タグ: ミリ波量子読み出し

  • NISTら、34.7 GHzの共振器で超伝導量子ビットを読む—周波数を離して遷移を抑える

    NISTら、34.7 GHzの共振器で超伝導量子ビットを読む—周波数を離して遷移を抑える

    量子ビットを正しく読むには、見分けるための信号を強めたい一方、その信号で状態を変えてしまうことは避けたいところです。NISTなどの研究グループは、超伝導量子ビットの読み出しに使う電磁波の周波数を大きく離すことで、この問題に取り組みました。2026年10月30日付のPhysical Review Lettersに掲載された研究です。

    簡単にまとめると?

    • 約3.1 GHzの超伝導量子ビットを、約34.7 GHzの共振器で読み出します。周波数の比は10倍以上です。
    • 読み出し信号によって望まない共鳴遷移が起きるのを抑え、100個を超える光子を使う条件で99%を超える読み出し忠実度を示しました。
    • 量子状態への影響がすべて消えたわけではありません。読み出しの正確さ、状態が保たれる確率、他の装置との接続は分けて評価する必要があります。

    共振器の変化から量子ビットを読む

    研究で使うトランズモンは、超伝導回路で作る量子ビットの一種です。基底状態を0、最初の励起状態を1として使いますが、実際の回路にはそれより高いエネルギーの状態もあります。読み出すための電磁波がそれらの状態へ移すきっかけになると、もともと知りたかった情報を測定の途中で変えてしまいます。

    そこで量子ビットを直接強く揺さぶる代わりに、電磁波が共鳴する空洞である「共振器」を組み合わせます。量子ビットが0か1かによって、共振器が応答する周波数がわずかに変わります。その変化を、共振器へ送り込んだ信号から読み取る仕組みです。

    信号が弱いと、0と1に対応する測定結果が雑音の中で重なり、区別しにくくなります。信号を強くすれば見分けやすくなりますが、望まない状態遷移を増やすおそれがあります。この両立が今回の焦点です。

    量子ビットはそのまま、読み出す周波数を上げる

    研究チームは、量子ビットの周波数を約3.1 GHzに保ち、読み出し共振器を約34.7 GHzのミリ波帯へ移しました。ミリ波とは、波長がミリメートル程度の電磁波です。両者の周波数比を10倍以上にすることで、読み出し信号と望まない遷移が共鳴する条件を避けやすくしています。

    周波数を離すことは、相互作用を切ることとは異なります。この装置では量子ビットと共振器の結合を保ち、量子ビットの状態に応じた共振器の変化を利用します。強い信号を入れても情報を読むための応答は残し、別の状態へ移してしまう共鳴を抑える、という役割分担です。

    公開されている2026年3月の著者版には、アルミニウム製の3次元共振器とトランズモンを組み合わせ、希釈冷凍機の10ミリケルビンの段に搭載した条件が記されています。ミリ波帯へ移したことは、室温で動かせるようになったという意味ではありません。

    99%を超える値は、何の確率なのか

    掲載版の要旨では、100個を超える光子を使う読み出しで99%を超える測定忠実度を得たと報告しています。ここでいう忠実度は、準備した0または1を、測定結果から正しく分類できる確率です。量子計算全体が99%の確率で正解したという値ではありません。

    3月の著者版の図4では、読み出し時間を780ナノ秒に固定し、共振器内の平均光子数を増やしたときの結果を比較しています。平均109個の条件では、0と1のどちらも正しく分類する確率が99.2%でした。光子を増やすと、雑音のために重なっていた二つの測定結果の分布が、より見分けやすくなる様子が示されています。この細かな条件と数値は著者版の記述であり、掲載版全文との一致を確認した値としては扱いません。

    また、量子限界に近い低雑音の増幅器を使わずに得た結果である点も、掲載版の要旨で確認できます。これは増幅器が不要という意味ではなく、今回の読み出し回路の構成を示す条件です。

    「読めた」と「状態が保たれた」は別に確かめる

    状態の分類が正確でも、測定の前後で状態が変わっていないとは限りません。たとえば励起状態の1は、何もしなくても時間とともに0へ緩和します。読み出しによる余分な共鳴遷移が抑えられた場合にも、この自然な変化は残ります。

    著者版では、強い信号を加える前後に量子ビットを測り、信号の強さに応じて特定の遷移が増えないかを調べています。一方で、さらに強い駆動では高い準位に広がる別の限界も報告しており、いくらでも光子を増やせるわけではありません。量子ビットの寿命、測定時間、状態を準備する誤差、読み出し回路の雑音なども改善の対象です。

    したがって、「量子状態を一切変えずに観察できる」という読み方は避けたいところです。今回示されたのは、望まない遷移の一つの原因を、周波数の大きな隔たりで抑えながら、高い読み出し忠実度を得られることです。

    次に比べるべきは、同じ条件での読み出しと拡張性

    この方式をほかの読み出し方法と比べるなら、忠実度だけでなく、測定時間、平均光子数、量子ビットの寿命、増幅器や冷却の条件をそろえて見る必要があります。強い信号への耐性と、測定後に状態が残る度合いを、別々に確認することも大切です。

    著者らは、ミリ波を利用する他の量子系との接続にも可能性を見ています。ただし、この研究で異なる方式を結ぶ量子ネットワークが完成したわけではありません。まずは量子ビットと読み出し共振器の周波数を大きく分けても、状態を読み取る結合を使えることを示した段階です。大規模な回路に組み込んだときの配線、雑音、同時読み出しを含めて、利点を確かめていくことになります。

    出典