原子や量子ビットを短く励起し、しばらく待ってからもう一度励起する。その間は信号を当てていないのに、最後に測る確率には周波数の違いが現れます。これがラムゼー干渉の基本です。
鍵になるのは、待っている間に積み重なる「位相のずれ」です。二つのパルスが何を準備し、何を読み出すのかを、理想的な二準位系の計算で見ていきます。
簡単にまとめると?
- 最初のパルスが二つの状態の重ね合わせを作り、二つ目のパルスが、その間に生じた位相差を測定確率へ変換します。
- 周波数差が一定なら、位相差は「周波数差×待ち時間」に比例します。長く待つと、周波数を変えたときの干渉縞が細かくなります。
- 細い縞だけで測定の正確さは決まりません。基準信号の位相、縞の周期性、雑音や有限のパルス幅も確かめる必要があります。
一つ目のパルスは、位相を比べる準備
ここでは、低いエネルギーの状態を|0〉、高い状態を|1〉と呼びます。最初は|0〉にそろえ、理想的なπ/2パルスを当てます。π/2は、状態を表すブロッホ球上で90度回転させる操作を意味します。パルスの時間がπ/2秒という意味ではありません。
計算を明確にするため、最初の操作で状態が(|0〉+|1〉)/√2になる向きを選びます。ここで直ちに|0〉か|1〉かを測れば、どちらの確率も1/2です。しかし、確率が半分ずつという情報だけでは、この状態を表し切れません。二つの成分には、次の操作で利用できる相対位相があるからです。
MITの講義では、二つの短いパルスを離して与え、原子と駆動信号の間に蓄積する位相差を読むという形で説明しています。以下は、その機構を確認するために設定した理想モデルです。[1]
何も当てない時間にも、位相差は積み重なる
駆動信号を止めて、時間Tだけ待ちます。測定の基準にする発振器と二準位系の周波数がずれていれば、その差に応じて相対的な位相が進みます。ここでは位相が進む向きに合わせて周波数差をΔfと定義すると、位相差θはθ=2πΔfTです。Δfの単位はHz、Tは秒、θはラジアンです。
基準信号と一緒に回る座標で書けば、待った後の状態を(|0〉+eiθ|1〉)/√2と表せます。eiθは、|1〉の成分に付く位相を表す記号です。その絶対値は1なので、この時点で|0〉か|1〉かだけを測っても、確率はまだ1/2ずつ。位相差がそのまま人数の差になるわけではありません。
例えばΔf=100 Hzなら、1秒で100周分、1 msでは0.1周分の差が生まれます。0.1周は36度、ラジアンでは0.2πです。信号を当てていない時間は、読みたい差が蓄積される時間になっています。
二つ目のパルスが、見えない差を確率へ変える
二つ目にも、最初と同じ位相・同じ向きのπ/2パルスを使います。この操作を上の状態へ適用すると、|1〉の振幅は(1+eiθ)/2になります。測定確率は振幅の絶対値の二乗なので、
P₁=|1+eiθ|²/4=(1+cos θ)/2
です。θ=0なら二つの成分が強め合い、P₁=1。θ=πなら打ち消し合い、P₁=0になります。この確率の増減が、ラムゼー干渉縞です。パルスを二回当てたから常に励起されるのではなく、間に積み重なった位相によって結果が変わります。
同じΔf=100 Hzで、待ち時間だけを変えると次のようになります。これは装置の測定値ではなく、上の式と二次元の複素行列による状態変換を照合した独自計算です。
| 待ち時間 | 位相差 | P₁ |
|---|---|---|
| 1 ms | 36度 | 約90.5% |
| 2 ms | 72度 | 約65.5% |
| 5 ms | 180度 | 0% |
実験では、一度の測定で得られるのは|0〉か|1〉かという結果です。90.5%という値を知るには、同じ準備と操作を繰り返し、|1〉が出た割合を推定します。確率を一回で直接読み取れるわけではありません。
長く待つと縞は細くなるが、答えは一意にならない
今度はTを固定して、Δfを変えることを考えます。cosの中身が2π増えるたびに確率は元へ戻るので、周波数方向の縞の周期は1/Tです。T=1 msなら1000 Hz、T=2 msなら500 Hzになります。同じ周波数変化でも、長く待った方が大きな位相差として現れます。

ただし、「縞の周期」と「周波数の不確かさ」は違います。測定回数や信号のコントラストが分からなければ、推定精度は決まりません。中央の山の半値全幅も、ここでの理想式では1/(2T)であり、山から次の山までの周期1/Tとは別の量です。
さらに、T=1 msではΔf=100 Hzと1100 Hzが同じ確率を与えます。cosは正負について対称なので、100 Hzと−100 Hzも区別できません。一つの待ち時間、一つのパルス位相で測った確率だけから、周波数差を一意に逆算することはできないのです。
未知の差を調べる際には、先におおよその周波数範囲を絞る、短い待ち時間で広く走査してから長い時間で細かく調べる、読み出しの位相を変えて別の情報を得る、といった手順が必要になります。これは周期的な式から生じる曖昧さへの対処です。
基準の位相も、測定結果の一部になる
二つ目のパルスの位相をφだけ変えると、今回の計算規約ではP₁={1+cos(θ−φ)}/2になります。φ=πなら、θ=0での山が谷へ反転します。別の資料でP₁=(1−cos θ)/2と書かれていても、選んだパルスの向きや読み出す状態が違う場合があります。式の符号だけを比べず、操作の定義まで確認します。
φ=π/2を選べば、P₁=(1+sin θ)/2です。θ=0の近くでは正負のずれで確率が1/2より増えるか減るかが分かれるため、同じ位相のcos測定で失われていた符号の情報を補えます。ただし、こちらも周期性そのものは残ります。
この関係は、基準信号の位相が不意に変わると、その変化まで対象の周波数差のように読んでしまうことも示しています。講義でも、二つのパルスの間の位相のつながりと、発振器の安定性が分光の分解能に関わることを確認しています。[1]
理想式を実際の装置へ持ち込む前に
ここではパルスを十分短く、正確な90度回転として扱いました。実際にはパルス中にも時間が経過し、駆動周波数が共鳴から離れると回転軸や回転角も変わります。そのため、上図のcos曲線を広い周波数範囲へそのまま外挿することはできません。
また、繰り返すたびに位相がばらつけば、山と谷を平均した差は小さくなります。待ち時間を延ばして位相への感度を上げても、信号のコントラストが下がれば読み取りやすさは損なわれます。この稿の式は、そのばらつきやエネルギー緩和を含めていません。
ラムゼー測定の結果を見るときは、何を走査したか、二つ目のパルスの位相は何か、待ち時間とパルス幅はいくつか、縞の周期と推定誤差のどちらを示しているかをそろえて読みます。待つ時間の長さだけでなく、その間の位相を何と比較し、最後にどう確率へ戻すかまでが、一つの測定を作っています。
参考資料
- [1] MIT OpenCourseWare, Wolfgang Ketterle, 8.421 Atomic and Optical Physics I, Spring 2014:Lecture 18, Line Broadening II。講義書き起こしの3〜6ページを参照。二つのπ/2パルス、蓄積する相対位相、縞の間隔、基準発振器の位相と安定性。本文の100 Hzの数値例、行列検算、図は独自に設定した理想モデルで、装置の性能実証ではありません。
