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  • 熱電対の冷接点補償、先端だけでなく端子の温度も必要な理由

    熱電対の冷接点補償、先端だけでなく端子の温度も必要な理由

    熱電対の先端を同じ温度に保っていても、計測器につながる端子が温まると、読み取る電圧は変わります。先端の温度だけで電圧が決まるわけではないためです。この「もう一つの温度」を測定値へ織り込むのが、冷接点補償です。

    簡単にまとめると?

    • 熱電対の電圧には、測りたい場所と基準接点の両方の温度が関わります。
    • 冷接点補償は、端子温度に対応する電圧を足してから、温度へ換算する処理です。
    • 基準関数が非線形なので、換算後の温度へ端子温度をそのまま足す方法とは一致しません。

    ゼーベック効果で、二つの材料の違いを読む

    導体に温度の勾配があると、両端の間に電圧が生じます。これがゼーベック効果です。温度に対してどれほど電圧が変わるかは材料によって異なるので、異なる二つの材料を組み合わせると、その差を電圧として取り出せます。熱電対はこの性質を温度測定に使うセンサーです。[1]

    一方を測りたい場所で接合し、もう一方を計測器につなぎます。接合した先端が測定接点、計測器側で基準にする接続部が基準接点です。よく「熱い接点」と「冷たい接点」と呼ばれますが、冷接点という名前だけで、計測器側が0℃に保たれていると考えることはできません。

    ここで、基準接点を0℃に置いたときの電圧を、温度の関数 E(T) で表します。均質な熱電対線を使い、計測器側の二つの接続部が同じ温度にある理想的な条件では、実際に読む電圧は次の関係になります。

    V = E(T測定) − E(T基準)

    両端が同じ温度なら差は0です。電圧が0であることは、先端が0℃であることを意味しません。どちらも25℃なら、やはり差は0になります。このため、電圧だけから先端の温度を一意に決めるには、基準接点の温度も必要です。

    100℃の先端でも、端子が25℃なら約3.096 mV

    具体例として、NISTのITS-90に基づくタイプK熱電対の基準関数を使います。これは基準特性の計算で、特定のセンサーを実測した結果ではありません。先端を100℃、基準接点を25℃とし、接続部の温度差や計測器の誤差はないものとします。[2]

    0℃基準の値は、100℃で約4.096 mV、25℃で約1.000 mVです。そこで計測器に現れるのは、差し引いた約3.096 mVになります。これを「基準接点は0℃」としてそのまま温度へ変換すると、約75.9℃です。先端は100℃のままなのに、基準の扱いによって低い温度になってしまいます。

    先端100℃の理想的なタイプK熱電対で基準接点を0、25、50℃とした独自計算。電圧は4.096、3.096、2.073 mVとなり、未補償の温度は100.0、75.9、51.2℃。電圧で補償するといずれも100.0℃に戻る。
    先端を100℃に固定し、基準接点の温度だけを変えた計算例。NIST Monograph 175の基準関数から作成。「Uncorrected」は電圧を0℃基準のまま換算した値です。図の表示は丸めていますが、計算には丸める前の値を使っています。

    基準接点を50℃に上げると、電圧は約2.073 mVになり、未補償の換算値は約51.2℃まで下がります。先端の温度変化を調べたい場面でも、端子側の温度変化を放置すると、その影響まで測定結果に入り込むことが分かります。

    冷接点補償は、電圧を足してから温度に戻す

    電子的な冷接点補償では、計測器側の接続部の温度を別の温度センサーで測り、その温度に相当する基準電圧を計算します。測定電圧へこの値を足せば、基準接点を0℃に置いた場合の電圧が得られます。

    E(T測定) = V + E(T基準)

    先ほどの25℃の例なら、約3.096 mVに約1.000 mVを足して約4.096 mVとし、そこから100℃へ換算します。基準接点を実際に0℃に冷やす必要はなく、基準接点の影響を計算で補うわけです。

    では、未補償の75.9℃へ25℃を足してもよいのでしょうか。その方法では約100.9℃となり、この理想例でも約0.9℃ずれます。タイプKの電圧と温度の関係が、全域で同じ傾きを持つ直線ではないからです。温度を足す前にいったん電圧へ変換する、という順序が意味を持ちます。

    これは、冷接点補償があるだけで温度計の誤差がなくなる、という話ではありません。同じ例で、基準接点は実際には25℃なのに補償用センサーが26℃と読めば、計算上の先端温度は約100.98℃になります。補償用センサーの読み違いも、温度表示へ伝わります。

    端子の温度を代表できているか

    熱電対を選ぶときは、タイプや測定範囲に加え、どこを基準接点として扱い、そこで何の温度を測っているかが比較の手がかりになります。補償用センサーが測る場所と、熱電対線を接続する端子の温度が違えば、正しい式を使っても、補うべき電圧とはずれてしまいます。

    たとえば、端子付近だけが温まり、補償用センサーの位置にはまだ熱が伝わっていない場面です。「装置内部は25℃」という値が得られていても、接続部を代表する温度とは限りません。上の計算が二つの接続部を同温度としたのも、この基準を一つの温度で表すためです。

    また、タイプK用の基準関数を別のタイプへ流用することはできません。基準関数は材料の組合せごとの特性であり、個々の線材のばらつきや使用による変化をすべて補正する校正証明でもありません。測定範囲に合う種類、端子周辺の温度のそろえ方、補償用センサーの精度を合わせて見ると、表示される温度がどこから来るのかを追いやすくなります。

    出典

    1. NIST, Mercury Thermometer Alternatives: Thermocouple(熱電効果と基準温度の説明、2026年10月25日確認)。
    2. Burnsほか, NIST Monograph 175(1993), Temperature-Electromotive Force Reference Functions and Tables for the Letter-Designated Thermocouple Types Based on the ITS-90。7.3節・表7.3.1(冊子157頁)、図7.3.1–7.3.3(159頁)、表B7.1.1(B148頁)。計算例は0℃以上のタイプK基準関数を使用。