太陽電池セルシートの銀回収、電気パルスで酸が届く構造へ

淡い積層片の内側から銀色の細線と小片が現れる、太陽電池セルシートの銀回収を表した抽象画。

使い終えた太陽電池から銀を取り出すとき、銀を溶かす薬品だけを考えても、回収は進みません。銀の細い配線が樹脂やシリコンに覆われたままでは、薬液が触れられる場所が限られるからです。化学処理の前に、材料をどのように分けるかが効いてきます。

東京大学・早稲田大学のTakaya氏らが2024年に報告した研究は、ガラスなどを外した太陽電池のセルシートへ短い電気パルスを加え、その後の酸浸出を調べました。パルス処理を経た二つの試料では、7日後に銀が溶液へ移った割合が約95%、処理せず粉砕した試料では85%でした。この差が何を示し、工程全体の評価には何が足りないのかを見ていきます。[1]

簡単にまとめると?

  • 電気パルスでセルシートの銀配線を分離し、酸に触れる状態を変える前処理の研究です。
  • 濃度60%の硝酸、25℃での比較では、7日後の銀の浸出率がパルス処理ありで約95%、なしで85%でした。
  • 数字は試料中の銀が溶液へ移った割合です。パネル全体から製品として銀を回収する効率や、省エネルギー性を示す値ではありません。

銀を溶かす前に、封止材との接触を変える

結晶シリコン太陽電池には、発生した電気を集める細い銀の配線があります。フィンガー電極と呼ばれるこの配線は、電流をまとめる銅のバスバーとつながっています。セルの周囲を保護する封止材のEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)などと密着しているため、銀だけを取り出すには、この複合した構造を解く必要があります。

研究で使ったのは、JA Solar製の結晶シリコン太陽電池からアルミニウムの枠とカバーガラスを取り除き、セル1枚に相当する156 mm角に切ったシートです。ガラスは加熱した刃で、その直下のEVA層を切って外しています。完成したパネルを丸ごと電気パルスで処理した実験ではありません。

このシートを水中に置き、銅のバスバーの対角位置に電極を当てて、各試料に5回のパルス放電を行いました。電流が通る領域の銀配線を微粒子として分離する一方、銅のバスバーは形を保ったまま取り出します。ただし、銀配線はすべて一度に外れるわけではなく、シートにも一部が残ります。

銀が集まった粒子と、銀が残るシートを分けて調べる

下の原図は、酸に入れる前の試料づくりを示しています。左側の点線で囲まれた経路がパルス処理あり、右側が処理なしです。処理後に分かれた粒子と残ったシートを、同じものとして扱わないことが比較の出発点になります。

銀回収の試料調製を示した原著Figure 2。パルス処理から粒子A(I)と残ったシートの粉砕物A(II)へ分かれる経路と、パルスなしで粉砕するBの経路を比較する。
図1 浸出試験に使う三つの試料のつくり方。赤丸は電極位置、下段のgは156 mm角のシート1枚に由来する各試料中の銀量、wt%はその試料の銀濃度です。画像を開くと拡大できます。出典:Takaya, Y.ほか(2024)、p.2593、Figure 2。© The Author(s) 2024、CC BY 4.0。原図は無改変。

パルス処理で得た1.18 mm未満の粒子がA(I)です。銀濃度は1.96 wt%、シート1枚に由来する銀量は0.27 gでした。残ったシートを粉砕したものがA(II)で、銀濃度は0.05 wt%、銀量は0.12 g。比較対象のBは、パルスを加えずシートを粉砕したもので、銀濃度は0.15 wt%、銀量は0.39 gです。

A(II)とBには、刃で切り刻むカッターミルを同じ条件で使っています。A(I)の高い銀濃度は、銀が粒子側へ集まったことを示しますが、粒子が純銀になったという意味ではありません。また、シート側に残った銀を捨てれば、その分は取りこぼします。銀を濃い試料へ集めることと、そこから銀を薬液へ取り出すことは、別の段階です。

7日後の約95%は、酸に溶け出した銀の割合

次に、三つの試料をそれぞれ10.00 gずつ、濃度60%の硝酸100 mLに入れて比較しました。温度は25℃、かき混ぜる速さは毎分180回転です。固体に含まれる成分を溶液へ移す操作を浸出といい、この研究では薬液を採取して、溶け出した銀を分析しています。

原図の縦軸は銀の浸出率、横軸は反応時間です。横軸は1、10、100、1,000、10,000分と10倍ごとに区切った対数目盛になっています。右端の10,080分は7日間に相当し、その時点でA(I)とA(II)は約95%、Bは85%でした。差は約10パーセントポイントです。

三試料の銀の浸出率と時間を比較した原著Figure 3。横軸は分単位の対数目盛。10,080分でパルス処理を経たA(I)とA(II)は約95%、未処理で粉砕したBは85%に達する。
図2 各試料から溶液へ移った銀の割合。白いひし形が粒子A(I)、黒いひし形が残りのシートを粉砕したA(II)、白丸がパルスなしのBです。百分率の基準は各試料に含まれる銀で、パネル全体の質量ではありません。出典:Takaya, Y.ほか(2024)、p.2594、Figure 3。© The Author(s) 2024、CC BY 4.0。原図は無改変。

ここで約95%は、それぞれの試料に含まれていた銀のうち、試験中に溶液へ移った割合です。元のパネルから販売できる金属銀を95%回収した結果ではありません。さらに、試料の重さと酸の量をそろえても、銀濃度が違うため、銀1 g当たりの酸の量まで同じになるわけではありません。

曲線には途中の進み方にも違いがあります。ある時刻での浸出率と、7日後に到達した値は分けて読む必要があります。今回の結果から、処理時間を問わず常に95%になる、あるいはそれが永続的な回収上限だと考えることはできません。

樹脂を剥がした別試料で、銀の露出の効果を確かめる

研究チームは、なぜ差が出るのかを調べるため、EVAを手で剥がしたモデル試料もつくりました。シリコン上の銀配線が露出した試料では、最初の1分で銀の55%が溶け出し、7日後には99%に達しました。剥がしたEVA側に銀が包まれた試料では91%、剥がしていないシートでは82%でした。[1]

この比較は、銀が周囲の材料にどう覆われているかによって、浸出の速さや到達する割合が変わることを示しています。ただし、99%は手で剥がして銀を露出させた別試料の結果です。パルス処理の試料にそのまま当てはめたり、先ほどの約95%と足し合わせたりはできません。

著者らは、銀が完全に露出している状態、シリコンに付着した状態、EVAなどに覆われた状態、壊れていないシート内にある状態の四つを仮定し、実測の浸出曲線に合うよう、その割合を推定しています。これはモデルによる説明で、顕微鏡ですべての銀を数えて求めた割合ではありません。

実際、粒子A(I)の顕微鏡像と元素分布には、銀とシリコンが集まった構造も見られます。著者らは、放電で生じた銀とシリコンが水中で急に冷え、凝集して銀の表面を覆った可能性を挙げています。樹脂から外せば必ず全面が酸に触れるとは限らず、分離後にできる粒子の状態も考える必要がある、という示唆です。

工程を選ぶには、浸出率と薬品・時間・電力を並べる

この研究で得られる判断材料は、酸浸出の前に電気パルス処理を組み合わせると、銀の分かれ方と溶け出し方が変わる、という点です。一方、25℃で約95%に達したという結果には、濃度60%の硝酸を使い、7日間反応させた条件が伴います。室温で試験したことだけを根拠に、短時間で省エネルギーの工程が完成したとは言えません。

浸出を扱うこの論文には、パルスの電圧や1回当たりの投入エネルギーは示されておらず、放電方法の詳細は先行研究に委ねられています。枠やガラスを外す工程、放電、粉砕、酸の処理まで含めた消費電力の比較も、ここでは示されていません。酸中へ移した銀を分離・精製し、金属として得る工程の歩留まりも別に確認が必要です。

したがって、実用的な処理方法を比べる際は、対象がパネル全体なのか分離済みシートなのかをそろえ、銀の浸出率とともに、必要な酸の量、到達までの時間、前処理を含む電力、最後に得る銀の純度と量を見る必要があります。銀を溶かす化学だけでなく、酸が働ける状態を前処理でどこまでつくるか。その設計を検討するための実験として読むと、今回の成果と残る課題がつながります。

出典

  1. Takaya, Y., Imaizumi, Y., Koita, T., Cordova Udaeta, E. M., Tokoro, C. “Effect of electric pulse treatment on silver recovery from spent solar panel sheet by acid-leaching.” Journal of Material Cycles and Waste Management 26, 2591–2598(2024年4月22日公開)。DOI: 10.1007/s10163-024-01951-5。原著PDF。