MOFのマグネシウムイオン伝導、溶媒分子の動きから仕組みに迫る

淡い杏色の多孔質の骨組みの中で、緑色の球を薄紫の花弁状のかけらが囲む抽象画

電池の中でイオンを動きやすくするには、通り道だけでなく、その周囲にいる分子の働きも知る必要があります。理化学研究所、東京理科大学、東京大学などの共同研究グループは、細かな孔を持つ材料に取り込まれたアセトニトリルという分子の動きを調べ、マグネシウムイオンが移動しやすくなる仕組みを支える実験結果を報告しました。

論文は2026年9月29日にJournal of the American Chemical Societyのオンライン版に掲載され、10月21日に共同研究の発表が行われました。新たな電池の容量記録を示した研究ではなく、すでに高いイオン伝導度が知られていた材料について、内部の分子がどう動くかを掘り下げた研究です。

簡単にまとめると?

  • 金属–有機構造体(MOF)の細孔に入れたマグネシウム塩とアセトニトリルの組み合わせを調べました。
  • 中性子準弾性散乱(QENS)で捉えたのは主にアセトニトリル分子の運動です。マグネシウムイオンの移動経路を直接撮影したわけではありません。
  • 分子がイオンに結びついたり離れたりするという解釈が、イオンを動きやすくする仮説を支えます。電池としての性能は別の検証を要します。

細孔の中で、溶媒分子がイオンを取り巻く

金属–有機構造体、略してMOFは、金属と有機分子を組み合わせた骨組みの中に小さな空間を持つ材料です。今回使ったMIL-101というMOFでは、その細孔にマグネシウム塩を導入し、さらにアセトニトリルの蒸気を吸収させています。研究ではこの試料をAN-Mg-MOFと呼びます。ANはアセトニトリルの略称です。

マグネシウムイオンは、正の電荷を二つ持つMg2+として移動します。電荷を多く運べる一方で、周囲のイオンなどと強く相互作用し、固体中では動きにくくなることが課題です。このため、イオンが入る空間を作っただけで、速く移動できるとは限りません。

先行研究では、MIL-101へ塩とANを取り込ませると、高いMg2+伝導度が得られることが分かっていました。その説明として提案されていたのが、ANがMg2+に「配位」する働きです。配位とは、ここでは分子がイオンの周囲で結びついている状態を指します。ANが取り巻くことで、Mg2+と周囲のイオンとの静電的な相互作用を弱め、動きやすくしているのではないかと考えられていました。

中性子で分子の動く時間と距離を調べる

材料全体に電流を流す測定は、イオンが通りやすいかを知るのに役立ちます。しかし、その値だけでは、内部の分子がどんな動きをしているかは分かりません。研究チームは、中性子準弾性散乱(QENS)という方法を使いました。

動いている分子に中性子が散乱されると、わずかなエネルギーのやり取りが起こります。その結果として現れる信号の広がりを解析すると、分子の運動がどのくらいの時間で変化するかを調べられます。これは、一つひとつの分子に印を付けて動画として追う測定とは異なります。得られた信号と、連続的な拡散や飛び移る拡散を表すモデルを比べて、動き方を読み取ります。

また、温度を変えたときの熱容量も測定しています。試料を温めるために必要な熱の量を調べることで、分子の並びや運動状態が変わる領域を探れます。運動の信号だけで判断せず、試料の状態を示す別の測定と組み合わせた点も、この研究の特徴です。

塩の有無と、細孔の有無を分けて比較する

比較の中心となるのは、ANだけの場合、ANにマグネシウム塩を混ぜた場合、MOFにANだけを入れた場合、MOFにANと塩の両方を入れた場合です。最後の試料だけを測ると、分子の動きが変わっても、細孔の壁の影響なのか、塩の影響なのかを分けられません。

比べる組み合わせ 切り分けたい影響
細孔の外のANと、塩を含むAN 塩を加えることが分子運動に与える影響
細孔の外のANと、MOF内のAN 細孔の壁に囲まれる影響
MOF内のANと、MOF内のAN+塩 閉じ込められた環境で塩が加わる影響
試料の比較が果たす役割を整理したもの。実測値を再現した表ではありません。

解析では、塩を含まない試料のANは連続的な拡散モデルで説明され、塩を含む試料は、ある場所から別の場所へ飛び移る「ジャンプ拡散」のモデルでよく説明されました。AN-Mg-MOFで求められたANの平均的なジャンプ距離は約1.6オングストローム、ナノメートルに直すと約0.16ナノメートルでした。これはANの運動についての値であり、Mg2+が一度に進む距離ではありません。

溶媒の動きが遅くても、イオンを助けることがある

ANの拡散係数は、細孔の外のAN、塩を含むAN、MOF内のAN、MOF内のANと塩の順に小さくなりました。ここでいう拡散係数は、ANがどの程度広がっていくかを表す量です。材料全体のMg2+伝導度と同じ測定量ではありません。

この違いを押さえると、「ANの動きが遅いのに、なぜMg2+を動きやすくすると考えるのか」という疑問を整理できます。研究チームは、ANがMg2+との結びつきを作ったり切ったりしながら拡散していると解釈しています。イオンのそばにとどまることはAN自身の自由な動きを妨げますが、その結びつきが周囲との静電的な相互作用を弱めるなら、Mg2+の移動には有利に働く可能性があります。

今回の結果は、この説明と整合する分子運動を示しています。ただし、ANの動きとMg2+の動きは別です。ANのジャンプ距離や拡散係数を、そのままMg2+の移動距離や速さへ置き換えてはいけません。

材料の仕組みと、電池の評価をつなぐには

次の材料を比較するときには、イオン伝導度の数値に加えて、細孔、塩、溶媒分子の組み合わせをそろえて読むことが大切になります。同じMOFでも、中に保持する分子が変われば、イオンを取り巻く環境は変わるからです。

一方、材料中をイオンが通りやすいことだけで、充放電できる電池が完成したとはいえません。電極と接する部分で反応が安定して続くか、繰り返し使えるか、といった評価へつなぐ必要があります。Mg2+が二つの電荷を持つことも、電池の容量やエネルギー密度が自動的に2倍になることを意味しません。今回の進展は、性能値の背後にある分子の役割を調べ、材料設計の理由をより具体的にした点にあります。

出典

  1. Shun Sato et al., Calorimetric and Quasielastic Neutron Scattering Studies on a Mg-Ion Conductor Using a Metal–Organic Framework MIL-101 Involving Acetonitrile, Journal of the American Chemical Society 148, 43303–43312(オンライン公開2026年9月29日、号掲載10月14日)。公開要旨と書誌情報。
  2. 理化学研究所ほか、金属-有機構造体におけるMg2+伝導機構の実験的裏付け(2026年10月21日)。研究方法、図1〜3と解説。東京大学物性研究所の紹介(10月26日)も同じ共同研究に関するものです。