IOWN APNで750 Gbps超、NTT東西とNIIらが確かめた長距離転送の条件

離れた二つの透明な積層体を、青と淡い橙の二本の光の流れが結ぶ抽象画

離れた研究拠点で同じ大容量データを使うとき、計算機だけを速くしても、データの移動に時間がかかれば解析を始められません。回線を太くするだけでなく、送り出すストレージ、受け取るストレージ、転送ソフトまで含めて、その帯域を使えるかが問われます。

国立情報学研究所(NII)、理化学研究所、東京大学、NTT東日本、NTT西日本は2026年10月30日、IOWNのAll-Photonics Network(APN)を使った神戸・柏間の転送実験を発表しました。800 Gbpsの回線で二つの実用アプリケーションを同時に動かし、合計で最大約775 Gbps、750 Gbpsを超える速度を数分間維持したと報告しています。ここでは、回線の帯域、測った速度、実際に使った検証環境を分けて見ていきます。

簡単にまとめると?

  • APNの800 Gbps回線を、二つのアプリケーションの同時転送で高い割合まで利用しました。単一アプリケーションの速度を示す値ではありません。
  • HPCI共用ストレージの第二世代の検証環境と、NVMe SSDを多数搭載したサーバ上のMMCFTPを組み合わせています。現在サービス中の第三世代ストレージ全体の性能保証ではありません。
  • ピーク値だけでなく750 Gbps超を数分間継続した点が成果です。長時間運用や個々のファイルの完了時間は、別途確かめる必要があります。

光の回線からストレージまで、どこをつないだのか

APNは、光を中心としたネットワーク技術です。今回利用したのはNTT東西の光波長専有接続サービス「All-Photonics Connect powered by IOWN」。光の波長を専有する接続を、遠隔拠点間の大容量転送に使っています。

実験では、大阪のNTT西日本局舎と柏のNTT東日本局舎を800 GbpsのAPN回線で結びました。各局舎と理研の神戸拠点、東大の柏拠点との間は、それぞれ400 Gbpsの回線を2本使っています。「神戸・柏間800 Gbps」という説明の中にも、局舎間の回線と、研究機関へ接続する部分があるわけです。

通信の遅延についても、同じ実証環境で測定しています。APNの遅延値は、両拠点を結ぶ学術情報ネットワークSINETと比べて約20%低かったと報告されました。この値は今回の経路と測定条件での比較です。あらゆるAPN回線が、あらゆるSINET経路より20%速いことを意味しません。

二つのアプリケーションで回線を使う

一つ目は、理研と東大が運用するHPCI共用ストレージです。離れた計算機資源で大規模なデータを共有する基盤で、ネットワーク共有ファイルシステムGfarmを使っています。ただし、今回の実験に使ったのは、現在サービス中の第三世代ではなく、前の第二世代を用意した検証環境です。

もう一つは、NIIが開発した恒速・高速ファイル転送ツールMMCFTPです。多数の通信接続を使い、指定した速度での転送や複数経路での転送を支える仕組みです。今回はこちらを動かすため、多数のNVMe SSDを搭載したNIIのサーバを両拠点に設置しました。NVMe SSDは、サーバ側でデータを読み書きする高速な記憶装置です。

なぜストレージやソフトまで説明するのでしょうか。回線に余裕があっても、送り手がデータを十分に読み出せなかったり、受け手の書き込みが追いつかなかったりすれば、利用できる転送速度は下がります。通信ソフトが同時に進められる処理の量も関わります。今回の結果は、光回線そのものに加え、こうした端の装置とアプリケーションを組み合わせた実証として読む必要があります。

800、775、750 Gbpsは何を表しているか

研究グループは回線が所定の性能で動くことを確認した後、アプリケーションの設定を変えながら、断続的に転送実験を行いました。二つのアプリケーションを同時に使ったときのピークが約775 Gbps。800 Gbpsの回線帯域に対して約97%に相当します。加えて、750 Gbps超を数分間続けられることも確かめています。

発表の数字・条件 確認されたこと その数字だけでは分からないこと
800 Gbps 局舎間APN回線の帯域 個々のファイルの転送完了時間
最大約775 Gbps 二つのアプリケーションを同時に使った際のピーク 片方だけを動かした場合の速度
750 Gbps超を数分間 高い速度を一定時間継続したこと 一日中の運転や障害時にも同じ速度を保てること
遅延値が約20%低減 今回の実証環境におけるSINETとの比較 別の経路・装置・条件での遅延差
共同発表に基づき作成。回線の仕様、測定結果、測定していない範囲を分けて整理した。

発表の図2は、東大側で測ったネットワークトラフィックの推移です。設定を変えた複数の実験区間が描かれており、図の全時間で750 Gbpsを超えていたわけではありません。また、合計のネットワークトラフィックを、そのまま一つのファイルの有効データだけの転送速度と読み替えることもできません。どの層で、何本の処理を合わせて測った値なのかを確かめると、実験の成果を過大にも過小にも捉えずに済みます。

研究データの共有へ、次に確かめたいこと

例えば、神戸で蓄えた研究データを柏でも解析したい場合、関心があるのは回線のカタログ値だけではありません。必要なデータを何時間でそろえられるか、他の利用者がいるときも速度を保てるか、転送が中断したときに再開できるかが、実際の運用を左右します。

今回の発表が示したのは、長距離の光回線を、既存の二つの実用アプリケーションで高い割合まで利用できたという成果です。一方、個別のストレージ性能、ファイル構成、並列処理の数などが変わった場合の結果までは示していません。導入を考えるときは、最大速度だけを比較せず、自分たちの読み書き性能や転送するデータの特徴に近い条件で検証することが大切です。

共同研究は今後もデータ同期技術などの検討を続け、次期SINET等の検討にも生かす方針です。また、2026年11月のSC26では、実験環境の400 Gbps部分を米国シカゴの会場まで延ばし、MMCFTPによるファイル転送を行う予定としています。10月30日の発表時点では将来の計画であり、日米間で同じ結果を達成済みという報告ではありません。

この実証の光回線を支える企業については、CyclewaveのNTT東日本の企業解説とNTT西日本の企業解説で紹介しています。回線の提供から、企業のシステム導入・運用を支える仕事までを知るための案内です。

出典