高温の物体から出る光を波長ごとに並べると、強さの分布にゆるやかな山が現れます。ところが、同じ光を周波数ごとに並べ直すと、山の頂上は元の波長に対応する場所からずれます。光の性質が変わったのでしょうか。
この違いを説明するのが、黒体放射のプランク分布と、分布を「何の幅あたり」で表すかという関係です。波長と周波数は一対一に対応しますが、同じ幅で区切った範囲までは対応しません。3000 Kの理想的な黒体を例に、二つのピークを比べてみます。
簡単にまとめると?
- 波長あたりの強さと周波数あたりの強さは、同じ光を違う幅で集計した分布です。横軸の数字を換算するだけでは変換できません。
- 3000 Kでは、波長あたりの分布は約0.966 µm、周波数あたりの分布は約176 THzで最大になります。この周波数に対応する波長は約1.70 µmです。
- 対応する範囲の放射を合計すれば、どちらの表示でも一致します。温度や光の強さを比べるときは、横軸とともに縦軸の単位も読みます。
「一つの波長の強さ」は、どれだけの幅を集めた値か
黒体とは、入ってきた放射をすべて吸収する理想的な物体です。熱平衡にある黒体の放射は温度で決まり、そのスペクトルをプランクの法則で表せます。ここでは真空中の波長を使い、特定の材料や測定器のデータではなく、理想分布を計算します。
まず、光を波長1 nmずつの箱に分けて集めることを想像してください。ある箱の値は、その1 nmの範囲に入った放射の合計です。箱を十分に細かくしたときの「波長の幅あたり」の量を、波長表示の分光放射輝度 Bλ と呼びます。放射輝度は、面積と観測する方向の広がりにもそろえた光の強さです。
周波数表示の Bν は、同じものを周波数の幅あたりで表します。νは周波数を表すギリシャ文字のニューです。SI単位では、それぞれ W m−2 sr−1 m−1 と W m−2 sr−1 Hz−1。最後の「1 mあたり」と「1 Hzあたり」の違いが、山の形に関わります。[1]
同じ10 nmでも、周波数の幅は同じにならない
波長λと周波数νの関係は ν=c/λ です。cは真空中の光速で、波長が長くなるほど周波数は低くなります。この式で二つの区間を換算すると、幅の違いが見えてきます。
- 500〜510 nmは、約600〜588 THz。周波数の幅は約11.8 THzです。
- 1000〜1010 nmは、約300〜297 THz。周波数の幅は約2.97 THzです。
どちらも波長の幅は10 nmですが、前者は約4倍の周波数範囲を含みます。逆に、一定の周波数幅で箱を作ると、長い波長側ほど広い波長範囲が一つの箱に入ります。「幅あたりの強さ」を比べるための箱そのものが変わるので、分布の最大になる場所も動きます。
十分に小さな幅なら、その換算は次のように書けます。
|dν|=(c/λ2) |dλ|
Bλ=Bν × c/λ2
二つ目の式の右辺では、同じ波長に対応する周波数ν=c/λで Bν を評価します。波長の値を置き換えるだけでなく、幅の換算係数 c/λ2 を掛ける必要があるわけです。符号を絶対値にするのは、波長が増えると周波数が減るためです。[1]
3000 Kの二つのピークを比べる
波長表示のピークには、ウィーンの変位則が使えます。ピーク波長と絶対温度の積は約2898 µm·Kなので、3000 Kなら 2898/3000 ≈ 0.966 µmです。一方、周波数表示のピークは、温度1 Kあたり約58.79 GHzの割合で高くなり、3000 Kでは約176.4 THzになります。[2][3]

0.966 µmの光の周波数は約310.4 THzです。これは下段のピーク176.4 THzとは一致しません。反対に、176.4 THzを波長へ換算すると約1.70 µmになり、上段のピークより長い側に来ます。二つの曲線は、同じ物理的な光について異なる密度を表しているので、この違いは計算の矛盾ではありません。
もし周波数表示のピークを1.70 µmに換算し、波長表示用のウィーンの定数をその波長で割ると、温度は約1705 Kになってしまいます。本来の3000 Kから大きくずれるのは、表示に対応しないピークの式を使ったためです。逆に、どちらの表示でも、その表示に合ったプランク分布と比べれば同じ温度を得られます。
変わらないのは、同じ範囲に入る放射の合計
たとえば、波長1.00〜1.01 µmの範囲は、周波数では約296.82〜299.79 THzです。この区間の Bλ を波長について積分した値と、対応する区間の Bν を周波数について積分した値は一致します。3000 Kの計算例では、どちらも約9.92×103 W m−2 sr−1です。幅を掛けて合計に戻すと、表示の違いが消えます。
横軸を対数目盛りにするだけでは、縦軸が表す「幅あたり」の意味は変わりません。一定の割合の幅、たとえば波長が1%増える区間ごとの放射を比較したいなら、λBλ や νBν を使います。この二つは対応する波長・周波数で等しくなり、自然対数の幅あたりの分布になります。[1]
スペクトルを見るときは、まず縦軸が波長幅あたりなのか、周波数幅あたりなのか、それとも区間の合計なのかを確かめると、ピークの意味を追いやすくなります。実測では、材料の放射率や測定器の波長ごとの感度も分布に重なります。ここで計算した黒体のピークだけから、実物の温度や見た目の色を一意に決めることはできません。
出典
- Jonathan M. Marr and Francis P. Wilkin, A better presentation of Planck’s radiation law(arXiv v3、2012年3月13日登録。式(1)(2)、II B、III C)。
- Michael Fowler, University of Virginia, Black Body Radiation(A Note on Wien’s Displacement Law、2026年10月25日参照)。
- NIST, 2022 CODATA recommended values of the fundamental physical constants(光速、プランク定数、ボルツマン定数、波長・周波数のウィーン定数。2026年10月25日取得)。
