サーバーラックを交換するとき、運ぶのは「大きな箱」ではありません。機器や電源を載せた重い構造物を、床や周囲の設備を傷めずに、狭い通路の先まで動かします。AI向けの高密度ラックでは、その作業自体が設備設計の一部になります。
2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、OOTTUMのHwang Yongsuk氏は、ラック搬送ロボットの動き・持ち上げ方・荷重の伝わり方を一つの仕組みとして考える案を示しました。完成品の性能発表というより、何を設計し、どう確かめるべきかを整理した資料です。[1・2]
車輪が強いだけでは、運べない
ラックの下にロボットを入れるには、まず床とラック底面の隙間に収まる高さが要ります。入った後は、重さを支えながら少し持ち上げ、通路へ引き出し、向きを変えて置き直す。ラックの幅や支持点、通路の幅、床の段差が変われば、必要な車輪配置や旋回の余地も変わります。[2:pp.5–8、15–17]
OOTTUMの資料が繰り返すのは、ラックの総重量と、床の一か所にかかる力は別という点です。車輪を増やしたり大きくしたりするだけでは、床の許容荷重、接触点の位置、狭い場所での操舵を同時に満たせません。OCPの施設向け指針も、床の「均等荷重」だけでなく、転がる荷重や一点に集中する荷重を分けて扱っています。数値は床の種類と現場条件で確かめる必要があります。[2:pp.8、12、15][3]
持ち上げた重さは、どこを通るのか
資料が「Underlift Integration」と呼ぶのは、ラック下に進入し、下から持ち上げるアンダーリフト構成です。発表された構想では、薄い搬送部の中に駆動、操舵、短い距離のリフトを収めます。ラックの重さは受け板からリフト機構、支持フレーム、車輪へと伝わり、最後に床が受け止めます。この荷重経路を持ち上げ中、走行中、下ろす間で大きく変えないことが設計の狙いです。持ち上げ用のフォーク全体をせり上げたまま運ぶ構成を避けられるなら、ラック下に入るための低さと通路での動きやすさを両立しやすくなります。[2:pp.9–14]
ただ、薄く作るほど車輪、リフト、骨格、配線、センサーを入れる場所が厳しくなります。強度を上げるために厚くすれば、今度はラックの下へ入れなくなる。発表はこの両立を「部品の選択」ではなく、機械全体の配置問題として描いています。ここに載る図は提案する構造であり、量産機の定格荷重や現場での稼働実績を示すものではありません。[2:pp.10–13、19]
「動いた」より先に、安全な止まり方を考える
資料の例示シーケンスは、接近、横からの進入、ラック下への位置合わせ、短いリフト、引き出し、方向転換という順番です。各段階で確認点が違います。持ち上げる前には支持位置と荷重の偏り、走行中には加減速と制動、曲がるときには転倒の安定性と障害物との距離を見ます。停電時に荷重を保持し、安全に止まれるかも、全工程にまたがる要件です。[2:pp.16–18]
現場へ入れる判断には、実際のラック底面、重さ、床、通路を使った検証が欠かせません。発表者自身も、ロボット側の試験と、施設側の条件を一緒に照合する段階を提案しています。資料にあるのは検証の計画と設計の方向であって、あらゆるデータセンターで安全に運べたという結果ではありません。[2:pp.18–20]
ラックの移動を考えると、設置場所の入口から床、ラックの足元までが、一続きの設備に見えてきます。重いものを運ぶ技術は、速さだけでは測れません。「入れる」「支える」「曲がる」「止まる」を、同じ現場条件で確かめられることが次の一歩です。
参考資料
2026年9月23日確認。OOTTUMの構造図と搬送順序は発表者の提案として扱い、実機の安全認証や導入実績とは区別しました。
- OCP「2026 OCP Korea Tech Day」 — 開催日と発表一覧。
- Hwang Yongsuk(OOTTUM)「Motion Architecture for Heavy-Load Server Rack Handling Robots in AI Data Centers」 — 20ページの発表資料。pp.8–19に設計要件と検証案。
- OCP「Colo Facility Guidelines for OCP Racks v2.0」 — 床の転がり荷重、集中荷重と搬入条件の参考。個別施設の許容量ではありません。

コメントを残す