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  • PDMSナノ膜のCO₂分離、膜の透過性能だけでは回収率が決まらない

    PDMSナノ膜のCO₂分離、膜の透過性能だけでは回収率が決まらない

    CO₂を分ける膜を薄くすると、気体が通り抜ける距離を短くできます。ただし、膜がどれだけ通しやすいかという数字と、流れてくるCO₂を装置がどれだけ取り除けるかという数字は、同じではありません。

    その違いが見えるのが、藤川茂紀氏らが2019年に報告した、PDMS(ポリジメチルシロキサン)のナノ膜です。膜の薄さを変えた測定と、窒素に少量のCO₂を混ぜた分離実験を分けて読むと、材料を選ぶ際に何を比較すべきかが見えてきます。[1]

    簡単にまとめると?

    • 膜の透過量を面積・時間・対象気体の分圧差でそろえたpermeanceと、膜厚も考慮するpermeabilityは、比較する対象が異なります。
    • 約40,000 GPUという値は34 nm膜の測定であり、希薄なCO₂を分けた150 nm膜の実験とは条件を分ける必要があります。
    • 希薄気体の実験では、膜の厚さだけでなく、供給する気体や透過側の流し方も除去性能に関わります。

    「よく通す」と「よく選び分ける」は別の性質

    この研究で使うpermeanceは、膜を通る気体の量を、膜面積・時間・膜の両側での対象気体の分圧差で割って比べる量です。論文ではGPUという単位で示しています。温度や気体の種類などの条件をそろえれば、大きい値ほど、その膜が気体を通しやすいことを表します。

    一方、permeabilityは膜厚を織り込んだ透過係数で、論文ではbarrerという単位を使います。単に薄いから通しやすいのか、材料やその状態によって通り方が違うのかを考えるための量です。研究では、膜を薄くするとpermeanceは増える一方、薄い領域では膜厚を考慮したpermeabilityが低下しました。薄さを半分にすれば透過量が必ず2倍になる、という関係をどこまでも当てはめられるわけではありません。[1、Fig.3]

    著者らは、薄い膜では内部の拡散だけでなく、表面で気体が取り込まれる過程も関わると考察しています。ここは、この測定結果に対する機構の解釈です。

    CO₂と窒素をどれだけ選び分けるかも別に見ます。研究では両者を別々に通し、その透過性の比を評価しました。CO₂/N₂の選択性が約10だからといって、混合気体から得られる製品のCO₂純度が90%や99%になる、という意味ではありません。

    34 nmの膜も、測定時には支持体の上にある

    薄さを追求すると、膜が破れたり、小さな穴から気体が漏れたりする問題が出てきます。漏れる経路ができれば、材料が本来持つ選び分ける働きを生かせません。

    研究チームは、基板上の犠牲層の上にPDMS膜を作り、その犠牲層を溶かして膜を剥がしました。気体の透過を測る際は、エタノール中で多孔質のPAN(ポリアクリロニトリル)支持体へ移しています。「自立した膜を作れる」という製法の特徴と、測定中に支持体を使わないことを混同しないのが大切です。100 nm未満の膜は、空気中へ持ち上げる際の形状維持が難しかったとも記されています。[1、pp.1351–1352]

    単一の気体を使う測定は25±1℃で行われ、厚さ34 nmの膜でCO₂のpermeanceが約40,000 GPUに達しました。著者らは、選択性が保たれたことや電子顕微鏡の観察を、欠陥の少ない膜ができた根拠にしています。この値を、実際の空気からCO₂を回収した装置の性能として読むことはできません。

    permeanceが約13倍でも、CO₂濃度の減少割合は約3.6倍

    希薄なCO₂を分ける実験では、窒素中のCO₂濃度を約1000 ppmにし、常圧で供給しています。使った膜は150 nmと4.4 μmで、34 nmの膜とは別です。膜面積は0.785 cm²、CO₂の分圧差は約100 Pa。供給側とスイープ側の気体の流量は、それぞれ100 sccmとされています。スイープは、透過側に気体を流して、膜を通ってきたCO₂を運び去る方法です。[1、p.1353]

    同じ希薄気体の実験で使った2種類の膜。数値は原論文Table 1から項目を選んで整理。
    比較する量 4.4 μm膜 0.15 μm(150 nm)膜
    論文記載のpermeance 810 GPU 10,750 GPU
    供給気体のCO₂濃度 996 ppm 996 ppm
    膜を通らず残った側のCO₂濃度 950 ppm 832 ppm
    供給濃度からの減少割合 約4.6% 約16.5%

    最後の行は、供給濃度から残った側の濃度を引き、供給濃度で割った値です。たとえば薄い膜では、(996−832)÷996×100で約16.5%となります。原表にも同じ正の値が載っていますが、脚注の式は引き算の順序が逆で、表の値と符号が一致していません。ここでは濃度の減少割合として示しています。

    この2つを比べると、permeanceは約13倍、濃度から計算した減少割合は約3.6倍です。薄い膜による改善は確認できますが、膜の指標と実験装置での除去性能は、同じ倍率では増えていません。また、この濃度差からの評価を、流量条件の異なる装置の物質収支に基づく回収率へ、そのまま置き換えることもできません。

    論文は、スイープ流量を大きくすると透過が改善することも述べています。透過側の膜表面近くからCO₂を運び去る働きがあるためです。したがって、膜だけを交換した場合の比較と、流量や装置構成まで変えた場合の比較は分けて考える必要があります。

    選ぶ前に、膜の数字と運転条件をそろえる

    材料候補を比較するなら、まず同じ気体、温度、圧力条件でのpermeanceと選択性を見ます。そのうえで、膜厚、支持体、気体組成、膜面積、供給側と透過側の流量を確認します。単一のCO₂を使った高い透過量と、窒素に薄く混ぜたCO₂の除去結果を一つの性能値にまとめないことが、比較の出発点になります。

    回収設備として選ぶ段階では、求めるCO₂純度や回収量に加え、スイープや圧力差を作るためのエネルギー、湿気・不純物を含む気体への対応、長く運転した場合の変化が判断材料になります。JSTの俯瞰報告も、分離材料の性能だけでなく、原料の組成や不純物、耐久性、費用などを含めてプロセス全体を考える必要性を整理しています。[2、N1.04]

    今回の原著が示したのは、膜の薄さと透過特性の関係、そして条件をそろえた希薄CO₂/N₂混合気体での分離結果です。実際の大気には湿気や他の成分もあります。ナノ膜の透過量を出発点にしながら、回収したい気体と運転条件に合わせて次の試験を選ぶ、という使い方ができます。

    参考資料

    1. Shigenori Fujikawa, Miho Ariyoshi, Roman Selyanchyn, Toyoki Kunitake. Ultra-fast, Selective CO₂ Permeation by Free-standing Siloxane Nanomembranes. Chemistry Letters 48(11), 1351–1354(2019)。九州大学I²CNER公開PDF。
    2. 科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST CRDS)。研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2026年)、N1.04「分離技術」、印刷98–104頁。