ヒートポンプのCOP、使った電力より多くの熱を届けられる理由

淡い青の粒と小さな金色の光が乳白色の輪で合流し、桃色の帯へ変わる抽象アート。移動する熱と投入エネルギーを表す

ヒートポンプの説明には、使った電力の数倍の熱を届ける、という表現が出てきます。エネルギーが増えたようにも見えますが、電力だけから全部の熱を作っているわけではありません。外部から移してきた熱も、届ける熱に含まれます。この関係を表すのがCOP(成績係数)です。熱の出入りを一つずつ数えると、1を超える数値の意味と、性能を比較するときの注意点が見えてきます。

簡単にまとめると?

  • 暖房のCOPは、届けた熱量を投入エネルギーで割った値です。外部から運んだ熱も数えるため、1を超えてもエネルギー保存には反しません。
  • 同じ熱収支でも、暖房は高温側へ届けた熱、冷却は低温側から取り除いた熱を評価します。分子が違うのでCOPも異なります。
  • 熱を取り出す側と届ける側の温度条件が変われば、理想的な上限も変わります。COPだけでなく、測定条件と届けられる熱量を合わせて読みます。

熱の収支には、電力とは別の入口がある

まず、装置が同じ状態へ戻る一巡の運転を考えます。低温側から取り込む熱量をQc、高温側へ渡す熱量をQh、外から加える仕事をWとすると、エネルギー収支は次の形です。ここでは熱や仕事の大きさをすべて正の数で表します。

Qh = Qc + W

暖房としてほしいのはQhです。その中には、運転のために入れたWと、低温側から受け取ったQcの両方が入っています。COPはこのうち、投入したWに対して、目的にかなう熱がどれだけ得られたかを表します。エネルギーを新しく生み出す割合ではありません。

一巡でなく一定時間の合計を使う場合も、同じ時間幅と装置の範囲で数える必要があります。始めと終わりで装置に蓄えられたエネルギーが違えば、その増減も収支へ入ります。以下の例は蓄積の変化と周囲への余分な損失を省き、電気として入れたエネルギーがWになるモデルです。

1 kWhを使い、3 kWhを運んで、4 kWhを届ける例

ある時間内に、電気として1 kWhを投入し、低温側から3 kWhの熱を運んだとします。高温側へ渡る熱は合計4 kWh。暖房COPは4 ÷ 1 = 4です。これは収支を理解するために置いた数値で、特定機種の測定結果ではありません。

同じ期間のモデルで、外部から移す熱3キロワット時と投入電力1キロワット時を合わせて暖房へ4キロワット時を届ける。暖房COPは4、同じ熱収支を冷却側で評価するとCOPは3。
同じ時間・同じ範囲で数えたエネルギーの例。棒の長さは熱量または投入エネルギーに比例する。QSによる独自作図。

kWhはエネルギー量の単位です。もしこの合計が1時間分なら、届けた熱の平均の大きさは4 kW、消費電力の平均は1 kWになります。同じ時間でそろえれば、その比も4です。時間の違う熱量と消費電力量を割ると、意味のあるCOPにはなりません。

ここで、同じ装置を「低温側から熱を取り除く働き」で評価してみます。役に立った量は3 kWhなので、冷却COPは3 ÷ 1 = 3です。同じ収支を二つの目的から見ると、暖房COPは冷却COPより1だけ大きくなります。ただし、これは同じ運転・同じ範囲での関係です。製品表の暖房COPと冷房COPは測定温度などが異なる場合があり、その二つの数字の差が必ず1になるとは限りません。

温度差を広げると、理想上限も下がる

COPには、温度条件から決まる理想的な上限があります。温度を一定に保った二つの熱源の間で、不可逆な損失がない可逆運転を考えたものです。高温側の絶対温度をTh、低温側をTcとすると、暖房COPの上限はTh ÷ (Th − Tc)になります。

温度はケルビンで入れます。例えば20 ℃は293.15 K、0 ℃は273.15 Kです。差は20 Kでも、分子は20ではなく293.15。摂氏の数字をそのまま分子へ入れると、上限の計算を取り違えます。

次の表は、届けたい熱量を4 kWhにそろえた独自計算です。最小の仕事は、その4 kWhを理想COPで割って求めています。

低温側 高温側 温度差 理想の暖房COP 4 kWhを届ける最小の仕事
0 ℃ 20 ℃ 20 K 約14.66 約0.273 kWh
−10 ℃ 20 ℃ 30 K 約9.77 約0.409 kWh
0 ℃ 35 ℃ 35 K 約8.80 約0.454 kWh

1行目から2行目では、熱を取り出す側だけを冷たくしています。1行目から3行目では、届ける側だけを高温にしています。どちらも温度の隔たりが広がり、同じ4 kWhを届けるために必要な仕事の理論的な最小値が増えます。「外が寒いか」だけでなく、「どの温度まで熱を届けるか」も関係する、と読めます。

これは一定温度の熱源を置いたモデルであり、部屋の設定温度と外気温を代入して、実機の電気代を予測する表ではありません。現実の熱交換や圧縮には不可逆な損失があり、運転条件も変わります。表のCOPが実機で出るとも、ある外気温を境にすべてのヒートポンプが使えなくなるとも、この計算からは言えません。

COPを比較するときは、比の中身をそろえる

例えば、どちらも暖房COPが4だとしても、熱を2 kW届ける装置と8 kW届ける装置では、同じ条件なら必要な入力はそれぞれ0.5 kWと2 kWです。比が同じでも、届けられる熱の大きさまで同じではありません。必要な暖房能力に届くかどうかは、COPとは別に確かめる項目です。

数値を読む際には、暖房と冷却のどちらを評価した値か、熱源と供給側の温度は何か、入力にどこまでの機器を含めたか、一定条件の値か期間全体の値かをそろえます。期間全体のCOPなら、その期間の届けた熱量の合計を、投入エネルギーの合計で割ります。短い区間ごとのCOPを単純平均した数値とは、一般には一致しません。

たとえば、入力1 kWhで熱4 kWhを届けた区間と、入力3 kWhで熱6 kWhを届けた区間を合わせると、全体は熱10 kWhに入力4 kWhでCOP2.5です。区間ごとの4と2を単純平均した3ではありません。COPは便利な比率ですが、温度・熱量・時間・集計範囲を一緒に読むことで、比較や計算に使える数字になります。

出典