り上げられています。[1]

    この流れを動かすには、AIだけでなく、試料を作る装置、測定器、それらの動作を調整するソフトウェアも必要です。結果のデータを交換する決まりと、機器同士が通信する決まりは、それぞれ異なる役割を持ちます。予測がよくても実験へ指示を渡せない、測定できても結果を計算側へ返せない、という切れ目を埋めていく仕事です。報告書でも、機器の統合やデータ交換の標準化が課題として整理されています。[1]

    人は、研究の目的と確かめ方をつなぐ

    こうした仕組みでは、材料を扱う人の知識も重要です。どの性質を目指すか、候補をどの条件で作るか、結果をどう解釈するかには、材料や実験についての判断が関わります。

    報告書は、人の知識や経験をAIと組み合わせる「Human-in-the-loop」を重視しています。人が研究の流れに関わり、AIと実験の仕組みに専門知識を生かす考え方です。また、モデルや実験基盤そのものをよくする取り組みと、それらを使って実際の材料研究を進める取り組みを、両方育てる必要があるとしています。[1]

    材料研究のAIについて読むときは、何を入力し、何を予測し、その後に何を実験で確かめたのかを追ってみてください。候補を出す能力と、確かめながら研究を進める仕組みを分けて見ると、その成果が次の材料開発へどうつながるのかを捉えやすくなります。

    参考資料

    1. 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST CRDS)『研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2026年)』CRDS-FY2025-FR-06、2026年1月。N6.04「データ駆動型物質・材料開発」、本文305〜312頁(PDF322〜329頁)。2025年12月までの情報を中心に整理された資料です。報告書PDF/掲載ページ
  • MicrosoftのAFPD、ディスク故障の予測を検証と保守につなぐ

    MicrosoftのAFPD、ディスク故障の予測を検証と保守につなぐ

    データセンターで使うディスクは、同じように見えても、機種やファームウェア、使われ方が違います。故障の前に現れる兆候も一つではありません。すべてに同じ閾値を当てはめると、見逃す異常と、故障ではないのに拾ってしまう変化の両方が生まれます。

    Microsoftが紹介したAFPD(Azure Failure Prediction and Detection)のディスク向けの仕組みは、こうした違いを前提にしています。機種と故障種別に合わせた予測モデルを用意し、その予測を確かめてから、保守へつなぐ構成です。[1・2・3]

    簡単にまとめると?

    • AFPDは、ディスクの機種と故障種別ごとに予測モデルを用意します。
    • 予測を先に評価し、誤検知や見逃しを確かめながら段階的に保守へつなぎます。
    • LLMの出力だけで設備を動かさず、不可逆な操作には方針に基づく承認や人の確認を置きます。

    ディスクの内側と、周囲の動きを合わせて読む

    手がかりは、ディスクが持つ健康状態の情報だけではありません。資料ではSMARTなどの内部テレメトリーに加え、システム側のI/Oやイベント、エラーログ、温度や湿度などの環境情報を合わせています。テレメトリーは、運用中の状態を継続して集めた計測情報です。[2]

    単発の値を見るだけでなく、前回からの差分や変化の傾向、一定期間をまとめた統計量を特徴量にします。たとえばエラーの増え方を扱うには、その時点の件数だけでは足りません。いつ、どのように変わってきたかを、モデルが比較できる形に整える必要があります。[2]

    さらに、ディスクが完全に利用不能になった後の記録だけで学習するのではなく、本番の故障検知やシステムログから、より早い段階の不具合をラベルに使います。故障を知らせる時点を、利用者への影響が出る前へ近づける考え方です。[2]

    機種と故障種別の組合せに、モデルを用意する

    この仕組みの軸は、ドライブの機種 × 故障種別ごとにモデルを持つことです。機種が変われば使える信号も変わり、故障の種類が変われば、重視する特徴や判定の閾値も変わります。[2]

    そのため、一つの大きなモデルの成績だけで運用を判断するのではなく、それぞれのモデルを学習し、検証し、更新できる構成にしています。ある故障を拾うルールが有効でも、それだけで別の故障まで見つかるとは限らないからです。

    正解率だけで、使える予測とは決めない

    故障がまれなデータでは、多くを「正常」と答えるだけでも、全体の正解率は高く見えます。運用で知りたいのは、故障と判断したものがどれだけ本当だったか、そして実際の故障をどれだけ拾えたかです。

    前者が適合率に当たる指標、後者が再現率(Recall)です。資料はHITを「検知したうち実際に正しかった割合」と定義し、HITと再現率が閾値を満たすかを、本番導入の判断に使っています。見逃しを減らすことと、不要な対応を増やさないことを、両方確かめるためです。[2]

    学習段階の受入基準として、正解率90%超、適合率75%超、再現率70%超、F1スコア70%超も示されています。これらはモデルを受け入れる基準であり、すべての機種で達成した実績値ではありません。[2]

    予測だけを動かしてから、保守へつなぐ

    本番へ広く展開する前には、予測を日次で評価しながら、実際の運用操作は起こさない検証段階を置きます。過去の故障結果と照らし合わせ、HITと再現率が基準を下回れば、学習や特徴量の見直しへ戻ります。[2]

    導入後も、少数の対象で先に動かすカナリア展開などを使い、段階的に適用します。誤検知や見逃しを追い、ハードウェアやファームウェアの変化によって予測が合わなくなれば再学習する。モデルは作って終わりではなく、運用に合わせて保つ対象です。[2]

    生成AIの説明と、設備を動かす判断を分ける

    発表の後半では、既知の故障を捉えるルール、機械学習モデル、原因分析を助けるAIエージェントを重ねる構成へ話が広がります。大規模言語モデル(LLM)は、証拠をまとめたり、原因の候補や対応案を整理したりする役割です。[2]

    ここで明示されているのは、LLMの出力だけを根拠に、設備群への操作を実行しないという境界です。不可逆な操作には、定めた方針による承認や人の確認を必要とし、実行の根拠、確信度、結果を残します。[2]

    新しい自動対応も、過去データによる評価、操作をしない観察運転、限定した本番適用という順に進めます。予測を当てる技術と、予測に基づいて安全に動く技術は、つながっていても同じではありません。[2]

    故障を早く知る価値を、運用で確かめる

    AFPDのディスク向け発表から見えてくるのは、予測モデルだけを高度化する設計ではありません。機種ごとの信号を整え、見逃しと誤検知を確かめ、影響の小さい範囲から保守へつなぐ。その連続した手順が、予測を使えるものにします。

    故障の兆候を早く知れれば、対応を選ぶ時間ができます。その時間を役立てるには、どの予測を、どの条件で、どの操作へつなぐかまで決めておくことが大切です。

    Microsoftの事業をもう少し知る

    Azureを含むクラウド、業務ソフト、Windowsなど、Microsoft全体の事業についてはcyclewaveの企業解説にまとめています。

    参考資料

    2026年9月27日確認。講演の公開スライドをもとに構成しています。

    [1]Open Compute Project:2026 OCP APAC Summit 公式セッション一覧

    [2]Microsoft:AFPD Disk Failure Prediction and Detection and AI Transformation(講演スライド)

    [3]Microsoft:Azure Failure Prediction & Detection の概要(2025年11月4日)