近づいてくる音が高く、遠ざかる音が低く聞こえる現象は、ドップラー効果と呼ばれます。では、音源がこちらへ動く場合と、自分が音源へ向かう場合は、同じ速さなら同じ音になるのでしょうか。静かな空気の中を伝わる音では、厳密には同じになりません。音源の動きは波の間隔を変え、聞き手の動きは波と出会う速さを変えるからです。
簡単にまとめると?
- 音源が近づくと、前方の空気中では波の間隔が狭くなります。聞き手が近づく場合は、波の間隔が同じでも、単位時間に受け取る波の数が増えます。
- 音の速さを343 m/s、音源の周波数を1,000 Hzとした例では、音源が20 m/sで近づくと約1,061.9 Hz、聞き手が20 m/sで近づくと約1,058.3 Hzです。
- この比較で使う速さは空気に対する速さです。音量の変化、反射音、光のドップラー効果は、ここで計算する周波数の変化と分けます。
周波数は、一秒間に何回波が届くか
音は空気の圧力の変動として伝わります。ここでは一つの周波数だけを持つ音を考え、圧力が高くなる部分を順番に数えます。一秒間に1,000回届けば、受け取る周波数は1,000 Hzです。周波数は音の高さに関係しますが、振幅に関係する音の大きさとは別の量です。
音源も聞き手も空気に対して止まっていれば、音源が一回振動する時間と、聞き手に次の波が届くまでの時間は等しくなります。音速をc、音源の周波数をfとすれば、波長λはλ = c/fです。波長は、空気中のある瞬間に隣り合う同じ位相の部分を測った間隔です。
以下では、静止して一様な空気、一定の音速c = 343 m/s、音源の周波数f = 1,000 Hzを仮定します。実測値ではなく、違いを比べるための設定です。音源と聞き手を結ぶ一直線上の運動だけを扱い、風のむら、反射、加速、音速を超える運動は含めません。止まった音源の波長は0.343 m、振動一回の時間は0.001秒です。
音源が近づくと、次の波を出す場所が前へ進む
音源が聞き手へ向かって20 m/sで動くとします。一回の振動にかかる0.001秒の間に、先に出た波は空気中を0.343 m進みます。同じ間に音源も0.020 m進み、その場所から次の波を出します。
そのため、前方に並ぶ波の間隔は0.343 − 0.020で、0.323 mになります。音源が動いても、出た波が空気に対して伝わる速さは、このモデルでは343 m/sのままです。音源の速度を音速へ足しているわけではありません。
止まった聞き手が一秒間に受け取る波の数は、343 ÷ 0.323で約1,061.9 Hzです。音源の接近速度をuと書くと、前方の波長は(c − u)/f、受け取る周波数はf × c/(c − u)となります。音源が一秒間に出す振動の数を変えなくても、到着の間隔が短くなるのです。
聞き手が近づくと、同じ波の列に速く出会う
今度は音源を止め、聞き手が音源へ向かって20 m/sで動くとします。音源は毎回同じ場所から波を出すので、空気中の波長は0.343 mのままです。
ただし聞き手は、近づいてくる波へ自分から向かっています。波と聞き手が出会う速さは343 + 20で363 m/sです。これは聞き手に対する波の接近速度であり、空気中の音速が363 m/sへ変わったという意味ではありません。
一秒間に受け取る波の数は、363 ÷ 0.343で約1,058.3 Hzになります。聞き手の接近速度をuと書くと、式はf × (c + u)/cです。音源が動く式では分母の波長が変わり、聞き手が動く式では分子の出会う速さが変わる、という違いがあります。

遠ざかる場合も含めて、四つを比べる
音源が遠ざかる場合は、次の波を出す位置が聞き手から離れるため、波長が(c + u)/fへ広がります。一方、聞き手が遠ざかる場合には、波長は変わらず、波に追いつかれる速さがc − uへ下がります。uを正の速さとして書くと、四つの式を次のように整理できます。
| 動く側と向き | 受け取る周波数 | u = 20 m/sの例 |
|---|---|---|
| 音源が近づく | f × c/(c − u) | 約1,061.9 Hz |
| 聞き手が近づく | f × (c + u)/c | 約1,058.3 Hz |
| 音源が遠ざかる | f × c/(c + u) | 約944.9 Hz |
| 聞き手が遠ざかる | f × (c − u)/c | 約941.7 Hz |
接近する二つの例では、差は約3.6 Hzです。速さが音速に比べて十分小さいと、この違いは目立ちにくくなります。u/cをqと置けば、音源が動く場合の倍率は1/(1 − q)、聞き手が動く場合は1 + qで、その差はq²/(1 − q)です。違いはqの二乗の大きさから現れるため、低速ではどちらも「およそu/cだけ周波数が増える」という近似になります。
ただし、数値差の小ささから同じ仕組みだと扱うと、条件を変えたときに誤ります。たとえば音源が近づく場合と遠ざかる場合の周波数変化は、元の1,000 Hzから上下に同じ幅ではありません。ここでは約61.9 Hz高くなる一方、遠ざかる場合には約55.1 Hz低くなっています。
相対速度だけを書く前に、空気を基準にする
音の伝わる速さを定めているのは、媒質である空気です。したがって、距離が毎秒何メートル縮むかだけでなく、音源と聞き手がそれぞれ空気に対してどう動くかをそろえて比較します。両方が動く場合も、波長を決める音源側の要因と、到着間隔を決める聞き手側の要因を組み合わせます。
また、道路の脇を通る音源のように、進行方向が常に聞き手へ向いているとは限らない場面では、この一直線の式へ走行速度をそのまま入れることはできません。音を出した位置と、波を受け取る位置の関係を考える必要があります。通過前後の音程や音量の変化を、同じ一つの計算で済ませないことが大切です。
ここでの式は、空気中を伝わる音についてのものです。真空中の光には同じ空気の基準がなく、光のドップラー効果へこの式をそのまま移すことはできません。音源の振動、空気中の波長、聞き手に届く周波数を分けると、「近づくと高くなる」という説明の中にある二つの仕組みを追いやすくなります。
出典
- OpenStax, William Moebs, Samuel J. Ling, Jeff Sanny, University Physics Volume 1, 17.7 The Doppler Effect:式17.18〜17.20、図17.32・17.33。本文と図の1,000 Hz・20 m/sの比較は、明記した条件による独自計算。
