量子消失チャネル、「届いた状態の正しさ」と成功率を別々に読む

白い橋の上に淡い水色のガラスの角柱が並び、別のくぼみにラベンダー色の空の枠が置かれている。

量子通信で「届いた状態は元の状態と一致した」と聞くと、通信全体もうまくいったように思えるかもしれません。しかし、届かなかった試行を除いて評価しているなら、状態の正しさと届く確率は別の数字です。量子消失チャネルは、この違いを単純な式で表す理想モデルです。失敗の印を残すことが何を可能にし、何を保証しないかを見ていきます。

簡単にまとめると?

  • 量子消失チャネルでは、入力状態がそのまま届くか、入力の状態空間とは区別できる「消失の印」が届くかの二つに分かれます。
  • 理想モデルでは、届いた条件での状態は完全に保たれていても、全試行の成功率は1−pです。pは消失確率を表します。
  • 消失を見分けられることは、失われた未知の状態を復元できることと同じではありません。選別後の品質、選別率、復元の仕組みを分けて確認します。

0でも1でもない、消失専用の印を加える

一つの量子ビットの入力は、基底状態0と1の重ね合わせで表せます。量子消失チャネルの出力には、この二つとは別に消失を示す状態eを加えます。eは0にも1にも直交し、入力の重ね合わせが属する空間全体と区別できます。Preskillの講義資料は、この消失の印を使ったチャネルを演習10.18、式10.454で定義しています。[1]

入力の密度行列をρ、消失確率をpとすると、受け手の出力は、入力用の部分に重み1−pでρを置き、別の消失部分に重みpを置いた状態です。記号では出力 = (1−p)ρ ⊕ p|e⟩⟨e|と書けます。⊕は、同じ二次元の中で混ぜるのでなく、区別できる別の部分へ分けて置くことを表します。この式は原資料の全体系の式から、受け手だけを取り出して書き直したものです。

区別できる印があるため、受け手は「0と1の側にいるか、eの側か」という二択を調べられます。この理想的な二択では、0か1かを見分ける必要はありません。届いた側の内部にある重ね合わせを読み分けず、届いたかどうかだけを選べる、という点が大切です。単に結果が分からないことや、通常の0・1がランダムに出ることを、すべてこのモデルと同じには扱いません。

消失確率25%のとき、出力を三つの成分で見る

独自計算の例として、入力をプラス状態、つまり0と1を同じ正の振幅で重ね合わせた状態にします。0と1を順に並べた密度行列は、四つの要素がすべて0.5です。出力の基底を0、1、eの順に並べ、p=0.25とすると、左上の二行二列はすべて0.375、eの対角成分は0.25、残りは0になります。

対角成分の合計は0.375+0.375+0.25=1です。0・1の部分にある確率の合計は0.75で、消失の印の確率は0.25。ここまでは全試行を含めた出力です。入力の状態が残る部分と消失部分を、同じ母数の中で数えています。

次に、届いた側だけを選びます。左上の部分の各要素0.375を、その部分の確率0.75で割ると、すべて0.5に戻ります。つまり、届いたという条件で正規化した状態は、入力のプラス状態そのものです。ここで行った割り算は、成功率を上げる処理ではありません。全試行のうち75%に重みを持つ部分を、新しい条件付き集団として表し直した操作です。

同じ計算でpを0.75に変えると、左上の要素はすべて0.125となり、その部分の確率は0.25です。0.125÷0.25はやはり0.5なので、届いた条件の状態は同じです。それでも、届く確率は75%から25%へ下がっています。条件付きの状態だけを並べると、見落とす差がここにあります。

理想消失チャネルの例。消失確率0、0.25、0.75で届く確率は1、0.75、0.25。届いた条件でのプラス状態の一致はすべて1。消失確率1では届かず、条件付き評価は定義できない。
プラス状態を入力した独自行列計算。成功した条件での一致は同じでも、全試行の成功率が変わる。実機の測定値ではない。

母数を変えると、同じ測定でも数字が変わる

届いた状態に、プラス状態なら必ずプラス側に出る理想的なX測定を行うとします。p=0.25の例では、全試行に対するプラス結果の確率は0.75、マイナス結果は0、消失は0.25です。一方、消失を除いた試行だけを母数にすると、プラス結果の確率は1になります。「75%」と「100%」は、このモデルでは矛盾していません。何を母数にした数字かが違います。

仮に同じ理想チャネルを独立に1000回使うなら、届く回数の期待値は750です。実際の有限回の回数が必ず750になるという意味ではありません。また、試行の速さを決めていないため、この期待値から毎秒何個の状態を届けられるかも分かりません。回数の割合、時間当たりの成果、届いた状態の品質は、それぞれ条件が必要な比較です。

さらに、未知の装置について、ある入力でX測定の結果が一致しただけで、あらゆる量子状態が保たれると結論づけることはできません。本稿で入力ρが届いた条件でそのまま戻ると言えるのは、最初に定めたチャネルの式によります。選んだ一つの測定結果だけから装置全体の性質を推定したわけではありません。

失敗が分かっても、失った状態は手元に戻らない

eの側が得られたとき、受け手に残る状態は入力にかかわらず同じ消失の印です。入力が0でも、1でも、プラス状態でも、受け手のその試行からは同じ印しか得られません。どれを送ったかという違いが印に残っていない以上、印だけから元の未知の状態を一意に決め直すことはできません。

これは、失敗を検知できる価値が小さいという意味ではありません。失敗した試行を採用しない、別に用意した符号や通信手順で扱う、といった判断のための情報になります。ただし、それらの手順を実装したことや、その成功率まで、このチャネルの定義だけから付け加えてはいけません。状態の再準備が可能かどうかも、送っていた情報と実験の条件に依存します。

極端なp=1では、すべてが消失し、届く確率は0です。このとき「届いた条件の状態」を求めようとしても、0で割ることになり定義できません。「届いた分の品質100%」という表示をそのまま残すと、成功が一件もない場合まで良好に見えてしまいます。選別後の品質を示すときには、採用率と、採用された試行が実際に存在するかを一緒に確認する必要があります。

出典

  1. John Preskill, Quantum Information, Chapter 10: Quantum Shannon Theory, June 2025版。Exercise 10.18、印刷ページ92(PDF98ページ)、式10.454と直交する消失記号の定義。2026年10月23日確認。三次元出力行列、条件付き状態と確率の例、図は独自計算。理想チャネルの説明であり、実装性能、符号化後の通信容量、実機の損失率を測定したものではない。