タグ: 材料適合性

  • UL Solutionsの単相浸漬冷却試験、樹脂の変形と冷却液の絶縁性

    UL Solutionsの単相浸漬冷却試験、樹脂の変形と冷却液の絶縁性

    サーバーを液体に浸して冷やすとき、冷却液が触れるのは発熱する部品だけではありません。ケーブルの被覆、樹脂の部品、基板の材料も、同じ液体の中で長く過ごします。よく冷える液体を選んでも、周囲の材料が変形したり、液体の電気的な性質が変わったりすれば、運用は難しくなります。

    2026年8月のOCP APAC Summitで、UL SolutionsのJulie Shih氏は単相浸漬冷却(single-phase immersion cooling)に使う材料と冷却液の適合性を調べた試験を紹介しました。「単相」は、ここでは冷却液を沸騰させて熱を運ぶ方式ではなく、液体のまま使うことを指します。コールドプレートの内部だけに液体を通す直接液冷とも、触れる部材の範囲が違います。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • 単相浸漬冷却では、冷却液と樹脂・基板材料を組み合わせた適合性の評価が必要です。
    • 部材の外観や強度に加え、部材を浸した後の冷却液の絶縁性も調べます。
    • 今回の静置浸漬試験だけで、液体が流れる実機の長期寿命や安全性は証明できません。

    液体を一つ選んでも、相性は決まらない

    発表では、ポリカーボネート(PC)、PA66、PBT、EPDMといった樹脂・エラストマー、エポキシとPPOの基板材料を、炭化水素系、合成エステル系、配合油の三種類の冷却液と組み合わせました。80℃と105℃で4、8、12週間、液体を流さない静置浸漬で変化を調べています。これは材料と液体の組み合わせを比べる試験で、すべての樹脂や市販冷却液を順位づけする試験ではありません。[2]

    樹脂やゴムなら外観、寸法、引張強さなど。基板の積層材なら、それに電気的な特性も加えます。液体自体についても、浸す前後で絶縁に関わる性質を確かめます。冷却液だけのカタログ値を読んでも、実際の組み合わせの変化は分からないためです。[2]

    目に見える変化と、強さの変化は同じではない

    試験では、PCは合成エステルでひび割れが、エステル油では変色と端の剥がれが見られました。PA66は色の変化に加えて、高温・長い浸漬で引張強さが落ちました。EPDMは炭化水素系の液体では膨らみ、合成エステルでは縮んで硬くなる傾向を示します。同じ「液体に浸す」でも、材料と液体の組み合わせによって変化の仕方が違います。[2]

    変色は気づきやすい一方、色だけで機能を判定することはできません。寸法が変われば接続部の位置や密着にも影響し得ますし、引張強さの低下は部材の耐久性を考える手がかりになります。ただし、今回の試験片で見られた変化から、すべての完成機器の寿命を計算することはできません。

    冷却液の絶縁性も、部材を浸した後に測る

    基板の積層材では、105℃での試験では、PPO系の絶縁破壊に対する強さが、エポキシ系より大きく低下しました。冷却液側でも、材料を浸した後の絶縁破壊電圧(BDV)を測っています。BDVは、一定の試験条件で液体が電気的に破れるまでの電圧を示す値です。炭化水素系の液体では、比較対象のエステル系より低下が大きい組み合わせが示されました。[2]

    もう一つの誘電正接(Df)は、交流信号に対する損失の目安です。発表では、エポキシやPPOの積層材を浸した後の冷却液のDfが、液種と測定周波数によって異なる変化を示しました。高周波の信号品質を考えるときの注意点ですが、測定は室温で行われています。80℃や105℃の浸漬条件と、電気特性を測った温度を同一視しないことも大切です。[2]

    実機の判断には、液体の流れも含む評価が要る

    この研究は材料の相性を考える入口になりますが、発表者自身が静置浸漬という限界を示しています。実際の装置では液体が流れ、温度も変動し、部品には力がかかります。長期の実機運転や、すべての製品の安全性を、この12週間の試験だけで証明したものではありません。[2]

    発表資料はUL 62368-1に材料適合性に関わる要求がある一方、今回のような適合性を調べる詳細な試験方法をそこだけで指定しているわけではない、と説明します。材料、冷却液、温度、期間、流れをどうそろえて評価するか。発表者は評価基準のさらなる整備を課題に挙げています。OCPは2026年6月に部品と冷却液の適合性を調べるガイダンスを公開していますが、それ自体が合否の閾値や認証を定める文書ではありません。[2・3]

    単相浸漬冷却を選ぶ際に見たいのは、液体単体の性能だけではありません。どの部材を、どの液体に、どの条件で浸すかを組み合わせて確かめる。冷却の設計と材料の試験を、一つの表に並べて考える必要があります。

    UL Solutionsの事業を知る

    今回登壇したUL Solutionsは、試験・検査・認証と関連ソフトウェアを提供する企業です。事業の構成や、認証後も続くサービスの仕組みは、cyclewaveでまとめています。

    参考資料

    2026年9月24日確認。本文は公開スライドの試験条件と発表者が示した限界に沿ってまとめています。発表動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。

    [1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧。演題、登壇者、資料掲載。

    [2]Julie Shih「Material Compatibility, Reliability, and Safety Risks in Single-Phase Immersion Cooling」公式掲載スライド。全13頁。試験条件はpp.3–4、材料・冷却液の結果はpp.5–9、限界はpp.10–11。

    [3]Open Compute Project「Server Component Immersion Material Compatibility Testing, v1.5」。2026年6月公開。評価ガイダンスの対象と、合否・認証を定めない範囲はpp.6–8。

  • GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    GS CaltexのPG冷却液試験、濃度で変わる冷えやすさと材料の相性

    液冷の話では、コールドプレートや配管に目が向きます。でも、その中を流れる液体は「よく冷える」だけで選べません。冷却液が少しずつ薄まったり、金属やゴムに触れ続けたりする数年間まで考える必要があります。

    2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、GS Caltexはプロピレングリコール(PG)を混ぜた冷却液を取り上げました。PGは水より熱を運ぶ性能が低い一方、凍結や微生物の増殖を抑える助けになります。だから、濃度を下げれば必ず優れる、という単純な話にはなりません。[1・2]

    簡単にまとめると?

    • PG濃度を下げると熱や流れの面で有利な試験例がありますが、凍結・腐食・微生物への備えも一緒に考えます。
    • 冷却液は材質との相性に加え、使用中の希釈や変質、洗浄・採水・交換まで含めて選びます。
    • GS Caltexの管理下の試験は、実設備の長期寿命や製品認証を保証する結果ではありません。

    冷えやすさと守りやすさの間で

    水は熱容量と熱伝導率に優れ、粘度も低く、流しやすい液体です。PGを加えると凍結に強くなり、微生物が増えにくい条件もつくれます。ただし粘度や熱の運び方は変わり、同じ流路・ポンプ・流量でも温度と圧力損失が違ってきます。発表資料はPG25、PG15、PG10を比較し、薄くするほど熱・流れの面では有利という測定例を示しました。その比較はGS Caltexの試験条件に限ります。[2]

    OCPが9月15日に公開した改訂ガイドラインは、PG25系の液体を、CDUからサーバーのコールドプレートへ至る閉ループで使う場合を主な対象にします。建物側の水系統まで同じ処方でよいという意味ではありません。この文書は推奨の枠組みで、現場の材質や運転条件に合わせて適合性を確かめるよう求めています。発表の後に公開された版なので、8月の講演時点で確定していた仕様として扱うこともできません。[3]

    「入れた時」と「使い続けた後」は違う

    運用中には、洗浄後に残った水や補給水で液が薄まることがあります。異物の混入、温度による変質、腐食防止剤の消耗も重なります。GS Caltexの発表は、この変化を前提に、PG濃度やpHだけでなく、腐食と微生物の両方を追う重要性を示しました。[2]

    同社は複数の金属を使った腐食試験と、3種類の菌を用いた試験結果を載せています。PG10やPG15でも抑制効果が見えたとしていますが、これは同社製品を使った管理下の試験です。配管の材質、表面にできる膜、補給水、運転期間まで含めた実施設備の長期結果ではありません。OCPの改訂ガイドラインも、液体と触れる金属・樹脂・シール材の適合、洗浄、ろ過、採水・分析をまとめて扱っています。[2・3]

    ひとつの数字で安全を決めない

    資料は電気伝導率の低さも強調します。ただ、導電率は添加剤や温度で変わります。OCPの改訂ガイドラインでは、防食剤入りPG液の導電率は主な合否指標ではなく、変化を追う補助的な値として位置づけています。導電率だけで腐食や漏れの安全性を判定することはできません。[2・3]

    温度の試験も読み方が大切です。GS Caltexが示した2台の250W CPUを使う系では、液の入口温度35〜50℃の範囲で測定値を記録しています。これだけで、別のCPU、流量、コールドプレート、室温でも同じ結果になるとは言えません。[2]

    選ぶ時は、液体だけを比べない

    まず冷却ループの範囲を分け、使う金属・樹脂・シール材、必要流量、温度範囲を決める。次に、その液を入れる前の洗浄と、入れた後の採水・補給・交換まで考える。この順番なら「冷えやすい液体」を選んだつもりが、保守しにくい設備をつくってしまうことを避けられます。

    GS Caltexは講演時点で、自社PG25製品がOCP-Inspired認証の手続き中と説明していました。PG10・PG15についても、OCPの標準化はまだだと明記しています。発表を製品の認証や実施設備の寿命保証へ読み替えず、設計と保守の条件を考える材料として使いたいところです。[2]

    冷却液を発表したGS Caltexが、エネルギー事業の中で何を扱う会社なのか。cyclewaveの企業記事で整理しています。

    参考資料

    2026年9月23日確認。発表スライドと公開文書を区別して読み、発表者の試験値は実運用の保証とみなしていません。

    1. OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催情報と発表一覧。
    2. WooKyun Synn(GS Caltex)冷却液発表資料 — pp.5–9、13–25。比較・菌・腐食・CPU試験はいずれも同社資料。
    3. OCP「Guidelines for Using Propylene Glycol-Based Heat Transfer Fluids in Liquid Cooled Racks」 — 2026年9月15日公開、Revision 2.0 v1.0.0。8月の講演より後の改訂版。