量子情報の誤りを直すために測定すると、守りたかった重ね合わせまで失われるのではないか。この疑問への入り口になるのが、3量子ビットのビット反転符号です。保存した0か1そのものを読む代わりに、量子ビット同士の関係を調べます。ただし、直せる誤りには範囲があります。本稿では理想的な小さなモデルを使い、反転の場所を知ることと、保存情報を知ることの違いを確かめます。[1]
簡単にまとめると?
- 一つの量子ビットを、三つの量子ビットにまたがる状態へ符号化します。未知の状態を三個複製する操作ではありません。
- 二組のパリティーを測れば、理想条件で一か所だけ起きたビット反転の位置を区別できます。
- 得られるシンドロームは、保存した0と1の重ね合わせの係数を教えません。誤りの特徴だけを取り出します。
- 二か所の反転や位相反転まで、この符号が直すわけではありません。訂正の成績は、想定した雑音と測定・操作の誤りを含めて評価します。
三つに広げることと、三個を複製することの違い
一つの量子ビットの状態をα|0⟩ + β|1⟩と書きます。αとβは重ね合わせの係数で、絶対値の二乗の合計が1です。ここで使う符号化は、この状態をα|000⟩ + β|111⟩へ移します。守る一つ分の情報を論理量子ビット、その保存に使う三つを物理量子ビットと呼びます。[1、式1.26–1.27]
これは、元の状態を三つ並べた積とは異なります。たとえばαとβがともに1/√2なら、符号化後は000と111だけの重ね合わせです。一方、同じ重ね合わせを独立に三個用意した積には、001や010なども含まれます。符号化は未知のαとβを読み取ったり、未知の状態の複製を三個作ったりする手順ではありません。
三つをそれぞれ0か1として直接測定し、多数決を取る方法では、一般の重ね合わせを守れません。000か111のどちらかへ測定結果が決まることで、元の係数と位相の関係を失うためです。調べる対象を、個々の値から二つの値の関係へ変える必要があります。
値そのものを読まず、二組の一致・不一致を調べる
パリティーは、ここでは二つのビットが同じなら0、異なれば1になる比較です。三つの位置を左から1・2・3とし、順番を「1と2」「2と3」に固定して二つのパリティーを読みます。量子操作では、対応する二つのZ演算子の積を測ることに相当します。結果+1を一致の0、−1を不一致の1と表します。講義資料[1]は別の組合せを選んでいますが、本稿は隣同士を比較する規約で統一します。
000ではどちらの組も一致し、結果は00です。111でも結果は00なので、この二つを区別しません。したがって、理想的な測定ではα|000⟩ + β|111⟩のα側とβ側を見分けずに、00を得られます。この、誤りを診断する測定結果をシンドロームと呼びます。
次に、一か所だけ0と1を入れ替えるX誤りを考えます。位置1で起きれば、状態はα|100⟩ + β|011⟩となります。100も011も「1と2」は不一致、「2と3」は一致なので、結果は10です。αやβがどの値であっても、同じ誤りなら同じ結果になります。10を得たら位置1へもう一度Xを適用し、二度の反転で元へ戻せます。
同様に、位置2だけの反転なら11、位置3だけなら01です。「誤りなし、一か所目、二か所目、三か所目」という四つの候補を、二つの測定結果で区別できます。ただし、この対応をそのまま訂正に使うには、対象を一か所までのX誤りに絞っているという前提が欠かせません。
状態ベクトルで確かめると、訂正後の係数が戻る
独自の8成分の状態ベクトル計算で、符号化、誤り、パリティー測定、条件付き訂正を再現しました。例に使った入力は、0の確率が0.3、1の確率が0.7で、1側に0.4ラジアンの相対位相を持つ状態です。0と1が同じ割合という特別な場合だけでなく、係数に偏りと位相がある例を選んでいます。
誤りなしと、一か所だけの三通りのX誤りでは、訂正後の状態はすべて元の符号化状態と一致しました。二つの状態の内積の絶対値を二乗する指標も、四通りとも数値誤差の範囲で1でした。さらに異なる係数を持つ三つの入力でも同じ検査を行い、シンドロームが保存情報の係数に依存しないことを確認しています。

この計算では、パリティーが0か1かに対応する部分空間へ状態を射影し、その確率と測定後の状態を調べています。各量子ビットの値を先に全部読み出してから、古典的に比較しているわけではありません。実装上の補助量子ビットや測定回路はここでは省略し、理想的なパリティー測定そのものをモデルにしています。
シンドロームが同じでも、想定外の誤りは直せない
位置1と位置2が両方反転すると、状態はα|110⟩ + β|001⟩になります。隣接パリティーは01で、位置3だけが反転したときと同じです。一か所の誤りと仮定した訂正器は位置3を反転させるため、結果はα|111⟩ + β|000⟩となります。係数の置かれた先が入れ替わり、元の情報へ一般には戻りません。
位相反転Zでは、さらに別の限界があります。位置1だけにZが作用すると、状態はα|000⟩ − β|111⟩となります。000と111の並び自体は変わらないので、パリティーは00のままです。比較結果に異常がなくても、相対的な符号は変わっています。[1、21ページ] 先ほどの入力例では、元との内積の絶対値の二乗は0.16でした。00が返ったことだけを、保存情報が無傷である証拠にはできません。
また、ある特別な入力が誤りの後でも変わらなかったとしても、その符号が任意の未知状態を守れたことにはなりません。訂正方式を検証する際は、たまたま変化しにくい一つの入力だけを使うのではなく、守る状態の範囲と、対象にする誤りの組を明示する必要があります。
誤りが減るという計算には、どんな条件が入るか
各物理量子ビットが独立に確率pでX反転し、符号化・測定・訂正は完全だと仮定すると、この多数決型の訂正で論理反転が残る確率は、二か所または三か所で反転する確率です。式は3p²(1−p) + p³ = 3p² − 2p³になります。これは本稿の独立反転モデルから数え上げた値です。
pが0.01なら0.000298、つまり約0.0298%です。符号化しない一つの量子ビットのX反転確率1%より小さくなります。ただし、この比較は位相誤りも、測定器の誤りも、追加したゲートの失敗も数えていません。一般の量子状態について、あらゆる雑音がこの比率で減るとは言えません。
実機の方式を比較するなら、何を測るシンドロームなのか、区別できる誤りはどれか、追加操作の誤りや相関した雑音をどう扱ったかを確認します。三つへ符号化したという個数だけで性能を判断せず、保存情報を読み出さずに取り出せる診断情報と、その診断で区別できない誤りを並べて見ると、誤り訂正の役割と限界が分かります。
出典
- John Preskill、Physics 229講義ノート Chapter 1「Introduction and Overview」、1.8 Quantum error-correcting codes、印刷ページ20–21、式1.26–1.29と位相誤りの説明。著者公開PDF(2026年10月22日取得)。歴史的な講義ノートの原理説明を参照し、当時のハードウェア状況を現在の状況として扱っていない。隣接パリティー規約、入力例、状態ベクトル計算、確率の数え上げ、図はQuantum Sea独自。
