超密度符号化、量子ビット一つの送信で2ビットを伝えるための準備

桃色の台と白い台に緑と紫の四角いガラスが置かれ、その間に四つの小さな菱形の光が並ぶ抽象的な構図。

「量子ビットを一つ送るだけで、古典的な2ビットを伝えられる」と聞くと、一つの量子ビットに四つの値を詰め込めるように思えるかもしれません。超密度符号化(superdense coding)では、通信の前から送り手と受け手が共有している、もつれた量子ビット対も使います。後から送る一つと、先に持っていた一つを合わせて読むことが、四つの選択肢を区別する鍵です。

簡単にまとめると?

  • 理想的なもつれ対を事前に共有していれば、片方の量子ビットを送ることで、00・01・10・11の四つの古典メッセージを伝えられます。
  • 送り手は自分側の量子ビットだけを操作し、対全体を四つの直交したベル状態のいずれかへ変えます。受け手は二つを合わせて区別します。
  • 事前のもつれ配布、保存、操作、読み出しも資源です。単独の量子ビットだけで2ビットを読めるわけではなく、実機の通信速度が必ず倍になるという意味でもありません。

「一つ送る」の前に、二人は何を持っているか

送り手アリスが量子ビットA、受け手ボブが量子ビットBを持つとします。開始時の対は、(|00⟩+|11⟩)/√2というベル状態です。二つの桁は左からA、Bを表します。0と1の基準で測れば00か11がそれぞれ半分の確率で出ますが、単なる「同じ乱数を二人に配った状態」とは違い、二つの成分の間に量子的な重ね合わせがあります。

この対は、メッセージを選ぶ前に配っておけます。超密度符号化で数える「一つの量子ビットの送信」は、その準備の後の通信です。もつれを作り、離れた場所へ配り、使うまで保つ過程が不要になるわけではありません。ここを含めるかどうかで、通信資源の数え方が変わります。

片方の操作で、対全体の四つの状態を選ぶ

アリスが伝えたい内容を二つの古典ビット(b_z, b_x)で表します。本稿では、最初にb_z=1ならZ操作、続いてb_x=1ならX操作をAへ適用する約束にします。Zは|1⟩成分の符号を反転させ、Xは|0⟩と|1⟩を入れ替える操作です。対応付けの順番は、二人で同じ規則に合わせる必要があります。

00なら何もせず、開始時の(|00⟩+|11⟩)/√2のままです。01ならXによって(|01⟩+|10⟩)/√2へ、10ならZによって(|00⟩−|11⟩)/√2へ変わります。11ならZ、Xの順に作用し、(|10⟩−|01⟩)/√2になります。最後の状態は、よく使われるベル状態の表記と全体の符号が逆ですが、測定確率は同じです。

この四つは互いに直交しています。状態の重なりを表す内積が0になるので、理想的には一度の適切な測定で見分けられます。たとえば00と10に対応する二つは、0/1の各成分の確率だけを見ると同じです。それでも、足し算の符号と引き算の符号の違いが、後の干渉によって読み出せる情報になります。

受信した量子ビットを、保存していた相手と一緒に読む

符号化が終わったら、アリスはAをボブへ送ります。ボブはAとBの両方を持つようになり、四つのベル状態を区別するベル測定を行えます。理想的な回路の一例は、Aを制御、Bを標的にしたCNOTを適用し、次にAへアダマール操作Hを適用し、最後にA、Bを0/1の基準で測るものです。

CNOTはAが1のときだけBを反転させます。Hは、|0⟩を(|0⟩+|1⟩)/√2へ、|1⟩を(|0⟩−|1⟩)/√2へ変える操作です。先ほどの符号化の規則と組み合わせると、最後のA、Bの結果が順にb_z, b_xになります。

理想回路での超密度符号化の復号確率。入力メッセージ00、01、10、11に対し、同じ測定結果の確率だけが1で、ほかは0になる。
行は送る古典メッセージ、列は復号後の測定結果。四つの入力を状態ベクトルで計算した理想値で、実機測定ではない。

この図では、四通りのどれを選んでも対応する結果だけが出ます。重要なのは、送られてきたAだけを測っているのではないことです。ボブが保管していたBと合わせた操作・測定を行うから、対全体の違いを取り出せます。

片方だけでは、メッセージは分からない

四つのベル状態について片方だけを取り出した密度行列を計算すると、どれもI/2になります。Iは何も変えない2行2列の単位行列です。これは、片方の量子ビットだけを見る限り、どのメッセージが選ばれたかを区別できないことを意味します。0/1で測ると半々になるだけでなく、片方に行う別の測定でも四つのケースを区別できません。

したがって、アリスがAを操作した時点で、遠くにいるボブがBだけを見て内容を知れるわけではありません。Aが届いて初めて、二つをまとめて読めます。もつれがあることだけで、通信の到着を待たずに知らせる仕組みにはなりません。

片方だけから情報を得られないという理想状態の性質を、通信システム全体の安全性と同じに扱うこともできません。対の配布や保存が信頼できるか、相手を認証できるか、装置の漏えいや妨害に対処できるかは別の条件です。本稿の計算は、そうしたセキュリティを実証するものではありません。

通信量を比べるなら、事前準備も数える

理想的な資源の関係は「共有したもつれ対一組+量子ビット一つの送信で、古典ビット二つを伝える」と整理できます。共有された最大もつれ対一組は、1 ebitという単位で表すことがあります。対はこの通信で資源として使われるので、同じ準備を無料で何度も使えるとは数えません。

たとえばアリスが対を作り、先にBを送っておいたなら、準備段階の送信も含めると、二つの量子ビットを別の時点に送っています。それでも、急いでメッセージを伝える段階の通信を一つにできる、という違いは残ります。事前に用意できる資源と、その場で使う通信資源を交換している、と捉えると理解しやすくなります。

実装を比べるときは、もつれ配布の成功率と所要時間、保存中に保てる状態の品質、Aの伝送損失、二量子ビット操作やベル測定の誤りを含める必要があります。今回の図は完全な対・操作・伝送・測定を仮定しています。古典メッセージを四通り区別できる数学上の仕組みと、単位時間あたりに確実に届けられる量は分けて評価します。

出典・参考資料