短い光を作ることと、その光を小さな場所に集めることは、別々の課題です。電子の動きを追うアト秒パルスも、物質に強く働きかけるには、時間だけでなく空間にもエネルギーを集中させる必要があります。さらに、その焦点が本当に小さいと確かめる測定も欠かせません。
理化学研究所の研究チームは、孤立アト秒パルスを楕円面の鏡で集光し、ナイフエッジ法でサブミクロンの焦点を評価しました。2026年9月28日の発表では、代表的な測定結果として水平方向460±130nm、鉛直方向360±120nmを示しています。論文は9月23日付で『Ultrafast Science』に掲載されました。光学系と測定法を組み合わせた研究であり、電子状態の制御や材料加工そのものの実証ではありません。
簡単にまとめると?
- 孤立アト秒パルスを小さく集めるため、楕円面多層膜ミラーの形状精度と位置・角度を調整しました。
- 焦点を少しずつ遮るナイフエッジ法を使い、位置の揺らぎを抑える制御と、繰り返し測定の中央値による解析を組み合わせました。
- 報告された460nmと360nmは光強度の半値全幅です。ピーク強度3.0×1015W/cm²は、測定した焦点幅と光のエネルギー・時間幅からの見積もりで、転送損失を減らした場合の将来値とは区別します。
短い光を、さらに小さな場所へ集める
1アト秒は10−18秒です。孤立アト秒パルスは、一つの極めて短い光のまとまりを取り出したものです。複数のパルスが列になったアト秒パルス列とは区別されます。今回の対象は、既に開発されていた時間幅226アト秒の孤立パルスを使う集光系です。
物質に働く光の強さを考えるときには、光全体のピーク出力と、単位面積当たりのピーク強度を分ける必要があります。同じエネルギーと時間幅なら、焦点の面積を小さくするほど、その場所でのピーク強度は高まります。単純な比較では、縦と横の幅をそれぞれ半分にすると面積は4分の1になります。ただし実際には、途中で失われる光や焦点の形も効いてきます。
強い光は、物質の応答が光の強さに単純には比例しなくなる非線形光学の研究につながります。短さと強さを両立できれば、あるパルスで電子状態を変え、その後を別のパルスで調べる方法も考えられます。そのための前提として、まず光を集め、その強さを評価できる必要があるわけです。
楕円面の形と、表面の小さなずれ
楕円面には、一方の焦点から出た光を反射してもう一方の焦点へ集める性質があります。今回の配置では、約4m上流で発生した光を鏡へ導き、約90度曲げて、鏡から60mm離れた位置へ集めました。鏡の表面には、約60eVの極端紫外光を反射するモリブデンとシリコンの多層膜を形成しています。
鏡が設計通りの形から少しずれると、反射する光の波の進み方も場所ごとにずれます。それが重なり合う焦点では、光が一か所へ集まりにくくなります。研究チームは計算で必要な精度を調べ、局所的な高さのずれを数nm以下に抑えることを目指しました。
反射層を付ける前の基板では、1mm四方の領域で測った形状誤差の二乗平均平方根が0.892nmでした。この値は、測定した領域と工程に対応します。鏡全体がどこでも同じ精度であるとか、多層膜形成後の全表面を同じ方法で確認したという意味ではありません。
公開プレプリントでは、光を当てる位置を鏡上で1〜2mm変えると、得られる焦点幅も変わったと報告されています。局所的な表面形状の違いが効く可能性を計算で調べていますが、全ての場所の形状を高分解能で測ったわけではありません。鏡を作る精度に加え、どこへ光を当てるかも集光性能の一部になります。
ナイフエッジで測るのは、遮ったときの光量の変化
焦点の大きさは、小さな光点の写真をそのまま撮って決めたのではありません。鋭い端を持つ板を焦点で少しずつ動かし、遮られずに通った光量を検出するナイフエッジ法を使いました。端が光の広がる範囲を横切ると、通る光量が変化します。その変わり方へ曲線を当てはめ、元の光の幅を求めます。
ここで、測定中に焦点が動くと困ります。本来は細い光でも、板に対して左右へ揺れれば、光量が変わる範囲が広がって見えるためです。研究チームは、発生に使う赤外光から取り出した位置情報を手掛かりに、上流の鏡をフィードバック制御しました。極端紫外光の焦点を直接カメラで追い続ける方式とは異なります。
この制御で長い時間尺度の漂いを減らしても、揺らぎは完全には消えません。そこで、板の各位置で何度も測った値から、平均値ではなく中央値を使いました。中央値は、値を順番に並べたときの中央です。
その理由は、焦点の位置と透過光量の関係が直線ではないことにあります。例えば、板が光の大部分を遮る位置では、焦点が片側へ動いたときだけ透過光量が大きく増えることがあります。位置が左右対称に揺れていても、測られる光量の分布は対称にならず、平均値が引っ張られます。論文では、この条件を数値計算で調べ、中央値を使うと焦点幅の過大評価を抑えられることを示しました。どんな雑音にも中央値が最適だと一般化した結果ではありません。
460nmという幅と、測定が成り立つ条件
理研が示した水平方向460±130nm、鉛直方向360±120nmは、光強度が最大値の半分になる二点の間隔、半値全幅です。発表の図にある細い山形の挿入図も、ナイフエッジの測定曲線から再構成した分布です。
一方、公開プレプリントの補足資料では、横と縦を別々に測った各3回の走査で、中心値にばらつきがあります。横は0.46〜0.97µm、縦は0.36〜0.79µmで、各走査にそれぞれ不確かさが付いています。発表の二つの代表値を、毎回同時に得られる固定の焦点寸法として読むのは適切ではありません。
また、粗い走査で焦点のおおよその位置を調べてから細かく走査し、途中で中心位置が大きくずれた測定は最終的な再構成から除いています。サブミクロン集光の評価には、このようなデータの選び方も含まれます。位置を安定させることと、残る変動を含めて幅を推定することを、両方行った研究です。
| 報告された量 | 何を表すか |
|---|---|
| 460±130nm、360±120nm | ナイフエッジ法で得た、横・縦それぞれの代表的な半値全幅。 |
| 226アト秒 | 使用した孤立パルス光源について既に報告されていた時間幅。今回の焦点で新たに時間幅を測り直した結果とは区別。 |
| 3.0×1015W/cm² | 焦点幅、パルスエネルギー、時間幅などから見積もったピーク強度。平均出力ではない。 |
| 2.6×1016W/cm² | 理研の9月28日発表にある、転送損失を減らした場合の試算。現在の実測達成値として扱わない。 |
強度の見積もりから、次の実験へ
ピーク強度を求めるには、焦点の幅だけでなく、そこへ届く光のエネルギーと時間幅、空間・時間方向の形についての仮定が必要です。公開プレプリントではガウス形の分布などを使って計算しています。焦点を小さくできても、フィルターや鏡で多くの光が失われれば、強度はその分下がります。
なお、転送損失を減らした場合の値は、4月28日版のプレプリントでは3.1×1016W/cm²、9月28日の理研発表では2.6×1016W/cm²と異なります。本稿では後の公式発表の値を採用しています。いずれも改善後を想定した計算値であり、今回の3.0×1015W/cm²という見積もりと入れ替えることはできません。
今回の成果を見る際は、光源の短さ、鏡の集光性能、測定中の安定性、強度を計算する前提を分けると理解しやすくなります。固体の非線形応答やアト秒ポンプ・アト秒プローブ計測への展開は、この集光基盤の先にある課題です。小さく見えた焦点を、そのまま電子制御や加工の成功へ読み替えず、次にどの物質でどんな応答を確かめるのかに注目したいところです。
出典
- 理化学研究所、アト秒レーザーのサブミクロン集光を実現(2026年9月28日)。研究手法・図3、4・数値の説明を参照。
- Kotaro Imasaka et al., Submicrometer focusing of isolated attosecond XUV pulses approaching 1016 W/cm²(2026年4月28日版プレプリント)。本文および補足S1〜S8、特に表S2の走査ごとの値とS7のデータ選別を参照。
- 同研究の掲載論文、Ultrafast Science, DOI: 10.34133/ultrafastscience.0198。掲載日は理研発表に基づきます。本稿の詳しい方法説明は公開プレプリントに基づき、掲載版全文との一致までは確認していません。上記資料は同じ研究の報告であり、独立した追試ではありません。原図は転載していません。
