ショット雑音は増えるのに、信号に対する揺らぎが小さくなる理由

青灰色と淡い杏色の微粒子が集まる一本の曲がった柱で、光検出の集積と揺らぎを表す抽象アート

暗い場所で受け取る光を増やすと、光の強さを測りやすくなることがあります。ところが、光を電気信号へ変えるときのショット雑音(shot noise)は、平均の光電流が大きいほど、その絶対量も増えます。雑音が増えることと、測定が安定することは、どう両立するのでしょうか。

鍵になるのは、揺らぎの大きさそのものと、信号に対する揺らぎの割合を分けることです。独立した検出の出来事を数える理想的な模型では、信号の増え方が揺らぎの増え方を上回ります。

簡単にまとめると?

  • 光の検出には、一つ一つの出来事が起こる時刻や個数のばらつきがあります。これがショット雑音のもとになります。
  • ポアソン分布で表せる場合、平均の検出数が100倍になると、個数の標準偏差は10倍、平均に対する割合は10分の1になります。
  • 実際の測定では、観測時間や帯域、検出器の飽和、ほかの雑音もそろえて比べます。光を増やせば際限なく改善するわけではありません。

滑らかな電流にも、一つ一つの検出がある

フォトダイオードは、吸収した光によって電子と正孔を生じさせ、電流として取り出す素子です。平均すると一定に見える電流も、細かく見れば、光を受けて電荷が生まれる出来事の積み重ねになっています。

ここでは、平均の発生率が一定で、各出来事を互いに独立とみなせる場合を考えます。同じ長さの時間窓を何度も使っても、検出される数は毎回同じにはなりません。平均が100なら、各回の結果が必ず100にそろう、という意味ではないのです。

この個数のばらつきを表す模型がポアソン分布です。時間窓内で検出した光電子数をN、その平均をμとすると、分散はμ、標準偏差は√μになります。光電子数とは、入射した光子の総数そのものではなく、光の検出によって得られた電荷を個数として数えたものです。

100倍の信号に、10倍の揺らぎ

同じ観測時間と検出条件で、ポアソン模型に従う二つの明るさを比べます。暗電流や読み出し回路の雑音、検出器の飽和は含めない仮定例です。

比べる量 平均100個 平均10,000個
平均の光電子数 μ 100 10,000
標準偏差 √μ 10個 100個
平均に対する割合 1/√μ 10% 1%
平均÷標準偏差で定義したSNR 10 100
ポアソン分布を仮定した計算例。割合は標準偏差を平均で割った値で、測定誤差の上限や個々の測定結果を保証する値ではありません。計算:Quantum Sea。

右の例では、個数の揺らぎは10個から100個へ増えています。それでも信号は100個から10,000個へ増えるため、信号に対する割合は小さくなります。「雑音が増えた」と「信号が見分けやすくなった」は、見ている量が違うのです。

ここでのSNR(信号対雑音比)は、平均を標準偏差で割った値で、√μとなります。この定義なら、SNRを2倍にするには平均の検出数が4倍必要です。電力の比で定義したSNRや、デシベルで表した値とは数値の表し方が違うため、仕様を比べるときには定義もそろえます。

電流として測るときは、帯域も効く

一つずつ数える代わりに、連続した光電流の揺らぎを測ることもあります。独立した電荷の流れを扱い、測定範囲で応答が十分速い模型では、ショット雑音の電流の実効値はirms = √(2eIB)と表せます。eは電気素量、Iは平均電流、Bは測定系の等価雑音帯域幅です。

Bは、フィルターを通った雑音をどの周波数範囲からどれだけ集めるかを表します。単に機器に書かれた上限周波数を代入すればよいとは限りません。同じIでもBを4倍にすると、この模型の雑音実効値は2倍になります。一方、Bを固定してIを増やすと、雑音は√Iに比例して増え、平均電流に対する割合は1/√Iに比例して小さくなります。

速い変化を追うために帯域を広げれば、より多くの雑音も通します。逆に長く平均すれば、安定した信号の相対的なばらつきを減らせる一方、その間の速い変化をならしてしまいます。必要な時間分解能と、知りたい信号の大きさを一緒に考える理由です。

光量を増やす前に、何が揺れているかを見る

ここまでの平方根の関係には、検出の出来事を独立とみなせる条件があります。光源そのものの強度変動や検出の相関が大きい場合、ばらつきをすべてポアソン分布で説明することはできません。暗電流や回路の雑音が支配的な弱い信号では、実際のSNRも表の値から変わります。

強い光では、検出器が飽和し、入力に比例して信号を取り出せなくなることがあります。また、超短パルスからマイクロ波を取り出す測定では、振幅の揺らぎと位相の揺らぎへ雑音がどう分かれるかも重要です。Quinlanの解説は、この分かれ方が光パルスの条件で変わることを示しています。電流全体の雑音を表す式を、位相だけの雑音へそのまま読み替えることはできません。

比べたいのが検出数、電流、位相のどれなのかを決め、観測時間や帯域、平均信号、飽和の有無をそろえる。そのうえで揺らぎの絶対量と信号に対する割合を並べると、光を増やすことがどこまで役に立つのかを判断しやすくなります。

出典