群速度と位相速度、細かな波と包絡線が違う速さで進む理由

淡い青紫色の大きな輪郭の内側に、細かな琥珀色の波が並ぶ抽象アート

細かな波がいくつも並び、その全体が一つのふくらみになって進んでいく。波形を見ていると、内側の山と、ふくらみの中心が同じ速さでは動かないことがあります。「波の速さ」を一つの数字で表す前に、どの部分を追っているかを決める必要があります。

細かな振動の同じ位相を追うのが位相速度、近い周波数の波を重ねたときの包絡線を追うのが群速度です。二つの違いを、波の重ね合わせからたどります。

簡単にまとめると?

  • 位相速度は一つの正弦波の同じ位相が進む速さで、角周波数ωと波数kからω/kで求めます。
  • 近い二つの波を重ねると、細かな振動とは別にゆっくり変化する包絡線ができます。その速さはΔω/Δkで、二つを近づけた極限が群速度dω/dkです。
  • 狭い周波数範囲の波束では群速度が包絡線の移動を表します。分散の曲がりまで効くと波束の形も変わるため、速度一つだけでは伝わり方を表せません。

一つの波では、同じ位相を追う

右へ進む正弦波を A cos(kx − ωt) と書きます。xは位置、tは時間です。波数kは一メートル進む間に位相が何ラジアン変わるか、角周波数ωは一秒に位相が何ラジアン進むかを表します。波長λとはk = 2π/λ、周波数fとはω = 2πfという関係です。

たとえばcosの中身が0の場所を追うなら、kx − ωt = 0を保つように位置が変わります。したがってx = (ω/k)tとなり、その速さはvp = ω/kです。これが位相速度です。波の山を追うという言い方は、この同じ位相を追う操作に対応します。

ただし、一つの正弦波は同じ模様がどこまでも続きます。短い信号のふくらみを表したければ、周波数の違う波を重ねるところへ進む必要があります。

二つを重ねると、別の速さで動く輪郭が現れる

振幅が同じ二つの波を考えます。角周波数の平均をω̄、波数の平均をk̄、二つの差をそれぞれΔω、Δkとすると、三角関数の加法定理から次の式になります。

cos(k₁x − ω₁t) + cos(k₂x − ω₂t)
= 2 cos((Δk x − Δω t)/2) cos(k̄x − ω̄t)

右端のcosは細かな振動です。その手前にあるcosが振幅をゆっくり変え、強め合う部分と弱め合う部分を作ります。この外側の輪郭が包絡線です。差が小さいほど、細かな振動に対して包絡線の変化はゆっくりになります。

包絡線の同じ位置はΔk x − Δω tが一定になるように進むので、その速さはΔω/Δkです。一方、細かな振動の同位相点はω̄/k̄で進みます。平均の比と、差の比。ここが、二つの速さが分かれる出発点です。

同じ波形から、約2 m/sと4 m/sが読み取れる

計算例として、角周波数と波数の関係をω = αk²、α = 0.5 m²/sと置きます。実際の材料を測った値ではなく、速さの違いを見やすくする仮想的な分散関係です。振幅1の波を二つ重ね、k₁ = 3.8 rad/m、k₂ = 4.2 rad/mとすると、ω₁ = 7.22 rad/s、ω₂ = 8.82 rad/sになります。

この二つでは、k̄ = 4 rad/m、ω̄ = 8.02 rad/sです。細かな振動の同位相点は8.02 ÷ 4 = 2.005 m/s。包絡線は(8.82 − 7.22) ÷ (4.2 − 3.8) = 4 m/sで進みます。一秒後には、同じ出発点から追った目印が約2 mと4 mの位置へ分かれます。

二つの正弦波の和を0秒と1秒で比較。包絡線の中心の目印は0メートルから4メートルへ、細かな振動の同位相点は0メートルから2.005メートルへ移動する。振幅は任意単位。二波の繰返し模様の一部であり有限の波束ではない。
独自の二波合成計算。破線は包絡線、青線は合成した波形。オレンジの線は細かな振動の位相の目印で、合成波形の極大点を示すものではない。Quantum Sea作図。

この図は、無限に続く二つの正弦波からできる繰返し模様の一部です。一つだけの短い波束を表した図ではありません。それでも、細かな振動と包絡線が別々に動く仕組みを、近似せず計算できます。

二つの波数を4 rad/mへ近づけると、細かな振動の速さは2 m/sへ近づきます。包絡線の速さは、ω = αk²の傾き2αkをk = 4で評価した4 m/sになります。この極限でvg = dω/dkと定義するのが群速度です。

波束の到着と形を、二段階で考える

有限の波束は、多数の波数成分を重ねて作ります。中心波数k₀の近くに成分が集まり、その範囲でω(k)をほぼ直線とみなせるなら、中心での傾きdω/dkが包絡線の移動速度になります。グラフでいえば、位相速度は原点からその点へ引いた線の傾き、群速度はその点での接線の傾きです。

ω = vkのように原点を通る直線なら、二つはどちらもvになり、各成分がそろって進みます。曲線になっていると、二つの傾きは一般に一致しません。さらに、波束が含む範囲で接線の傾き自体が変わるほど曲がりが効けば、包絡線は移動しながら広がったり形を変えたりします。

短い信号を扱うときは、まず中心付近の群速度から包絡線の移動を考え、その後で信号の帯域にわたる分散から形の変化を調べる。この順序にすると、到着の遅れと波形の崩れを別々に検討できます。ここで扱ったのは線形な重ね合わせと狭帯域近似の説明であり、強い吸収などを含む任意の状況で、群速度をそのまま情報の伝達速度と同一視するための式ではありません。

出典