CHSH不等式、四つの相関を比べると何が分かるか

離れた二つの石の台に二枚ずつ淡い緑・黄・紫・桃色のガラス円盤が立ち、中央で影が重なる抽象的な構図。

離れた二人が量子ビットを測ると、それぞれの結果はランダムでも、照合したときの相関には特徴が現れます。その特徴を調べる方法の一つがCHSH不等式です。単に「二人の結果がよく一致したか」を数えるのではなく、測り方を変えた四つの組合せを比較します。本稿では、あらかじめ決めた応答で作れる相関の上限と、理想的な量子状態の予測を、小さな計算で確かめます。[1]

簡単にまとめると?

  • 二人がそれぞれ二種類の測定設定を選び、各回の結果を+1か−1で表します。設定の組合せごとに、二人の結果の積を平均します。
  • 相手の設定に依存しない応答を共通の乱数であらかじめ決めるモデルでは、四つの相関から作るCHSH値の絶対値は2以下です。
  • 理想的なもつれた二量子ビットと適切な測定方向では、2√2まで達します。ただし、測定方向や雑音によって値は変わります。
  • 相関の違いは、好きな情報を相手へ瞬時に送れることを意味しません。実験の判定には、統計誤差や設定の選び方、検出条件も必要です。

一つの一致率ではなく、四つの相関を比べる

二人をアリスとボブと呼びます。アリスは測定設定A0またはA1を、ボブはB0またはB1を選びます。各測定の結果は+1か−1です。組合せはA0・B0、A0・B1、A1・B0、A1・B1の四つになります。

ある組合せで、二人の結果が同じ符号なら積は+1、異なる符号なら−1です。この積を多数の試行で平均した量を相関と呼び、E00、E01、E10、E11と書きます。値+1は毎回同じ符号、−1は毎回逆の符号、0は同じ場合と逆の場合が平均で釣り合うことに対応します。

ここで調べる量は、S=E00+E01+E10−E11です。[1、式4.33] 最後だけ符号を引くことが重要です。たとえば二人が常に同じ結果を出し、四つの相関がすべて+1になっても、Sは1+1+1−1で2です。「強く相関している」という説明だけでは、CHSHの上限を超えたことにはなりません。

応答をあらかじめ決めると、なぜ2を超えないのか

量子測定と比べるために、二人が事前に共通の乱数や相談結果を持っているモデルを考えます。ある共通情報の下で、アリスはA0ならa0、A1ならa1、ボブはB0ならb0、B1ならb1という応答を決めているとします。各応答は+1か−1です。その回の自分の応答は相手が選んだ設定には依存せず、測定設定の選択と共通情報を独立に扱う、という条件を置きます。

一つの応答表について、Sに対応する式をまとめ直すと、a0(b0+b1)+a1(b0−b1)です。b0とb1が同じなら、最初の括弧は+2か−2、二つ目は0になります。二つが逆なら、最初が0で、二つ目が+2か−2です。したがって、どの応答表でも式の値は+2か−2に限られます。[1、式4.31–4.33]

四つの応答には2の4乗、つまり16通りがあります。独自の列挙計算でも、16通りすべてがこの二つの値だけを返しました。共通乱数で応答表を選び直しても、その平均が−2と+2の外へ出ることはありません。ここで得た|S|≤2が、今回のCHSH不等式です。

この議論は、量子系で四つの値を同時に測定したという意味ではありません。相手の設定に依存しない応答表と、設定に依存しない同じ確率分布で四つの実験群を説明できる、という比較対象の仮定を使っています。設定ごとに別の都合のよいデータを選んだり、設定の情報を相手へ渡したりすると、この比較の条件が変わります。

量子状態では、測定方向を組み合わせる

次に、二量子ビットの状態(|01⟩−|10⟩)/√2を考えます。これは一重項と呼ばれる、もつれた状態です。アリスはZ方向またはX方向を測り、ボブはその二方向の間にある、互いに直交した斜めの二方向を測る設定にします。[1、式4.34–4.38]

本稿の行列計算では、A0=Z、A1=X、B0=(Z+X)/√2、B1=(Z−X)/√2と定義しました。ZとXはそれぞれ二行二列のパウリ行列で、二人の測定にはそのテンソル積を使います。状態と測定演算子から各積の期待値を計算すると、E00・E01・E10は−1/√2、E11だけが+1/√2でした。

これらをSへ代入すると−2√2、絶対値は約2.828です。四つの相関を別々に見れば、どれも−1から+1の範囲内です。違いは、それらを同じ組合せの式へ入れたとき、先ほどの応答表モデルの上限2を超える点にあります。これは理想的な状態と測定の計算結果であり、本稿が装置を用いてベル実験を行ったということではありません。

同じ状態でも、雑音と設定を含めて読む

雑音の例として、一重項を割合v、四つの基底状態を等確率にした完全混合状態を割合1−vで混ぜる、独自のモデルを計算しました。vは0から1の範囲です。後者の状態では今回の四つの相関は0なので、同じ測定設定で得る|S|は2√2vになります。

独自の理想行列モデル。混合割合vに対してCHSH値の絶対値は2√2v。vが0.5なら約1.414、0.8なら約2.263、1なら約2.828。局所的な事前応答モデルの上限2を超えるのはvが約0.707より大きい範囲。
緑線は選んだ状態と測定設定での理想計算。破線は比較対象の上限2。実機の測定結果や、すべての種類の雑音に共通する性能曲線ではない。

v=0.8なら約2.263で2を超えますが、v=0.5なら約1.414です。境界はv=1/√2、約0.707になります。この値は、ここで選んだ混合モデルと測定設定から求めた境界です。任意の装置の雑音率へ、そのまま置き換えることはできません。

また、この測定で|S|が2以下だったことだけから、量子状態がもつれていないと結論することもできません。測定方向の選び方や、混ざり方によって、調べたい相関をこの組合せでは捉えられない可能性があります。上限超過を観測する条件と、観測しなかった場合に言えることは分けて扱います。

相関を比較できても、結果を選んで送信できるわけではない

今回の行列計算では、二人の結果の同時確率も求めました。どのv、どの測定設定でも、アリスが単独で+1を得る確率は1/2です。ボブがB0とB1のどちらを選んでも変わりません。ボブ側も同様です。二人の結果を後で照合すると相関の違いが見えますが、片方の手元の結果だけでは、相手が選んだ設定を読み取れません。

実験でSを推定する場合は、有限回の測定から四つの平均を求めます。したがって、点推定がわずかに2を超えたという数字だけで、理想式と同じ確実さが得られるわけではありません。試行数と不確かさに加えて、測定設定をどう選んだか、二人の間の情報伝達をどう排除したか、検出されなかった試行をどう扱ったかを確認する必要があります。本稿の計算は、そのような実験上の抜け道を閉じた実証ではありません。

CHSH値を読む際には、四つの相関の定義、比較対象の条件、用いた状態と測定方向、統計的な判定を並べて確認します。もつれという言葉や一つの一致率だけに頼らず、どの説明では再現できない相関を、どの条件で確かめたかを見るための道具です。

出典

  1. John Preskill、Quantum Information and Computation、Chapter 4「Quantum Entanglement」、2001年11月2日版、4.3.1–4.3.2、印刷ページ17–20、式4.31–4.49。著者公開PDF(2026年10月22日取得)。CHSH不等式と理想的な量子相関の数学を参照。歴史的な講義ノートの実験状況を現在の状況として引用していない。16通りの列挙、混合モデルの行列計算、同時確率の確認、図はQuantum Sea独自。