もつれ破壊チャネル、もつれが消えても情報が残る理由

縞模様と水玉模様のガラスタイル、二つの穴がある陶器の仕切り、同じ模様を持つ別々の陶器の円盤が並ぶ。

量子のもつれを壊す通信路、と聞くと、何も情報を送れなくなるように感じるかもしれません。しかし、もつれと古典的な相関は同じものではありません。入力を測り、その結果に応じて別の量子状態を準備する通信路を考えると、失われるものと残せるものを分けて理解できます。

簡単にまとめると?

  • もつれ破壊チャネルは、入力と外部の参照系がどんな状態でも、通信路を通した後の出力と参照系のもつれを残さない量子通信路です。一つの入力例で相関が減っただけでは、この性質の証明になりません。
  • 測定結果に応じて新しい状態を準備する例では、出力を「参照系の状態と準備した状態の組を、確率で混ぜたもの」と書けます。もつれはなくても、結果に対応する古典的な相関は残り得ます。
  • 同じ測定を行っても、出力として区別しやすい状態を準備するか、同じ状態を準備するかで、受信者が読める情報は変わります。「もつれを壊す」だけでは、送れる古典情報の量まで決まりません。

一つの状態の性質と、通信路の性質を分ける

量子通信路は、入力の密度行列を出力の密度行列へ変える操作です。ここでは入力をA、出力をB、通信路を通さず手元に残す参照系をRと呼びます。Rは、入力が外側とどのような相関を持っていたかを確かめるための相手です。通信路はAだけに作用します。

RとAの任意の入力状態に対して、操作後のRとBが必ず分離可能になるとき、通信路をもつれ破壊チャネル、entanglement-breaking channelと呼びます。[1、§10.6.6] 分離可能とは、Rの状態とBの状態の積を、非負の確率で混ぜた形に書けることです。積状態一個に限らないため、もつれがなくても二つの系の測定結果が相関することがあります。

この定義には「任意の入力」という条件があります。ある一つの入力が操作後にもつれを持たなかったとしても、別の入力ならもつれが残る可能性があります。反対に、一例でも出力と参照系にもつれが残れば、その通信路はこの定義には当てはまりません。状態の例を調べることと、通信路全体について主張することは別です。

測ってから準備する操作は、何を引き継ぐか

具体例として、入力Aを0・1の直交基底で測り、結果xに応じて出力状態σxを準備する操作を使います。入力をρとすると、出力はN(ρ)=⟨0|ρ|0⟩σ0+⟨1|ρ|1⟩σ1です。原資料の式10.269を二次元で書いたものです。[1] 測定結果を読み取った後、あらかじめ決めた状態を作り直す、という二段階で考えられます。

入力の密度行列を、対角成分aと1−a、非対角成分cとその複素共役で書くと、この出力はaσ0+(1−a)σ1です。cはこの式に入りません。0・1の準備確率に対応する情報は引き継げますが、入力の位相関係をそのまま出力へ運ぶ操作にはなっていません。

では、AがRともつれていたらどうなるでしょうか。RとAの入力を、Aの基底に沿った四つのブロックに分け、対角ブロックをM00、M11とします。この操作の出力はM00⊗σ0+M11⊗σ1です。各ブロックは正の演算子で、そのトレースをpxとすれば、pxが0でない項はMxx=pxτxと、確率と正規化したRの状態に分けられます。

したがって出力はΣpxτx⊗σxとなり、分離可能な形です。確率0の項は除きます。この書き方は特定のベル状態だけに依存しません。直交測定から再準備する、この通信路の構造そのものがもつれを残さない理由です。内部の測定結果と、受信者が最後に測る結果も区別してください。受信者に内部の記録xを別途渡すとは仮定していません。

同じ測定から、三通りの出力を作る

送り手が古典的なラベルLを0・1から半々に選び、対応する入力|0⟩、|1⟩を送る例を比べます。受信者は出力Bを0・1のZ基底で測り、結果Yを得ると決めます。これは一つの符号化と読み取り方を指定した比較で、あらゆる符号化や測定を最適化した通信容量ではありません。

準備Aではσ0=|0⟩⟨0|、σ1=|1⟩⟨1|とします。ラベル0なら測定結果0、ラベル1なら結果1が必ず出るので、受信者はこの二つのラベルを完全に区別できます。半々の入力なので、LとYの相互情報量は1 bitです。もつれ破壊であっても、古典的な一つのビットを残せる例になっています。

準備Bでは、ラベル1に対する出力だけを|+⟩=(|0⟩+|1⟩)/√2に変えます。ラベル0ならY=0が必ず出ますが、ラベル1ならY=0と1が半々です。全体ではY=0が3/4、Y=1が1/4となります。二値エントロピーをh₂と書くと、相互情報量はh₂(1/4)−1/2≒0.311278 bitです。最適な測定を探した値ではなく、指定したZ測定で読めた情報です。

準備Cではσ0もσ1も|0⟩⟨0|にします。何を送っても同じ出力になるため、Yは常に0。LとYの相互情報量は0です。この場合はZ測定以外を選んでも、同じ出力状態からラベルの違いを読み分けることはできません。

同じZ基底測定から三通りを準備。出力0と1なら指定Z測定の相互情報1 bit、出力0とプラスなら約0.311 bit、出力が両方0なら0 bit。いずれももつれ破壊。
半々の二つのラベルと、指定したZ測定についての独自計算。三つとも、測定後に状態を準備する通信路。数値は一般の通信容量ではない。

残る相関と、準備し直した状態を区別する

三例はすべて同じ形式のもつれ破壊チャネルですが、受信者の読めるラベル情報が違います。理由は、内部の測定結果をどの出力状態に対応させたかが違うからです。測定結果が異なっていても、同じ状態を作れば受信側にはその違いが届きません。

準備Bの|+⟩には、Z基底で見た非対角成分があります。したがって、もつれ破壊チャネルの出力が、どの基底でも単なる対角行列になるとは限りません。ここで新たに準備された出力自身の重ね合わせと、入力が参照系との間に持っていたもつれは別の性質です。

独自計算では、三つの出力のトレースと正半定値性、条件付きの測定確率、相互情報量を照合しました。また、ベル状態の片側へ各操作を適用し、出力が1/2|0⟩⟨0|⊗σ0+1/2|1⟩⟨1|⊗σ1に一致することも確認しています。任意の入力についての説明は上のブロック分解に基づき、数値例を全入力の検査とは扱っていません。

通信路の説明を読む際は、入力だけでなく、外に保持する参照系、内部の測定、再準備する状態、受信側の測定、測定記録へのアクセスを確認します。「もつれが残るか」「古典的なラベルが読めるか」「どの通信課題の性能を測ったか」を分けると、一つの性質から過大な結論を出さずに比較できます。ここで扱ったのは理想的な有限次元モデルであり、実装の雑音や測定装置の性能を推定した結果ではありません。

出典

  1. John Preskill, Quantum Information, Chapter 10: Quantum Shannon Theory(2025年6月改訂の講義草稿)。§10.6.6、本文50–51頁、式10.269。2026年10月23日に公式掲載版の該当箇所を確認。同じ測定から三種類の出力を準備する比較、Z測定の数値計算、ブロック分解による説明、図は独自に構成。