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  • 二酸化マンガン触媒、0℃付近で寿命が延びる二つの反応の釣り合い

    二酸化マンガン触媒、0℃付近で寿命が延びる二つの反応の釣り合い

    水を電気分解する触媒には、反応を速めることと、長く使えることの両方が求められます。ただ、温度を上げて反応を速くすると、触媒が失われる反応まで進みやすくなる場合があります。理化学研究所と東京科学大学などの研究チームは、二酸化マンガンを使う実験で、この二つの速さを温度によって調整できることを示しました。

    2026年10月21日にNature Chemistryで公開された研究では、触媒の寿命が長くなる温度は0℃付近でした。さらに冷やすと、今度は寿命が短くなります。材料を新しく作り替えるだけでなく、材料を取り巻く水溶液の温度と状態を、触媒を長持ちさせるための条件として調べた成果です。

    簡単にまとめると?

    • 調べた二酸化マンガン触媒では、0℃付近まで冷却すると、酸素を作る反応以上に触媒の溶出が抑えられました。
    • 0℃より低い領域では溶出が再び速くなり、冷やし続ければ寿命が延びるわけではありませんでした。
    • 触媒と電解液を指定した実験です。冷却を含む装置全体の消費エネルギーや、水素製造コストが改善したという結果ではありません。

    酸素を作る反応と、触媒を失う反応

    水の電気分解では、水素が生じる側と酸素が生じる側があります。今回の対象は、酸素側の電極で起こる「酸素発生反応」、英語の略称でOERです。研究ではγ型の二酸化マンガン(γ-MnO2)を触媒として使いました。

    この材料は反応を助ける一方、別の反応によって過マンガン酸イオン(MnO4−)になると、水溶液へ溶け出します。必要な酸素を作る反応が進んでも、そのたびに触媒の材料が失われていけば、同じ電極を長く使うことは難しくなります。

    そのため、反応速度だけを比べて触媒の良し悪しを決めることはできません。たとえば、一度に多くの酸素を作れても短時間で電極の交換が必要になる条件と、速度は低くても長く動く条件では、用途によって選び方が変わります。今回の研究は、その比較に温度という調整項目を加えています。

    冷却の効き方が、二つの反応で異なる

    研究チームは、硫酸を含む電解液の温度を80℃から−12℃まで変え、酸素発生とマンガンの溶出を分けて調べました。0℃付近まで温度を下げると、酸素発生は遅くなります。しかし、過マンガン酸イオンの生成はそれより大きく抑えられました。目的の反応と劣化の反応が、温度に同じ割合で応答していたわけではないのです。

    この違いは、反応を進めるために電極へ与える電位を変えた測定にも現れます。酸素発生が進みやすくなる領域と、触媒が溶出しやすくなる領域の間隔は、温度によって変わりました。単に「冷たい水では反応が遅い」とまとめると、触媒を保ちながら反応させられる条件の広がりを見落としてしまいます。

    ところが、0℃より低い領域では、温度を下げるほど溶出が再び速くなりました。一般に温度を下げると反応が遅くなるというアレニウス則とは逆の温度応答で、「アンチアレニウス挙動」と呼ばれます。ここで速くなったのは触媒の劣化側です。酸素を作る反応まで冷却によって速くなった、という意味ではありません。

    「長寿命」は、決めた条件で測っている

    寿命の試験では、電極の面積1平方センチメートル当たり100ミリアンペアの電流を流し続けました。一定の電流を維持するために必要な電極電位が、初めに安定した値より0.2ボルト高くなるまでを寿命と定義しています。触媒が完全になくなる時刻や、製品の交換時期をそのまま測った値ではありません。

    この条件で、寿命は0℃付近で長くなり、さらに低温では再び短くなりました。補足実験では、より小さい電流密度や電解液の組成を変えた条件も調べています。したがって、比較するときには温度だけでなく、電流密度、電解液、寿命の判定基準を一緒に読む必要があります。

    確かめたいこと 比較する条件 結果の読み方
    酸素を作りやすいか 温度と電極へ与える電位 反応速度の変化を比べる
    触媒を保てるか 過マンガン酸イオンの生成量 材料が溶出する反応を調べる
    長く動かせるか 一定電流と電位上昇の基準 定義した寿命を比較する
    装置として得か 冷却、電力、交換などを含む条件 今回の触媒試験だけでは決まらない
    性能を比べる際の着眼点を整理したもの。実測データを描き直した図ではありません。

    0℃より低い水溶液は、すべて氷とは限らない

    低温で何が変わるのかを調べるため、研究では水分子の状態を反映するラマン分光測定も行いました。また、−8℃の電解液に揺さぶりを与えると氷が成長する様子を観察しています。液体の状態が続いた後、刺激をきっかけに凍り始める過冷却を確かめる手掛かりです。

    ただし、純水の凝固点と、酸や塩を溶かした電解液の凝固点は同じではありません。0℃より低いという温度表示だけで、過冷却や氷の有無を判定することはできません。補足資料でも、電極周囲が見た目には液体だった条件で、微細な不均一性や局所的な温度・濃度の差を完全には除外できないとしています。

    今回の結果からは、水の状態と劣化反応の関係をさらに調べる道筋が見えてきます。一方で、どの触媒にも0℃が最適だとはいえず、寒冷地でそのまま効率のよい水素製造装置になるとも限りません。目的の反応、材料の損失、水溶液の状態を分けて測ることが、温度を設計条件として使うための出発点になります。

    出典

    1. Aufandra Cakra Wardhana et al., Cooling water to near freezing breaks the activity–stability trade-off of water oxidation electrocatalysis, Nature Chemistry(2026年10月21日)。公開要旨、図2〜4、Supplementary InformationのNote 7・8、図11・15、表14・17。
    2. 理化学研究所ほか、0℃付近で長寿命化する水の電気分解触媒(2026年10月21日)。同じ共同研究の発表。