大きな電力を扱う変圧器を小さくできれば、AIデータセンターの電源設備にも余裕が生まれます。ただ、小型化するほど、内部の絶縁を保ち、発生した熱を外へ逃がす設計が重要になります。
OCP APAC 2026の公開資料で、Delta Electronics(デルタ電子)が取り上げたのが、SST(Solid-State Transformer、ソリッドステート変圧器)です。高周波変圧器とパワー半導体による電力変換を組み合わせ、中圧の交流から直流へ電力を供給する構成を説明しています。部品を小さくする技術と、電源設備として使うための条件を、一緒に見ていきます。[1]
高周波化で磁気部品を小さくする
一般的な電力用変圧器は、商用周波数の交流を受け、巻線と磁心によって電圧を変えます。SSTでは、その前後に半導体の電力変換回路を置き、変圧器をより高い周波数で動かします。資料は、これによって磁気部品の小型化を進められると説明しています。[1]
高周波変圧器は、入力側と出力側を電気的に絶縁しながら電力を渡す部分です。変換回路の制御には、電圧や電流を調整する役割もあります。資料の構成例では、SSTが中圧交流を800 V直流へ変換し、その先の別のDC-DC変換器が、サーバーや半導体に必要な電圧まで下げます。SSTだけでチップの電源電圧まで変換する図ではありません。[1]
複数の変換モジュールをどう組み合わせるか
資料は、SSTの代表的な回路構成としてISOP(入力直列・出力並列)と、MMC(モジュラー・マルチレベル・コンバーター)を用いる構成を並べています。ISOPの図では、交流を直流に変える段と、変圧器を含む絶縁型DC-DC段を持ったモジュールが複数並びます。入力を直列につなぎ、出力を並列にまとめる構成です。[1]
一方、MMC側の図では、交流から共通の中圧直流バスを作り、そこから複数の絶縁型変換回路へ電力を渡しています。資料は、この共通バスを利用した接続や制御の選択肢、変圧器の部分放電に関わるストレスを抑える点を挙げています。その半面、AC-DC段のサブモジュール数が増える課題も示しています。[1]
両方に共通する課題は、直流部分の電圧を支えるDCリンクコンデンサーが大きくなることです。磁心だけを小さくしても、SST全体が同じ割合で小さくなるとは限りません。変圧器、半導体、コンデンサーを含む構成として考える必要があります。
密度を上げるほど、絶縁と熱の逃げ道が問われる
高周波変圧器では、磁心の材料と巻線の作り方が重要です。資料は、PCB(プリント基板)を用いた巻線による高密度化とともに、交流での巻線損失が大電力化の制約になることを示しています。小さく収まる形だけでなく、そこで生じる損失も見なければなりません。[1]
絶縁には、空間を隔てる空間距離と、絶縁物の表面に沿った沿面距離の確保が関わります。資料は、これらの要求を満たし、絶縁の一部で局所的に生じる「部分放電」を起こさない設計を課題に挙げています。部品を近づけて詰め込むだけでは、小型化は成立しません。[1]
同じページでは、電力密度を高めると放熱に使える表面積が小さくなり、熱設計が難しくなる関係も示しています。高い変換効率と、扱いやすい温度は別の確認項目です。絶縁を保つ構造と、熱を外へ運ぶ構造を両立させるところに、SSTの設計の難しさがあります。[1]
故障時の保護と、負荷変動への対応を分けて考える
半導体で電流を制御できることは、故障時の設計にも関わります。資料は、直流バスの短絡に対してSSTが電流を制御し、遮断器を動作させる構成を説明しています。また、ラックへ向かう分岐回路には、半導体遮断器による素早い保護を挙げています。SSTの制御と、故障箇所を切り離す遮断器を組み合わせる考え方です。[1]
通常運転中の急な負荷変動には、別の役割分担があります。資料のESS(エネルギー貯蔵システム)との協調例では、蓄電側が変動分を支え、SSTは電力系統から受け取る電力を滑らかにする役割を担います。[1]
掲載された400 Vバスの波形例では、キャパシタートレーを停止した後にバス電圧の揺れが大きくなり、資料はSSTの応答の遅さと結び付けています。これは、その構成での協調の必要性を示す例です。あらゆるSSTの応答性能や、800 V設備での挙動をそのまま示すものではありません。[1]
性能の数値は、構成例と開発目標を分けて読む
資料は、1.2 MWのSSTを用いる構成例について、従来の変圧器とAC-DC変換器の組み合わせと比較しています。次の値は、この資料に掲載された比較です。[1]
| 比較項目 | 変圧器+AC-DC変換器 | SST |
|---|---|---|
| 重量 | 5.8 t | 4 t |
| 設置面積 | 4.96 m² | 3.39 m² |
| 50%負荷時の効率 | 95.5% | 97.5% |
このページには、入力電圧や冷却条件など、比較を再現するための条件がそろっていません。表の効率は比較対象の電力変換部分の値で、電力系統からチップまでの総合効率とも異なります。設備や負荷率が変わっても同じ効果が出る、と読むことはできません。
さらに資料は、電力密度400〜1,000 kW/m³、効率98.5%超を、今後の目標として掲げています。先ほどの構成例の値と混ぜず、高い電圧に対応するSiC(炭化ケイ素)半導体、熱を伝えやすい絶縁材料、損失の小さい磁性材料、変換回路と制御の改良に結び付けて示しています。[1]
SSTを見るときは、小さな高周波変圧器だけでなく、周囲のコンデンサーや絶縁構造、熱の逃げ道、保護と蓄電の分担まで追うと、設備としての姿が見えてきます。小型化や効率の数値を、その成立条件と一緒に読むことが大切です。
デルタ電子の会社全体については、cyclewaveの企業記事で紹介しています。
参考資料
- Delta Electronics, Enabling Scalable AI Data Centers Through Solid-State Transformer Technology(OCP APAC 2026公開スライド)。構成と高周波化:4〜5・9・11ページ、磁気部品と絶縁・放熱:12〜13ページ、保護と蓄電協調:15〜17ページ、構成例の比較と目標:18〜19ページ。
- OCP APAC 2026公式プログラム・公開資料一覧。本記事は掲載PDFに基づきます。PDFの作成・更新日は2026年9月2日(UTC)で、8月11〜12日の会場投影版と同一かは確認できていません。

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