MRIで試料の性質を調べるとき、信号が変わった理由が一つとは限りません。酸性度を示すpHに反応する造影剤でも、その場所に造影剤が多く集まれば信号は変わります。pHを測るには、この二つの影響を切り分ける必要があります。
東京科学大学、生命創成探究センター・分子科学研究所、大阪大学などの研究チームは、内側の核と外側のゲルに異なる役割を持たせたナノ粒子を改良しました。ゲルをつなぐ分子の構造を変え、二種類のMRI測定値の比からpHを読み取る方法です。論文は2026年9月23日に『Small』で公開され、10月23日に研究機関が発表しました。今回示されたのは、溶液と血清を含む緩衝液での測定結果です。
簡単にまとめると?
- pHに応じて変わる外側のゲルと、比較の基準になる内側の核を、一つの粒子に組み合わせました。
- ゲルの架橋を調整し、1テスラのMRIでpH 6.0~7.5を0.5刻みで識別しました。確かめた粒子濃度は0.50~1.50 wt%です。
- 単に画像の明るさを割り算する方法ではありません。緩和時間から背景の寄与を差し引いた量を比べます。動物や人の体内での診断性能は、今後の課題です。
濃くなったのか、pHが変わったのか
MRIは、水素の原子核などが持つ磁気的な性質を利用します。電磁波のパルスを与えた後、磁化が元の状態へ戻る過程には、縦方向の回復を表すT1と、横方向のそろい方が失われる過程を表すT2という時間の尺度があります。
造影剤は周囲の水のこうした緩和を変えます。通常、同じ造影剤でも量が増えれば、緩和に与える効果も大きくなります。pHに応答する材料では、そこへpHによる変化が重なるため、一つの測定値だけでは理由を見分けにくくなります。
そこで研究チームが使うのが、レシオ、つまり比を取る考え方です。pHに敏感な測定値を、pHが変わっても比較的安定した測定値で割れば、両方に共通する濃度の影響を取り除ける可能性があります。ただし、二つの量が同じ濃度に比例するなど、計算の前提が成り立つ範囲で使う必要があります。
核は基準、ゲルの殻はpHへの応答を担う
粒子の内側には、ガドリニウム錯体を結び付けたシリカの核があります。外側を覆うのは、ポリメタクリル酸を主成分とするハイドロゲルです。水を含む高分子の網目が、pHに応じて膨らんだり縮んだりします。
今回の改良点は、その網目をつなぐ「架橋」の設計にあります。研究チームは、より長いエチレングリコール部分を持つテトラエチレングリコールジメタクリレートを使いました。網目の柔軟さや水との関わりを変え、pH 6.0~7.5付近で応答しやすくする狙いです。
同じ高分子でも、単独で浮かぶゲルと、硬い核の周囲に付いたゲルでは、形を変える際の条件が違います。論文では、単独のゲルで有効だった架橋条件をそのまま移しても、核と殻を組み合わせた粒子では十分な応答が得られず、凝集する場合もあったと報告しています。材料を組み合わせた後の構造に合わせて、つなぎ方を調整した点が重要です。
改良した粒子では、pHが下がるとT2が短くなり、T1はpHに対してほぼ一定でした。殻が縮むことで水と高分子の局所的な環境が変わり、横緩和へ強く影響すると考えられています。ただし、水の運動、磁化の移動、局所的な磁場の不均一さなど複数の機構が候補であり、一つだけが原因と確定したわけではありません。
比にするのは、背景を除いた緩和速度
ここでT1、T2と、論文に出てくるr1、r2を分けておくと、測定の意味が明確になります。Tは時間、1/Tは緩和の速さです。小文字のrは、粒子が単位濃度あたりに緩和速度をどれだけ増やすかを表す緩和能です。
測定した緩和速度には、粒子の効果に加えて溶媒自体の寄与も含まれます。その背景を差し引くと、縦方向の増分はr1×粒子濃度、横方向の増分はr2×粒子濃度と表せます。同じ濃度が掛かっているため、横の増分を縦の増分で割ると、濃度が消えてr2/r1が残る、という仕組みです。
例えば、pHを変えずに粒子濃度だけを2倍にした場合、両方の増分が2倍になれば比は変わりません。一方、pHが変わり、r2が大きく変化してr1がほぼ一定なら、比が変わります。これは原理を説明する例であり、どんな濃度でも比例関係が成立することを意味しません。
論文の計算は、T1・T2のマップから、この背景補正を含む比を求めるものです。撮像条件にも左右されるT1強調画像とT2強調画像の明るさを、そのまま割ればよいという話とは異なります。
溶液で確かめた範囲を、体内での測定へどうつなぐか
1テスラの装置で、粒子濃度0.50~1.50 wt%の試料を撮像したところ、pH 6.0、6.5、7.0、7.5を比の画像で識別できました。wt%は質量に基づく濃度です。濃度を縦に、pHを横に並べた原資料の画像では、同じpHの列は濃度を変えても近い色を保ち、pHが異なる列では色が変わります。色は比の値を表示したもので、酸性度そのものを直接撮影した写真ではありません。
| 確認する条件 | 今回の結果と読み方 |
|---|---|
| 溶液中・1テスラ | pH 6.0~7.5を0.5刻みで識別。濃度0.50~1.50 wt%の範囲で確認。 |
| 10%のウシ胎児血清を含む緩衝液 | pH 6.5と7.5を識別。ただし比の絶対値は変わり、二つのpHの差も小さくなった。 |
| より強い酸性 | pH 5.5以下では大きな凝集体が現れた。測定範囲をそのまま広げられるわけではない。 |
| 動物・人の体内 | 今回の実証範囲に含まれない。粒子が届く場所や校正、撮像条件を含む検証が必要。 |
血清を加えた結果は、生体に近い要素を一つ増やした試験です。それだけで血液中や腫瘍内の測定が成立したとはいえません。環境が変わると比の値も変わったことは、実際の用途に合わせたpHの校正が重要であることを示しています。
磁場の強さも条件の一つです。論文では9.4テスラでも横緩和のpH応答を調べていますが、縦緩和への粒子の寄与は溶媒に近づきました。ガドリニウムの量を増やすと縦緩和への効果を高められる一方、比の変化幅が小さくなるため、装置や撮像時間に応じた調整が必要になります。
今回の成果は、pHと濃度が一緒に動く測定上の問題を、粒子の内部構造と二つの測定量の組み合わせで解く試みです。材料の設計を評価する際には、応答が大きいことに加え、濃度、溶液の組成、磁場を変えても比較の基準が保たれるかを見ると、次の課題まで捉えやすくなります。
出典
- Ken Kato et al., A Ratiometric MRI Probe With a Tuned Crosslinked Network for Quantitative Imaging of Physiological pH, Small, e75796(2026年9月23日公開)。本文の式1~3、図2~8と各節を参照。論文はCC BY 4.0で公開されています。原図は転載していません。
- 東京科学大学・自然科学研究機構ほか、MRIで体内pH定量を可能にするナノ粒子造影剤を開発-がんと正常組織のpHの違いを定量できる造影剤を開発-(2026年10月23日、共同研究の発表)。論文とは独立した追試ではありません。
