有機太陽電池の二重フィブリル構造、混ぜ方と塗り方で発電効率が変わる

淡い桃色と青の細い網が薄い層の中で入り組む、有機太陽電池の材料構造をイメージした抽象画

有機太陽電池では、光を吸収する材料を選ぶだけでなく、薄い膜の中で材料がどう並ぶかが発電効率を左右します。光から生まれた電荷を分け、その電荷を電極まで運ぶには、性質の異なる二つの材料が接しながら、それぞれ連続した経路をつくる必要があるためです。

武漢理工大学のChen Chen氏らが2024年に報告した研究は、第三の成分を加えて両方の材料に細い繊維状の構造をつくり、塗り方も変えることで、この両立を図りました。著者が測った最高効率は20.1%、論文に記載された第三者認証値は20.0%。数字の違いと測定面積を分けながら、何を変えた研究なのかを見ていきます。[1]

簡単にまとめると?

  • 電子を渡す材料と受け取る材料の両方に、細く連続したフィブリル構造を整える研究です。
  • 第三成分を一度に混ぜる方法より、二つの溶液へ別々に加えて順に塗る方法で、効率の改善が大きくなりました。
  • 20.1%は著者測定の最高値。認証報告書は20.02%と記録し、論文では20.0%と表示しています。大面積パネルの効率や長期寿命を示す数字ではありません。

電荷を分ける界面と、運ぶ経路を両方つくる

光を吸収した有機半導体では、電子と、電子が抜けた正孔が引き合った状態で生まれます。これを励起子と呼びます。電子を渡す側のドナーと受け取る側のアクセプターの界面で電荷を分け、その後は電子と正孔をそれぞれの材料の経路に沿って電極へ運びます。

二つの材料が離れすぎれば、電荷を分ける界面に届きにくくなります。一方で、細かく混ざっていても運ぶ経路が途切れていれば、分かれた電荷が再び出会って失われる再結合が問題になります。そこで目指すのが、細い繊維状の集まりであるフィブリルを、両方の材料で連続させる構造です。電気を流す金属の配線を埋めるのではなく、有機半導体そのものの集まり方を整えます。

第三成分を加えるだけでなく、溶液を分けて順に塗る

研究チームは、アクセプター材料のL8-BOと、ドナー材料のPM6またはD18を組み合わせました。そこへ加えた第三成分が、新たに合成したL8-ThClです。L8-ThClとの分子間の相互作用によって、ドナーとアクセプター双方の分子配列やフィブリルの形成を調整する狙いがあります。

ただし、三成分を同じ溶液に入れて一度に塗ると、L8-ThClは相性のよいL8-BO側へ取り込まれやすく、ドナー側の構造改善が十分に進みませんでした。そこで、ドナーとL8-ThClを混ぜた溶液、L8-BOとL8-ThClを混ぜた溶液を別々につくり、前者、後者の順に塗る逐次成膜(layer-by-layer deposition)を使いました。

一度に混ぜて塗る方法は、膜の内部で二つの材料が接するバルクヘテロ接合(BHJ)をつくります。逐次成膜で得た膜は、混ざり合う領域に加えて、厚さ方向に各成分の割合が変わる構造を持つp-BHJです。「順に塗る」は、完成後も二枚の純粋な層がはっきり分かれたまま、という意味ではありません。

下の原図は、PM6をドナーとした試料の比較です。まずdの顕微鏡像を見ると、第三成分を加えた中央と右で、細い筋状の構造が現れています。ただし、この表面像だけで、どの筋がドナーでどれがアクセプターかを断定することはできません。研究チームはe・fのX線散乱も使い、分子の並び方を調べています。

PM6系有機太陽電池の一括混合と逐次成膜を比較した原著Figure 3。上段に電流電圧・量子効率・発電指標、中央に400 nmスケールのAFM像、下段に分子配列を調べたX線散乱を示す。
図1 PM6系の発電特性と膜構造。aは電流–電圧特性、bは波長ごとの外部量子効率、cは発電指標、dは表面のAFM像、e・fはX線散乱。Ternary BHJが三成分の一括混合、Ternary p-BHJが逐次成膜です。dのスケールバーはいずれも400 nm。画像を開くと拡大できます。出典:Chen, C.ほか「Molecular interaction induced dual fibrils towards organic solar cells with certified efficiency over 20%」Nature Communications 15, 6865(2024)、p.5、Figure 3。© The Author(s) 2024。原図は無改変。原著のライセンス:CC BY-NC-ND 4.0。

fでは、逐次成膜の赤線でドナーに対応する配列のピークも強くなっています。論文は、アクセプターだけでなくドナー側の構造も整ったと解釈しています。a〜cの発電測定を合わせて見ると、細い筋が見えること自体ではなく、両方の材料で電荷を運びやすい配列を保つことが重要だと分かります。図cのPCEは平均値で、後の表に示す最高値とは区別しています。たとえばPM6系の逐次成膜は、平均19.1%に対して最高19.4%です。なお、この図はPM6系の結果で、20%に達したD18系の測定図ではありません。

20.1%と認証20.0%は、どちらの測定値か

同じ研究内の比較を、原著Table 1から整理すると次のようになります。PCEは、入射した光のエネルギーのうち電力へ変換できた割合です。表の数値は著者測定の最高値で、全試料の平均や第三者認証値とは区別しています。

作り方 PM6系のPCE D18系のPCE
ドナーとL8-BOの二成分を一括成膜 18.5% 19.3%
L8-ThClも加えた三成分を一括成膜 18.7% 19.5%
L8-ThClを各溶液へ加えて逐次成膜 19.4% 20.1%
出典:[1] Table 1をもとに測定事実を整理。二成分の質量比は1:1.2、三成分の一括混合は1:1:0.2。逐次成膜はドナー:L8-ThClとL8-BO:L8-ThClを、それぞれ1:0.2で調製しています。成膜工程だけを単独で変え、膜中の組成を完全に一定にした試験ではありません。

D18系の逐次成膜では、20素子の平均PCEは19.8%、標準偏差は0.3ポイントでした。最高値20.1%だけを見るより、平均とばらつきを合わせて読む方が、試作で得られた性能をつかみやすくなります。

このD18系の素子について、第三者機関のNational Photovoltaic Product Quality Inspection & Testing Centerが出した報告書は、PCEを20.02%、測定面積を0.0408 cm²と記録しています。論文本体の20.0%は小数第1位の表示です。認証報告書の試料数は1点で、著者が20素子から求めた平均値とは別の測定です。[2]

著者測定では、電極が重なる面積は6.675 mm²ですが、光を通すマスクで4 mm²(0.04 cm²)に限定しています。面積の異なる数字を取り違えると、効率を比較する前提が変わります。光の条件はAM1.5G、強度100 mW/cm²。認証報告書にも同等の光強度と25±1℃の条件が記されています。

大面積化と長く発電する性能は、これから別に確かめる

この研究が示したのは、ガラス基板上に作った小面積の単接合セルで、材料の相互作用と逐次成膜を組み合わせると発電効率を改善できるという結果です。薄く柔らかい製品や建材へ応用できるかを考える際には、基板を変えた試験や、大面積で均一に膜をつくる検証がさらに必要です。

また、認証報告書の電流–電圧測定は、最大出力を長時間保てることや製品寿命まで認証したものではありません。本文と補足資料では、この素子を長時間動かして性能の低下を追う耐久試験や、最大出力点を追跡した安定化出力の提示は確認できませんでした。論文にある「キャリア寿命が長い」という説明も、電荷が失われるまでの時間を指しており、太陽電池を何年使えるかとは別の話です。

次に似た研究を比較するときは、「どんな材料を足したか」に加え、どの成分の構造が変わったか、どう塗ってそれを保ったか、どの面積と測定方法で効率を出したかを一緒に見ると、数字の背景を追いやすくなります。この研究の価値は、効率の数字だけでなく、二つの材料をそれぞれ整える設計と成膜工程をつないだ点にあります。

出典

  1. Chen, C., Wang, L., Xia, W.ほか「Molecular interaction induced dual fibrils towards organic solar cells with certified efficiency over 20%」Nature Communications 15, 6865(2024年8月10日)。本文、Methods、Figure 3、Table 1。原著全文/DOI
  2. 同論文 Supplementary Information。pp.15–17の認証報告書(Supplementary Figures 28–30)、p.18のキャリア測定、pp.25–27のD18系測定条件。補足資料PDF