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  • ラビ振動、共鳴から離すと速く振動しても励起しにくくなる理由

    ラビ振動、共鳴から離すと速く振動しても励起しにくくなる理由

    量子ビットへ信号を長く当てれば、それだけ確実に状態が変わるのでしょうか。二つのエネルギー準位を使う理想的な系では、励起状態が出る確率はいったん増えた後、再び減っていきます。信号を当て続けている間のこの周期的な変化を、ラビ振動と呼びます。

    さらに、信号の周波数を共鳴から少しずらすと、振動は速くなる一方、確率の山は低くなります。「速く振動する」と「狙った状態へ確実に移せる」は、別のことなのです。

    簡単にまとめると?

    • ラビ振動は、駆動信号を当てる時間に応じて、二準位系の測定確率が周期的に変わる現象です。
    • 駆動の強さを固定したまま共鳴から離すと、理想式では振動の周期が短くなり、励起確率の上限は下がります。
    • 共鳴時のπパルスの長さだけを使っても、周波数ずれは補えません。振動の速さと山の高さを一緒に読む必要があります。

    励起確率は、当てた時間に比例し続けない

    低いエネルギーの状態を|g〉、高い状態を|e〉とします。毎回|g〉から出発し、一定の強さと周波数の信号を時間tだけ当て、最後にどちらの状態かを測ります。同じtで準備と測定を繰り返し、|e〉が出る割合を集めれば、励起確率Pe(t)を推定できます。一回の測定から滑らかな振動曲線が見えるわけではありません。

    ここでは、二つの準位だけが関与し、駆動中の緩和や位相の乱れを無視できる場合を考えます。また、駆動周波数と遷移周波数が近く、速く変化する相互作用の成分を省く回転波近似が使える範囲です。これは、任意に強い信号や任意に短いパルスまで通用する式ではありません。[1]

    共鳴に合わせると、二つの状態の振幅は駆動によって連続的に変わります。励起状態の確率が1に達しても、同じ駆動を続ければ、その後は基底状態の確率が増えていきます。励起を「一度起きたら積み重なる出来事」として数える描像では、この往復を表せません。

    式のΩは、信号そのものの周波数とは違う

    以下では、Ωを共鳴時のラビ角周波数とし、共鳴時の励起確率がsin²(Ωt/2)になる規約を使います。Ωの単位はrad/sです。信号の搬送波の角周波数ωとは異なり、Ωは遷移を駆動する結合の強さを表します。電気双極子で駆動する場合には、遷移双極子と電場の結び付きで決まります。[1]

    駆動の角周波数ωと、二準位間の遷移角周波数ω₀との差を、離調 Δ=ω−ω₀と定義します。離調は、共鳴からどれだけ周波数がずれたかを表す量です。このとき理想的な励起確率は、

    Pe(t)=Ω²/(Ω²+Δ²) × sin²(√(Ω²+Δ²) t/2)

    となります。[2] 式は二つに分けて読めます。前の係数Ω²/(Ω²+Δ²)が山の高さ、すなわち到達できる励起確率の上限。sin²の中の√(Ω²+Δ²)が、離調も含めた振動の角周波数です。

    資料によっては、ラビ周波数という名前をこのΩの半分へ使う場合があります。[1] 周波数の数字だけを移すと、パルス時間が2倍ずれることになります。sinの引数に1/2があるか、角周波数をHzへ直すための2πを含むかまで、式と定義をそろえて読む必要があります。

    共鳴から離すと、速くても山は低くなる

    Ωを一定に保ち、離調の大きさ|Δ|だけを増やすと、分母のΩ²+Δ²は大きくなります。そのため山の高さは下がります。同時に、その平方根は大きくなるため、山から次の山までの時間は短くなります。これが「速く振動するのに、十分に励起できない」という結果の理由です。

    具体例として、共鳴時のラビ周波数Ω/(2π)を100 kHzに設定します。緩和のない上の式から計算すると、次の値になります。これは説明のための理想計算で、特定の量子ビットの測定結果ではありません。

    駆動の強さを固定した場合の離調の影響
    |Δ|/(2π) 確率の上限 振動の周期 最初の山
    0 kHz 100% 10 μs 5 μs
    100 kHz 50% 約7.07 μs 約3.54 μs
    200 kHz 20% 約4.47 μs 約2.24 μs

    100 kHz離調した場合は、約3.54 μsで最初の山に着きます。しかし、その高さは50%です。時間をもう少し延ばしても、理想式の上限を超えて100%には到達しません。パルスを長くする操作と、周波数を共鳴へ合わせる操作は、同じ補正にはならないのです。

    πパルスは、共鳴と結合の強さに結び付いた時間

    共鳴時にΩt=πとなるパルスをπパルスと呼びます。この例では5 μsで、|g〉から|e〉へ完全に移す理想的な操作になります。πは時間の単位ではなく、状態の回転角を表します。駆動を弱めてΩが半分になれば、同じ回転に必要な時間は2倍になります。

    一方、100 kHzの離調があるのに、共鳴時と同じ5 μsのパルスを使うと、励起確率は約31.7%です。すでに最初の山を過ぎて下がり始めているため、上限の50%にも届きません。この値も上の式への代入結果です。

    パルスを調整するときは、まず周波数を調べ、共鳴近くで駆動時間を変えた測定から振動を捉える、という順序に意味があります。周期だけを見て速い操作ができたと判断すると、山が低くなった原因を見落としかねません。

    小さな山を、離調だけのせいにしない

    実際の測定では、励起確率の山が低い理由は一つではありません。準備や読み出しの誤差、駆動強度のばらつき、緩和や位相の乱れでも、観測される振動のコントラストは下がり得ます。理想式に合う離調を一つ見つけただけで、原因を特定したことにはなりません。[1]

    例えば周波数を走査しながら、各周波数で駆動時間も変えれば、山の高さと周期が一緒にどう変わるかを比較できます。[2] さらに、初期状態と読み出しの確認も必要です。振動が減衰していく場合には、今回の損失のない式をそのまま当てはめず、緩和を含むモデルを検討します。

    ラムゼー干渉は、二つのパルスの間に信号を止めて、待つ間に蓄積する位相差を読みます。今回のラビ振動で変えたのは、信号を当てている時間です。どちらも二準位系の制御ですが、何を走査し、どの時間に情報が蓄積するかが異なります。

    参考資料

    1. [1] Franz Kärtner, MIT OpenCourseWare, 6.974 Fundamentals of Photonics: Quantum Electronics, Spring 2006, Chapter 6: Interaction of Light and Matter。6.1〜6.3節および6.5節。二準位近似、駆動との結合、回転波近似、共鳴時の確率振動とコヒーレンス。資料中のΩrは、本稿のΩ/2に相当します。
    2. [2] MIT OpenCourseWare, 5.74 Introductory Quantum Mechanics II, Spring 2009, Resonant driving of two-level system。PDF 2〜3ページ。離調に対する遷移確率の式と時間変化。資料の結合Vを本稿ではΩと表記しています。表と5 μsの数値例は、その式から独自に計算しました。