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  • 測定値の「±」をどう読むか、標準不確かさと拡張不確かさ

    測定値の「±」をどう読むか、標準不確かさと拡張不確かさ

    測定結果に「10.00 ± 0.10 mm」と書いてあると、真の値が必ず9.90〜10.10 mmに入る、あるいは測定器が最大0.10 mmずれる、と読みたくなります。しかし、「±」だけでは、どちらも分かりません。その幅が何を表し、どのような情報から求められたかが必要です。

    幅の小さい報告が、いつも優れた測定を意味するわけでもありません。同じ測定結果を、異なる範囲の広さで表している場合があるからです。米国国立標準技術研究所(NIST)の技術ノートTN 1297を手がかりに、標準不確かさ、合成標準不確かさ、拡張不確かさをつなぎ、「±」を比較できる形で読み解きます。ここで参照するのは1994年版の解説資料であり、現在の個別分野の規格や契約上の判定手順を置き換えるものではありません。[1]

    簡単にまとめると?

    • 標準不確かさは標準偏差に相当する形で表した不確かさで、実際の誤差や最大誤差そのものではありません。
    • 拡張不確かさは、複数の成分を合わせた合成標準不確かさに包含係数kを掛けた幅です。比較には幅だけでなくkも必要です。
    • k=2を約95%の範囲と読めるのは、分布を正規分布で近似でき、不確かさの推定自体が十分確かである、といった条件がある場合です。

    誤差が分からないから、不確かさを評価する

    測定で知りたい量を測定対象量と呼びます。例えば、ある温度条件における部品の長さです。測定結果はその量の値の推定であり、測定器の表示を読めた時点で、その値を完全に知ったことにはなりません。

    誤差は、測定結果と測定対象量の値との差です。一方、不確かさは、利用できる情報に基づき、その測定結果にどの程度の不確かさが残るかを評価したものです。偶然にも結果が対象量の値にとても近く、実際の誤差が小さかったとしても、知識やデータが十分でなければ不確かさは大きくなり得ます。したがって、「不確かさ0.10 mm」を「実際に0.10 mm間違っている」とは読み替えられません。[1]§2.3

    既知の偏りを、不確かさの幅へ入れて済ませることにも注意が必要です。TN 1297は、結果に有意な影響を与える既知の系統的効果には補正を適用することを前提にしています。補正した後も、その補正量を完全には知らないために残る不確かさは、別に評価します。「ずれを補正すること」と「補正の確かさを見積もること」は二つの仕事です。[1]§5.2

    Type AとType Bは、評価の方法を分ける名前

    標準不確かさuは、不確かさを標準偏差に相当する形で表したものです。成分ごとに違う情報を、その形へそろえると組み合わせやすくなります。その数値をどう求めたかを区別するのが、Type A評価とType B評価です。

    Type A評価は、一連の観測値を統計的に解析して求めます。例えば、同じ条件で独立に繰り返し測定し、その平均値を結果として報告する場合です。1回ごとの値の標本標準偏差をs、測定回数をnとすると、平均値の標準不確かさはs/√nで評価できます。これは個々の測定値の散らばりsと、平均値の不確かさが同じではないことも示します。[1]§3、附録A

    Type B評価は、それ以外の利用可能な情報から求めます。校正証明書、機器の仕様、過去の知見などが材料です。校正証明書が拡張不確かさとその倍率を示していれば、その倍率で割って標準不確かさに戻せます。また、ある量が上下限の間で等しくあり得るとモデル化する場合、半幅aの長方形分布なら標準不確かさはa/√3です。上下限が書かれているだけで、分布を確かめずに同じ換算を使えるわけではありません。[1]§4.1–4.6

    ここで、Type Aを「偶然誤差」、Type Bを「系統誤差」と対応させてはいけません。区別しているのは原因の種類ではなく、不確かさを評価した方法です。系統的効果に関わる補正の不確かさを、繰り返し観測によってType A評価することもあります。Type Bだから大まか、Type Aだから必ず信頼性が高い、という序列でもありません。少数の観測による評価より、十分な根拠を備えたType B評価の方が確かである場合があります。[1]§2.2–2.7、§4.7

    二つの成分から「±0.10 mm」を組み立てる

    ここからは実測データではなく、計算方法を示すための仮想例です。既知の効果を補正した長さの推定値を10.00 mmとし、考慮すべき成分が次の二つだけだったと仮定します。繰り返し測定の平均値に由来する標準不確かさが0.03 mm、校正情報に由来する標準不確かさが0.04 mmです。

    さらに、二つの成分に相関がなく、どちらも長さの結果へそのまま加わる、つまり感度係数が1であるとします。この場合は、各成分を二乗して足し、平方根を取ります。

    合成標準不確かさ uc=√(0.03²+0.04²)=0.05 mm

    単純に0.03+0.04=0.07 mmと足す計算ではありません。ここで組み合わせているのは、それぞれの標準不確かさだからです。ただし、この二乗和の形を、あらゆる測定へそのまま当てはめることもできません。例えば共通の基準器に由来する成分には相関があり得ます。結果への効き方が異なる場合は感度係数を掛け、相関がある場合は共分散の項も含めます。TN 1297の不確かさの伝播則は、測定モデルを一次近似できる範囲でこれらを扱っています。[1]§5.1、附録A

    次に、結果をある広さの区間で示すため、包含係数(coverage factor)kを選びます。合成標準不確かさucにkを掛けたものが拡張不確かさUです。k=2を選ぶなら、U=2×0.05=0.10 mmとなります。

    長さ:10.00 mm、U=0.10 mm(k=2、uc=0.05 mm)

    これで「10.00 ± 0.10 mm」の幅が何かを説明できました。ただし、この算術だけから「約95%」という包含確率まで証明できたわけではありません。そこには分布や推定の条件がもう一段必要です。

    k=2が、いつでも95%を意味するわけではない

    正規分布を、その平均から標準偏差の2倍ずつ左右へ区切ると、分布の約95.45%がその区間に入ります。TN 1297では、測定結果を表す分布がほぼ正規分布で、uc自体の推定の不確かさを無視できる場合、k=2を約95%の区間に対応させています。正規分布で中央95%を厳密に指定した場合の係数約1.960と、2.000の区別もあります。[1]§5.4、§6.2

    繰り返し回数が少ないと、散らばりを見積もるための情報自体が少なくなります。このような場合には自由度が関係します。自由度は、この推定を支える独立な情報の量を表す指標です。同条件の独立な観測n個から平均と標本標準偏差を求める単純な場合、標準偏差の推定の自由度はn−1になります。

    原表B.1の95%の列を見ると、自由度9では係数は2.26です。例えば、正規分布からの独立な10回の観測だけで平均値の不確かさを評価し、ほかの成分がない場合、t分布を用いた中央95%の区間には約2.26を使います。uc=0.05 mmなら、その幅は約0.113 mmです。これは先ほどの二成分の例とは別の仮定です。複数成分を組み合わせた測定では、測定回数から直接n−1を当てるのではなく、有効自由度などを検討する必要があります。[1]附録B

    NIST TN1297の原表B.1。自由度を行、区間に含まれる割合を列としてt分布の係数を示す。95%の列は自由度9で2.26、自由度が無限大の行で1.960。95.45%の列の無限大の行は2.000。
    図1 NIST TN 1297(1994年版)の原表B.1(印刷p.10、PDF15頁)。同じ95%の列でも自由度によって係数が変わる。最下段は正規分布に対応する極限。出典:Barry N. Taylor and Chris E. Kuyatt / NIST。[1]

    原表が示すのは、指定した分布と自由度に対する係数です。複雑な測定の出力分布が強く非対称である場合などに、表から数字を選ぶだけで適切な区間が得られる、という意味ではありません。附録B自身も、複数成分の有効自由度を使う手順を、適用条件のある近似として説明しています。

    「±」の大きさを比べる前に、そろえる条件

    次の表は、U=k ucを読むための独自の比較例です。どの行も長さの推定値は10.00 mmで、数値は仮定です。包含確率は別途評価するものとし、ここでは指定しません。

    報告の形 幅の意味 ucにそろえると 読み取れること
    10.00 mm、uc=0.05 mm 合成標準不確かさ 0.05 mm 標準偏差に相当する尺度で報告している。
    10.00 ± 0.10 mm、U、k=2 拡張不確かさ 0.10÷2=0.05 mm 1行目と同じuc。幅が倍でも測定が悪くなったわけではない。
    10.00 ± 0.15 mm、U、k=3 拡張不確かさ 0.15÷3=0.05 mm 同じ尺度の不確かさを、異なる包含係数で表している。
    10.00 ± 0.10 mmのみ 説明が不足 換算できない Uなのか、標準偏差なのか、上下限なのかを先に確認する。

    ucをそろえても、比較はそこで終わりません。同じ対象量を、同じ温度・時間・手順などの条件で測っているか、必要な成分を評価へ含めているかを確かめます。校正時の不確かさに、輸送後の変化や使用場所の環境差まで含まれているとは限りません。TN 1297も、校正先での結果と、その後の利用によって加わる不確かさを区別しています。[1]§7.5–7.6

    報告を書く側なら、測定値と単位に加えて、ucなのかUなのか、Uならkはいくつか、確率を記すならどの分布・自由度・根拠に基づくかを添えます。さらに、成分と評価方法を追える説明へつなぎます。報告を受け取る側は、その順序で読むと、数字の大小だけで測定の質を取り違えにくくなります。

    部品の合否や規格への適合は、許容範囲と、測定不確かさをどう扱うかという判定規則も必要です。この稿の計算例から、特定の製品が合格するとは決められません。「±」の幅と意味をそろえることが、そうした判断へ進むための土台になります。

    参考資料

    1. Barry N. Taylor and Chris E. Kuyatt, Guidelines for Evaluating and Expressing the Uncertainty of NIST Measurement Results, NIST Technical Note 1297, 1994 Edition(1994年9月)。§2–7、附録A・B、Table B.1を参照。本文の計算例・比較表は、この資料の方法に基づく説明用の仮定であり、NISTの実測結果ではない。