同じ白い光でも、途中で横へ散らばる光と、そのまま先へ届く光では色の割合が変わります。大気中の分子による散乱はその一例です。光を散らす小さなものが、どの波長にどれくらい強く応答するかが関わっています。
レイリー散乱は、光の波長に比べて十分に小さな散乱体を考えるときに現れる散乱です。よく使われる「波長の4乗に反比例する」という関係には、サイズだけでなく、物質の応答についても条件があります。ここではその条件を押さえながら、二つの波長を比べてみます。
簡単にまとめると?
- 光の電場で物質内の電荷が揺れ、その応答が周囲へ光を放射します。散乱の強さは波長と物質の両方に依存します。
- 同じ散乱体で、共鳴から十分離れて物質の応答がほぼ変わらない範囲なら、散乱断面積はおおよそ波長の4乗に反比例します。
- 450 nmと650 nmでは、この近似による散乱断面積の比は約4.35です。観測される光の明るさや空の色が、そのまま4.35倍になるわけではありません。
光で揺らされた電荷が、周囲へ光を放射する
光には振動する電場があります。物質に光が当たると、その電場によって電子などの電荷の分布が揺さぶられます。電荷の動きが新たな電磁波を放射することで、入射した光の一部が別の方向へ進みます。
仕組みを追うため、電子が元の位置へ引き戻される力を受けながら動く、ばねのような模型を考えます。揺らす速さが変わると、電子の動きも変わります。物質が応答しやすい固有の速さに近づくと、応答が大きくなる共鳴が起きます。
Fitzpatrickの講義では、この束縛された電子の模型から散乱断面積を導き、振動の速さを表す入射光の角周波数ωが共鳴の角周波数ω₀より十分に小さいとき、散乱断面積がω⁴に比例する近似を示しています。光の周波数は波長に反比例するため、同じ関係を波長λで書くと、σ ∝ 1/λ⁴になります。[1]
ここで使う散乱断面積σは、散乱の強さを面積の単位で表した量です。弱い入射光に対して線形に応答する模型では、入射する光の強さ(W/m²)にσ(m²)を掛けると、全方向へ散乱されるパワー(W)になります。粒子を正面から見た幾何学的な面積とは区別します。
450 nmと650 nmを、同じ条件で比べる
共鳴から十分離れ、波長を変えても物質の応答を表す係数がほぼ同じとみなせる散乱体を考えます。650 nmの散乱断面積を1とすると、450 nmの相対値は次のようになります。
σ(450 nm) / σ(650 nm) ≈ (650 / 450)⁴ ≈ 4.35
短い波長ほど大きく散乱されますが、比は波長の比そのものではありません。650/450は約1.44なので、4乗することによって違いが大きくなります。同じ近似で550 nmも加えると、変わり方を比べられます。
| 波長λ | 650 nmを基準にした計算 | 相対散乱断面積 |
|---|---|---|
| 450 nm | (650 / 450)⁴ | 約4.35 |
| 550 nm | (650 / 550)⁴ | 約1.95 |
| 650 nm | (650 / 650)⁴ | 1.00 |
それぞれの波長に同じ入射パワー密度を与えるなら、この比は一つの散乱体が全方向へ散乱するパワーの比にもなります。一方、実際の光源に450 nmと650 nmが同じ強さで含まれていなければ、散乱光のパワーの比は変わります。検出器が一部の方向だけを測る場合には、取り込む角度や偏光への応答も関係します。
サイズが小さければ、いつも4乗則になるのか
レイリー散乱の近似では、散乱体の大きさが光の波長に比べて十分に小さいことが重要です。粒子の中で光の位相が大きく変わるようになると、全体を一つの単純な応答として扱いにくくなります。
NISTの光散乱ソフトウェアSCATMECHの文書も、RayleighScattererを、球が波長より十分に小さい極限の模型として説明しています。入力には波長と半径のほか、球と周囲の媒質の光学定数があり、その定数を波長の関数として与えることもできます。[2]
つまり、同じ半径であっても材質や周囲の媒質が違えば、散乱の強さは変わり得ます。波長によって物質の応答が大きく変化する場合も、1/λ⁴だけでは比較できません。共鳴に近い条件では、先ほどの「ωがω₀より十分に小さい」という近似そのものを見直す必要があります。
また、粒子の大きさが波長に近づいた場合には、サイズや材質、方向ごとの散乱を扱える模型へ進みます。球であれば、SCATMECHが別に用意するMie散乱の模型が比較候補になります。小粒子向けの式に数値を入れられることと、その式が対象に適していることは別です。
散乱光を見るのか、通り抜けた光を見るのか
短い波長が散乱されやすいと、元の進行方向から外れて届く光には短い波長の成分が多くなりやすくなります。その一方、散乱を受けながら長い距離を通り抜けた光では、その成分が減ります。青い空と夕方の赤みを帯びた太陽光は、この見る方向と通る距離の違いを考える入口になります。[1]
ただし、表の数値だけで空の色を決めることはできません。表が比較したのは、仮定した一つの散乱体の断面積です。実際に届く光を求めるには、光源のスペクトル、通り道にある散乱体の量、吸収や繰り返し起きる散乱なども扱う必要があります。
光学測定でも、まず「散乱体の波長依存を比べたい」のか、「ある位置の検出器に届く光を知りたい」のかを分けると、必要な情報が見えやすくなります。前者ではサイズ・材質・波長範囲、後者ではそれらに加えて光源と観測方向、受光条件が必要です。4乗則は比較の見通しを与えますが、その先の条件を省くための式ではありません。
参考資料
- Richard Fitzpatrick, Rayleigh Scattering。テキサス大学オースティン校の著者講義資料、ページ日付2014年6月27日。束縛電子の模型と式(1289)–(1293)、共鳴から離れた低周波側の近似を参照。
- NIST, SCATMECH: RayleighScatterer。文書フッターの版は7.22(2021年4月)。球が波長より十分に小さいという適用範囲と、波長・半径・媒質/球の光学定数の入力項目を参照。ソフトウェアの実行結果ではありません。
