太陽電池の材料には、光をよく吸収する性質が求められます。しかし、光を受け取って生まれた電子と正孔がすぐに再結合すると、電流として取り出す前にその働きが失われます。薄くても光を吸収でき、電荷は長く残る。その組み合わせを材料の電子構造から探る研究が、2026年10月28日付のNatureに掲載されました。
オックスフォード大学と武漢大学などの研究チームが調べたのは、硫化ビスマス(Bi₂S₃)の薄膜です。光を強く吸収できる「直接遷移」の近くに、再結合しにくい「間接遷移」がある電子構造を実験と計算で調べ、これを擬直接型半導体と位置付けています。太陽電池の発電効率を更新した報告ではなく、材料の中で電荷が失われる仕組みを捉えた成果です。
簡単にまとめると?
- 硫化ビスマスでは、強い光吸収に関わる状態のすぐ近くに、電子と正孔が再結合しにくい状態があります。
- 温度と照射する光の強さを変えた測定をモデルと比べ、約40meVのエネルギー差が再結合を遅らせる仕組みを検討しました。
- 今回の薄膜では太陽光相当の励起条件で欠陥による損失が支配的です。材料の利点を太陽電池へ生かすには、欠陥を抑える工程などが必要です。
よく吸収する材料では、光を出して戻る過程も速い
半導体が光を吸収すると、電子がより高いエネルギーの状態へ移り、元の場所には正孔と呼ばれる空きができます。電子と正孔は電荷を運ぶ担い手、つまり電荷キャリアです。電極へ取り出せば電流になりますが、途中で両者が再結合すると、取り出せる電荷が減ります。
この再結合には複数の経路があります。材料の欠陥を介する損失と、電子と正孔がバンド間で再結合する過程は、改善の方法が異なります。前者を減らしても、材料本来の電子構造が決める後者は残るため、欠陥の少ない材料ほどその性質が重要になります。
直接遷移型の半導体では、電子が光を吸収して移る過程と、光を放って戻る過程が起きやすくなります。一方、間接遷移では結晶中の運動量のつじつまも合わせる必要があり、格子振動などの助けが必要になります。そのため光吸収は弱くなりやすいものの、再結合も遅くなります。強い吸収と遅い再結合をどう組み合わせるかが、今回の研究の焦点です。
吸収に使う状態の近くに、電荷が滞在できる状態を置く
研究チームは、石英基板上に約150nm厚の硫化ビスマス薄膜を作り、光吸収と光を当てた後の電荷の動きを調べました。第一原理計算も合わせると、最も低いエネルギーの遷移は間接型で、その少し上に直接型の遷移があることが分かりました。両者の差は約40meVです。meVはエネルギーの単位で、この差は室温の熱エネルギーと同じ程度の大きさです。
光を吸収する際には強い直接遷移が働きます。その後の電荷は、より低いエネルギーを持つ間接遷移側の状態にも分布します。ここで過ごす割合が増えると、速い直接再結合へ参加する割合が減り、全体としての再結合が遅くなります。すべての電荷が一方通行で逃げ込み、永久に戻らなくなる仕組みではありません。二つの状態の間で熱的に分布することが要点です。
この配置が「擬直接型」と呼ばれる理由です。単純な直接型か間接型かという二択では捉えにくく、吸収には直接型の性質を使い、再結合には近接する間接型の状態も効いてきます。エネルギーを大きく失う深い状態へ電荷を落とす方法と比べ、電圧の損失を小さく抑えながら寿命を延ばせる可能性があります。

温度と光の強さを変えて、原因を切り分ける
長く残る電荷を観測するだけでは、それが狙った電子構造によるものか、欠陥の影響なのかは分かりません。そこで研究では、光パルスで電荷を作り、テラヘルツ波の透過の変化から光伝導の時間変化を測りました。照射する光の強さも変え、電荷を多く作ったときに減り方がどう変わるかを比べています。
欠陥を介する成分と、電子と正孔の組合せで生じる成分では、電荷密度への依存性が異なります。後者は密度が高いほど効きやすくなるため、複数の照射強度のデータをまとめてモデルへ当てはめることで、二分子再結合係数k₂を推定できます。「二分子」はここでは二つの電荷キャリアが関わる反応次数を表し、分子材料を使うという意味ではありません。
室温で得たk₂は約5×10⁻¹¹cm³/sでした。これは再結合の起きやすさを表す係数で、電荷の寿命そのものではありません。同じ係数でも電荷密度が高ければ再結合は速くなり、欠陥による別の損失が加われば寿命はさらに短くなります。
温度を下げると、電荷は低い側の状態へ集まりやすくなり、k₂は一度小さくなりました。さらに低温では再び増える傾向もあります。単に「冷やすほど良い」とする説明ではなく、状態間の分布と、各状態内での分布の幅の両方を考えたモデルで、この温度依存性を比較しています。実験への当てはめから得たエネルギー差は約38meVで、第一原理計算の約40meVと整合しました。
「75%減少」が示すもの
論文が示す室温で約75%の抑制は、同じ吸収係数を持つ純粋な直接型半導体と、約40meVの差を持つ擬直接型のモデルを比較した再結合係数の低下です。完成した太陽電池で損失が75%減った、あるいは発電効率が75%上がったという測定結果ではありません。
| 今回確かめたこと | まだ同じ意味にはならないこと |
|---|---|
| 薄膜の吸収と、温度・照射強度に依存する光伝導を測定 | 完成セルの発電効率や長期耐久性の実証 |
| 測定を再現する約38meVの差と、計算の約40meVが整合 | どの製造条件でも同じ電子構造・欠陥密度になる保証 |
| 直接型とのモデル比較でk₂を約75%抑制 | すべての再結合経路を合計した損失が75%減少 |
また、研究の計算は、吸収と放射を結ぶvan Roosbroeck–Shockley関係を使っています。熱力学やプランクの法則を無効にしたという話ではありません。光吸収に効く状態と、電荷が分布する状態を複数考えることで、単純な直接型・間接型の材料に当てはめた場合とは異なる組合せを作れる、という読み方が適切です。
実用化への次の一歩は、欠陥による損失を減らすこと
補足資料は、今回の硫化ビスマス薄膜では、太陽光に相当する励起条件での寿命は欠陥を介する成分に支配されると明記しています。擬直接型という電子構造の利点があっても、別の経路から先に電荷が失われれば、太陽電池としてその利点を取り出せません。欠陥の影響を抑えるパッシベーションが必要になる理由です。
材料を比較する際は、吸収の強さとk₂に加え、欠陥による再結合、電荷の輸送、電極との接続、光電圧の損失を合わせて見る必要があります。今回のTHz測定で得た有効移動度も、短い時間・距離での応答であり、そのまま電極まで電荷を運べることの証明にはなりません。
新しい材料探索の手がかりは、直接遷移と間接遷移の近さを設計対象にできる点です。研究チームはほかの候補材料の探索や、層・リボン間の距離を変えてエネルギー差を調整する方法を提案しています。今後はその電子構造を狙って作り、欠陥の少ない膜や実際の素子で、光を吸収した後の電荷をどれだけ回収できるかが問われます。
