量子アニーリングの失敗を次へ生かす、XX触媒の結合を更新する方法

高さの違う白いタイルを淡い珊瑚色の留め具が二つずつ結ぶ。計算結果に応じてスピン間の結合を調整する方法を抽象的に表す。

量子アニーリングを何度繰り返しても、惜しい答えばかりが返ってくる。その結果を捨てず、次の計算で加える相互作用を選ぶ手がかりにできないでしょうか。2026年11月3日に公開されたプレプリントは、途中の計算を助ける「XX触媒」を、得られた答えに応じて更新する方法を提案しています。[1]

簡単にまとめると?

  • XX触媒は、二つのスピンを同時に反転させる相互作用です。計算の途中だけ加え、最終的に解く問題は変えません。
  • 提案手法は、前の計算で得た局所的な良い答えから、次に加える結合の位置を選び直します。
  • 18スピンの89問題を使った数値実験では改善が見られました。実機の処理時間や、大規模問題での量子優位性を示した結果ではありません。

惜しい答えにとどまる原因を、計算の途中から変える

量子アニーリングでは、解きたい最適化問題を、最もエネルギーの低い状態が最適解になるように表します。最初は準備しやすい量子状態から始め、相互作用を少しずつ変えて、目的の問題へ近づけていきます。途中で最低エネルギーの状態とその次の状態の間隔が非常に狭くなると、限られた時間では最適解につながる状態をたどりにくくなります。[1]

この研究が扱うのは、最適解とよく競合する局所最適解が原因で、終盤に狭いエネルギー間隔が生じる場合です。局所最適解とは、近くの候補へ少し変えても改善しない答えのこと。周辺では良くても、問題全体で一番良いとは限りません。同じ設定の計算を繰り返すだけでは、その近くの答えを選びやすい状況も残ります。

そこで途中だけ追加するのがXX触媒です。ここでいう触媒は物質ではなく、二つのスピンを同時に反転させる型の量子相互作用を指します。開始時と終了時にはその強さをゼロにするため、最終的な問題の採点基準を変えずに、そこへ至るエネルギー構造を調整できます。今回の方法では、正の係数を持つXX結合で、競合する局所最適解の側へ働きかけます。[1]

返ってきた答えから、加える結合を選ぶ

触媒が有効でも、最適解を先に知っていなければ配置を決められないのでは、未知の問題を解く方法として使えません。提案手法は、その時点までに得た答えを利用します。流れは次の四段階です。[1]

  1. 現在の設定でアニーリングし、得られた答えのうちエネルギーの低いものを選びます。必要なら古典的な改善操作で局所最適解まで進めます。
  2. その答えから二つのスピンを反転させた候補を調べ、それぞれのエネルギーを計算します。
  3. エネルギーが低い候補の中からスピンの組を選び、その組にXX結合を加えるか、既存の結合を強めます。
  4. 更新した触媒で次のアニーリングを行い、返ってきた答えをまた結合の選択に使います。

単に最も低い候補だけを選び続けると、局所最適解と最適解に共通する部分ばかりを変えてしまい、効果が弱まる場合があります。そこで数値実験では、低エネルギーの候補8個から4個を無作為に選ぶ余地を設けました。結合位置をでたらめに選ぶのではなく、得られた答えの周辺を調べたうえで、選択に幅を持たせています。[1]

得られた答えを調べ、二つのスピンを反転した候補を比較し、XX結合を更新して次の計算へ進む四段階の概念図。
計算結果を次の触媒へ反映する流れ。資料[1]を基にQuantum Sea作成。実際の回路や性能の数値を描いた図ではない。

18スピンの数値実験で、何を比較したのか

検証には、最大重み独立集合(MWIS)の問題を使っています。たとえば、互いに両立しない仕事の組があるとき、競合する二つを同時に選ばず、選んだ仕事の価値の合計を最大にする問題に相当します。選ぶ・選ばないをスピンで表し、競合を破る選び方にはエネルギー上の罰則を与えます。この問題を表す結合と、計算途中に追加するXX触媒の結合は、役割が異なります。[1]

研究には二種類の検証があります。まず、構造を調整したモデルでは最大39スピンまでのエネルギー間隔を調べました。触媒の強さは問題サイズごとに数値的に最適化しています。続いて、答えから触媒を更新する手順を、18スピンの89問題で試しました。後者は複数の局所最適解と狭い間隔を生じるよう構成した問題群で、一般の難しい最適化問題を代表すると確認したものではありません。[1]

二つの検証で異なる対象
検証 調べたこと 読み取る範囲
構造を調整したモデル、最大39スピン 触媒の配置と強さがエネルギー間隔へ与える効果 各サイズで強さを最適化したモデルの結果
更新手順、18スピン・89問題 返ってきた答えを使って触媒を更新した場合の成功確率 最大20回の反復を含む閉鎖系シミュレーション

更新手順は各問題で100回ずつ試しています。最大20回まで反復した時点では、最適解を得る確率が90%以上となる問題の割合が約95%に達しました。同じ回数まで触媒なしのアニーリングを繰り返す比較では、その条件を満たす問題は約20%でした。ここには「各問題で最適解を得る確率」と「その確率が90%以上になる問題の割合」という二つの指標があります。1回の計算だけで、すべての問題を95%の確率で解いたという意味ではありません。[1、図6・7]

この比較の成功確率は、そこまでの反復で最適解を一度でも得たかを評価するものです。論文は別に、更新で得た触媒と無作為な触媒を使う単一回のアニーリングも比較していますが、こちらは異なる指標です。反復を通じた約95%という問題割合を、そのまま単一回の性能へ当てはめることはできません。[1、図8]

60 nsと、実際に答えを得るまでの時間

シミュレーションでは1回のアニーリング時間を60 nsに設定しています。これはモデル内部の時間であり、問題の準備、測定、候補のエネルギー評価、結合設定の変更を含む総処理時間ではありません。また、環境からの熱や雑音を含めない閉鎖系の計算です。実機で同じ時間・成功率が得られるという実証は行っていません。[1]

終了条件にも注意が必要です。今回の性能評価では、既知の正解に到達したら反復を止めます。未知の問題では正解かどうかを直ちに判定できるとは限らないため、目標値に届いたか、反復回数の上限に達したかなど、別の終了条件が必要です。論文はその候補を挙げていますが、今回の数値をそのまま未知問題の運用成績とは扱えません。[1]

さらに、任意の組へXX結合を加えられる装置を仮定しています。実装する場合は、つなげられるスピンの組、結合の強さと精度、設定変更の負担を確かめなければなりません。二つのスピンを選ぶ候補は、スピン数をnとするとn(n−1)/2組あります。量子側の成功率が上がっても、候補を調べる古典計算や制御の費用が大きければ、全体の利点は変わります。[1]

今回示されたのは、繰り返し得られる惜しい答えを、次の計算経路を整える情報として使える可能性です。導入を判断するには、触媒なしとの成功率だけでなく、古典的な解法との比較、問題規模を増やしたときの振る舞い、雑音と制御を含む総時間まで見る必要があります。失敗の回数を増やすだけでなく、何を次へ持ち越すかを設計する点に、この方法の特徴があります。

出典

  1. Natasha Feinstein et al., Mitigating small gaps in quantum annealing through recursive XX-catalyst construction, arXiv:2611.04840v1(2026年11月3日提出、PDF表記11月4日)。本文PDF。特にIII–V節、図3・6–8、VI節。査読済み論文としての確定結果ではなく、プレプリントの提案と数値実験を扱う。