ホーマン遷移、二度加速しても高い円軌道では遅くなる理由

白い小さな球を囲む水色と薄紫色の二つの輪を、桃色の曲がった帯がつないでいる。

宇宙機を低い円軌道から高い円軌道へ移すホーマン遷移では、進行方向への加速を二度行います。それでも、最後の円軌道を回る速さは最初より遅くなります。加速という言葉だけを追うと矛盾して見えますが、二回の噴射の間には、エンジンを使わず重力の下で移動する時間があります。

ここでは中心天体を同じにした、同一平面内の二つの円軌道を考えます。半径を2倍にする独自の数値例で、噴射直前・直後の速さと、軌道全体のエネルギーを区別してみます。

簡単にまとめると?

  • 最初の加速で外側の円軌道へ直接乗り換わるのではなく、二つの円に接する楕円へ入ります。
  • 楕円上を外側へ進む間に速さが下がり、遠点で二度目の加速をして外側の円軌道へ移ります。
  • 噴射で加えた速度変化の合計と、出発時・到着時の速さの差は別の量です。高い円軌道は遅くても、運動と位置を合わせたエネルギーは大きくなります。

一度目の加速は、反対側を高くする

中心天体だけの重力で運動する二体問題を使い、噴射は瞬間的に終わると近似します。低い円軌道のある点で進行方向へ加速すると、その点を近点、中心天体から最も遠い点を遠点とする楕円軌道に入れます。ホーマン遷移では、この遠点が目標の円軌道に届くように速度変化を選びます。

二つの円は同心円ですが、移動に使う楕円は中心天体を焦点の一つとします。中心天体は楕円の中心ではありません。また、ここでいう半径は天体の中心から測る距離です。地表からの高度を2倍にすることと、軌道半径を2倍にすることは同じではありません。

半径1から2へ移ると、速さはどう変わるか

出発する円の半径を1、到着する円の半径を2とし、中心天体の重力パラメーターμも1になる単位を選びます。以下の速さはこの規格化した単位で表す値で、km/sや特定の衛星の実測値ではありません。出発時の円軌道の速さは1です。

移動に使う楕円の長半径aは、近点距離と遠点距離の平均なので1.5です。質量あたりの力学的エネルギーをεとすると、ε=v²/2−μ/r=−μ/(2a)です。これを速さvについて整理したv²=μ(2/r−1/a)へ値を入れると、近点r=1で約1.1547、遠点r=2で約0.5774になります。

つまり、一度目の噴射では1から1.1547へ約0.1547だけ速くします。その後は噴射をせず、楕円の半周を進む間に0.5774まで遅くなります。外側の円を回るための速さは√(μ/r)=√(1/2)=約0.7071なので、遠点では0.5774から0.7071へ約0.1298だけ、再び速くする必要があります。

中心天体を焦点とするホーマン遷移の独自計算図。半径1の円から楕円の上半分を通って半径2の円へ移る。速さは最初1、一度目の加速後1.1547、遠点で0.5774、二度目の加速後0.7071。規格化単位での例。
同一平面・瞬間噴射の理想モデルによる独自計算。青い内側の円から桃色の楕円を半周し、紫色の外側の円へ入る。数値は規格化単位で、実機の運航条件を示さない。

二度目の噴射を省くと、外側の円に接した瞬間も、その円を回る速さには足りません。宇宙機は移動用の楕円を進み続け、再び近点へ戻ります。「目標の距離まで到達した」と「目標の円軌道へ入った」は、この例でも別の状態です。

速さが下がっても、エネルギーは増える

途中で速さが下がるのは、重力によって運動エネルギーと位置エネルギーの配分が変わるからです。噴射のない移動用楕円ではεは−1/3のままです。近点の運動エネルギーは約0.6667、位置エネルギーは−1。遠点ではそれぞれ約0.1667と−0.5となり、どちらの和も−1/3になります。減った運動エネルギーが、位置エネルギーの増加に対応しています。

最初の円軌道ではε=−0.5、最後の円軌道ではε=−0.25です。負の数でも−0.25のほうが大きく、二度の噴射は全体としてエネルギーを加えています。最後の速さ0.7071が最初の1より小さいことは、エネルギーが減ったことを意味しません。比べる位置が変わっているためです。

「必要なΔv」と、速さの差を混ぜない

噴射による速度変化の大きさをΔvと呼びます。この例では二回分を足して約0.2845です。一方、最後の速さから最初の速さを引くと約−0.2929になります。両者が一致しないのは、噴射の間にも重力で速度が変化し、二つの噴射の向きも空間内では異なるからです。Δvの合計は噴射に必要な速度変化の規模を比較する値で、旅全体の速度ベクトルの差ではありません。

計画の比較では、まず同じ中心天体・同じ軌道面の円軌道を比べているか、次に噴射前後を同じ場所で比べているかを確認すると、数字の意味を追いやすくなります。さらに、二度目の噴射が予算へ入っているかも確認できます。Δvだけから燃料の質量は決まりません。推進方式や宇宙機の質量にも依存します。

ここでは大気抵抗、他天体の重力、軌道面の変更、有限時間の噴射、実際の打上げ条件を含めていません。あらゆる目的地・制約でホーマン遷移が最適だという結論にも広げません。この理想例で確かめたのは、二度の加速・途中の減速・最後の円軌道の遅さが、同じエネルギーの関係式で整合することです。

出典