測定の延期原理、量子回路の測定を後へ移すときに残す記録

大きな緑の折れたガラス板と小さな紫の板が並び、手前の白いくぼみに桃色の球が置かれた抽象的な構図。

量子回路の途中にある測定を、最後へ移せる。この「測定の延期」という原理は、測定記号を消してよいという意味ではありません。途中で区別されたはずの情報を補助量子ビットへ残し、後の操作もそれに合わせる必要があります。小さな理想回路で、延期と省略の違いを見てみます。

簡単にまとめると?

  • 途中の測定を補助量子ビットへの記録に置き換えると、対象とする最後の測定結果の確率を保ったまま、測定の時点を遅らせられます。
  • 補助ビットへの記録もせずに測定を消すと、干渉の条件が変わります。本稿の例では、0の確率が50%から100%へ変わります。
  • 同じなのは指定した出力の統計です。途中の全体状態、必要な量子ビット数、実機での速さや誤り率まで同じとは限りません。

同じ操作を二回かける、小さな比較

まず一つの量子ビットを0の状態に用意し、アダマール操作Hを二回続けてかけます。Hは0を0と1の重ね合わせへ変え、同じHをもう一度かけると元の0へ戻す操作です。間に何もなければ、最後に0か1かを測定したときの0の確率は100%になります。

では、二つのHの間で0か1かを一度測るとどうなるでしょうか。最初のHの後では、途中の測定結果は0と1がそれぞれ半分です。その後、どちらの結果に対してもHをかけ、最後に同じ基準で測ると、0と1がそれぞれ半分になります。

この場合、二回目のHを実行する点は変わっていません。違うのは、途中の二つの可能性が、干渉できる一つの重ね合わせとして残ったか、それとも測定によって区別されたかです。「途中の測定は結果を読むだけ」と考えると、この差を見落とします。

測る代わりに、別の量子ビットへ記録する

測定を延期する比較では、対象の量子ビットAに加え、最初に0へ用意した補助量子ビットBを使います。Aへ一回目のHをかけた後、Aを制御、Bを対象とするCNOTをかけます。CNOTは、制御側が1のときに対象側の0と1を反転する操作です。

このとき全体は、AとBがともに0の成分と、ともに1の成分を持つ状態になります。途中の0と1の区別が、Bとの相関として記録されました。Aの未知の状態を、独立した同じ状態としてBへ複製したわけではありません。

続いてAだけへ二回目のHをかけ、最後にAを測ります。Bを観測せずにAの結果だけを集計すると、0と1はそれぞれ50%です。途中でAを実際に測った場合と、Aの最後の結果の確率が一致します。Bに残した記録を最後に測れば、途中に対応する結果との関係も調べられます。

理想回路で最後にAを測る比較。Hの間で測定する場合は0と1が50%ずつ。測定を補助BへのCNOT記録へ置き換えても50%ずつ。途中測定と記録を両方省くと0が100%、1が0%。
0から始める独自の行列計算。最後にAを測った確率を比較しており、実機の測定頻度ではない。

計算では、途中測定を二つの結果の確率混合として扱う方法と、AとBの状態をまとめて追う方法を別々に実装しました。どちらもAの最終確率は0.5と0.5です。対照として、Hを二回かけるだけの計算では1と0になりました。丸め誤差の範囲で確率の総和と行列の整合性も確認しています。

補助ビットが残す、区別できる記録

なぜ測定器を使わない計算でも、途中で測った場合と同じ統計になるのでしょうか。Bが0である成分と、Bが1である成分は、互いに区別できる記録を持っています。Aだけを集計するときは、Bの異なる記録に対応する確率を足します。それらを、同じ記録の中の振幅として先に足す計算とは異なります。

途中測定も補助Bへの記録もない場合は、その区別が残りません。Hを二回続けた振幅は干渉し、Aが0へ戻ります。測定を延期する回路では、単に測定を取り去るのではなく、この「記録が残る」という作用を別の量子系で表しています。

なお、ここで同じと述べているのはAの出力分布です。補助Bを含む測定前の全体状態が、実際に途中で測った後の確率混合と、あらゆる操作に対して同一になるという主張ではありません。比較する系と、その後に許す操作を明示する必要があります。

途中の結果で処理を変える場合

本稿の例では、途中の結果が0でも1でも、Aへ同じHをかけています。より一般に測定結果で次の操作を選ぶ回路を変換するなら、その選択も、保存した記録に応じる量子制御として扱う必要があります。元の条件分岐をそのまま残して測定だけ後へ移すと、途中で使う古典的な結果がなくなります。

補助ビットの扱いにも注意が要ります。後の処理に必要な区別を保つ間は、記録を不用意に上書きしたり、無関係な用途へ使い回したりできません。必要な補助系と制御を含めて回路全体を変換する、というのが原理の読み方です。本稿の二量子ビット例だけで、任意の実装の変換手順を検証したわけではありません。

数学的な同等性を、実装上の同じ費用としない

測定の延期は、回路の表現を整理したり、出力分布を比較したりする際に役立ちます。ただし、補助量子ビットを追加する方式と、途中の測定結果を古典処理へ渡す方式では、保存する場所も制御の方法も異なります。

実機で選ぶ際には、追加ビットの利用可能性、状態を保つ時間、制御ゲートの誤り、測定とフィードバックの遅延を別々に比べます。最後の理想確率が等しいという計算から、どちらが速いか、どちらが正確かは導けません。参照した講義資料の古い装置状況に関する記述も、現在のハードウェアの評価としては使っていません。

回路を見比べるときは、どの結果の統計を保ちたいのか、途中の区別をどこへ記録したのか、その記録を後でどう使うのかを追います。この三点が明確なら、測定を延期したのか、測定の作用まで省いて別の計算にしたのかを見分けやすくなります。

出典・参考資料