担当が入れ替わった朝、AIに『なぜ、この警報の設定なの?』と尋ねる場面を想像してみます。現在の設定ファイルは読めても、ほかに検討した選択肢や、採用した理由が残っていなければ、答えは推測になりかねません。AIに運用を手伝ってもらうほど、何を守り、いま何が動き、なぜそう決めたかを分けて残すことが大切になります。
2026年8月のOCP Korea Tech Dayで、MegazoneSoftのHoon Jo氏は、この三つをGit上の記録として整理する「GitAIOps」を紹介しました。資料に登場するのはGKE上の通知サービスを使った実習例です。AIが本番環境の変更を自律的に判断し、成功させた実績を報告するものではありません。[1・2]
三つの層は、作業の順番ではなく、情報の役割
一つ目は、毎回守る作業ルールです。発表例のCLAUDE.mdには『変更前に現在の状態を確認する』『kubectlを使うなら接続先を表すcontextを明示する』といった約束が入ります。長い設計書を毎回読ませる代わりに、作業の入口で外せない条件を短く持つ層です。ファイル名は利用するAIツールごとに変わります。[1]
二つ目は、必要なときに開く現在の構成です。例ではクラスタやノードプール、Gateway API、Workload Identityなどの関係を一枚の要約にします。これは設計時の理想図ではなく、『いま、何がどこで動いているか』をつかむための文書です。ただし、文書は更新が遅れることがあります。変更の直前には実際の環境と照らし合わせる必要があります。[1]
三つ目は、決定とその理由を積む記録、ADR(Architecture Decision Record)です。資料の例では警報の条件をPrometheusRuleで管理する選択と、Grafana Alertingを使う選択を比べ、PromQLによる条件指定、Gitでの版管理、Alertmanagerへの経路づけを理由に残しています。『何を使うか』だけでなく『なぜ別案を選ばなかったか』が読めれば、次の担当者も前提を点検できます。[1]
発表者自身が、この三層は実行手順を上から順に並べたものではなく、役割と読み込むタイミングの違いだと説明しています。ルールは入口で、構成は必要になった時点で、ADRは理由を問う場面で使う。全部を一度に詰め込むより、問いに合う記録へたどり着ける形です。公開された実習リポジトリにも、ツールの入口ファイルと共通の作業ガイドを分ける構成が見られます。[1・3]
記録が役立つのは、次の変更まで手入れしたとき
資料は『作業する→新しい判断が生まれる→ADRに残す→現在の構成を更新する』という習慣を示します。たとえば警報の条件を変えたのにADRだけが古いままなら、AIは過去の理由を現在の理由として説明してしまいます。逆に現在の構成だけを書き換えれば、変更を戻すときに何を守ろうとしたのかが分かりません。両方を同じ変更の中で見直すところに、この方法の価値があります。[1]
登壇資料には、記録をもとに質問へ答えたり、新しい担当者向けの案内文を作ったりするデモの進行が載っています。ただ、資料だけでは回答の正確さや再現性、実運用での効果は測れません。『Gitへ置けばAIがいつも正しい』という結論ではなく、根拠に戻って確かめられるようにする設計例として読むのがよさそうです。[1]
AIへ渡す前に、人が決めておく境界
Git上の文書は共有しやすい反面、秘密鍵や顧客情報をそのまま置く場所ではありません。AIが読める範囲と、実行できる操作も別に考えます。たとえば構成の説明や変更案の作成までは任せても、本番への適用には人の承認と別の権限を求める。記録の更新をレビューする人、古い記述を直す人も決めておきたいところです。これらは発表の三層を実務へ持ち込む際の編集上の補足であり、デモで安全性が検証されたという意味ではありません。
AIに覚えていてほしいのは、単なる会話の続きではありません。守る約束と現状、選択の理由が次の仕事でも読めること。まず一つの運用判断について、代案と採用理由を短く残すところから始めれば、AIにも人にも、迷ったとき戻れる道ができます。
登壇企業について
MegazoneSoftの事業や、Google Cloudの導入・運用を支える役割は、cyclewaveの企業解説でまとめています。
参考資料
2026年9月23日確認。登壇スライドのデモ説明を参照し、講演動画や回答精度の独立検証は根拠に含めていません。OCPの暫定スケジュールは講演名・登壇者表記がスライドおよび資料一覧と異なるため、本記事では資料一覧とスライドを優先しました。
[1]MegazoneSoft / Hoon Jo『GitAIOps: A Three-Tier Memory Structure for AI Agents』OCP掲載スライド(19頁。三層はpp.7–10、更新習慣はp.11、デモの説明はpp.13–15、導入の考え方はp.16)。
[2]Open Compute Project『2026 OCP Korea Tech Day』発表一覧(開催日、資料名、登壇者の掲載)。
[3]発表者のGitAIOps実習リポジトリ(学習用の構成例。実運用性能の証明としては用いていません)。

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