適応的な量子ビット符号化で、連続値の探索範囲を動かす

間隔が少しずつ狭くなる淡い青の陶器の形と、小さな桃色の石を組み合わせた抽象画

量子ビットで最適化を行うとき、温度や位置、照射の強さのような連続した値を、そのまま無限の精度で扱えるわけではありません。たとえば一つの変数に2ビットを割り当てると、表せる候補は四つです。最初に四つの値を固定してしまうと、調べたい範囲を外したり、よい解の近くを粗くしか探せなかったりします。

2026年11月2日に公開されたSamuele Cavinato氏らの「Adaptive Qubit Encoding for Continuous-Variable Quantum Optimization」は、ビット列に対応する実数を、探索の途中で変える方法を提案しています。適応的な量子ビット符号化と、元の関数を局所的に近似するモデルを組み合わせた研究です。評価に使ったのは、量子状態の表現を応用する古典計算であり、量子プロセッサによる高速化の実証ではありません。

簡単にまとめると?

  • 一度に表せる候補の数を保ったまま、基準値と刻み幅を変え、別の範囲や細かさで探索します。
  • 元の目的関数を近傍で評価して二次の代理モデルを作り、そのモデルが提案した候補を、元の関数でもう一度確かめます。
  • 数値実験では有望な比較結果がありますが、計算時間の優位や実機での量子優位、臨床規模の治療計画を示した結果ではありません。

四つの候補は、ずっと同じ四つでなくてよい

この方法では、各変数に基準値aと正の刻み幅δを持たせます。2ビットの場合、00、01、10、11は、それぞれa−2δ、a−δ、a、a+δに対応します。基準の左右に完全に対称な四点を置く符号化ではありません。

たとえばa=1、δ=0.2なら、候補は0.6、0.8、1.0、1.2です。別の反復でa=0.8、δ=0.05という設定を使えば、同じ四つのビット列が0.70、0.75、0.80、0.85を表します。ビット数は増えていませんが、注目する場所と細かさが変わります。

2ビットで表す四つの値を、基準1と刻み0.2では0.6、0.8、1、1.2へ、基準0.8と刻み0.05では0.7、0.75、0.8、0.85へ対応させる例
論文の式(2)を使った二つの設定例。特定の最適化実行の履歴を表すものではありません。Quantum Sea作成。

各反復で選べる値は、あくまで有限個です。無限個の実数を2量子ビットに同時に保存するわけではありません。基準値と刻み幅を古典側で管理し、次の有限問題を作り直すことで、探索全体では最初の四点に縛られなくなります。

刻み幅は、変数ごとの履歴で更新します。その変数も目的関数の値も動かなければ、刻みを小さくして近くを詳しく調べます。その変数は動かず、ほかの変数の変更などで目的関数が改善したなら、刻みを広げて周囲を探索します。変数自体が変わった場合には、その刻み幅を維持します。細かくなりすぎた刻みを戻す操作も用意されています。

この仕組みには、狭い範囲を詳しく見ることと、別のよい領域へ移ることの折り合いが残ります。初期の刻み幅や戻す条件に万能な選び方があるわけではなく、最良の解を必ず見つける保証として読むことはできません。

元の関数を、近くで解ける形に写す

連続値の表し方を決めても、量子最適化向けの形式で目的関数を扱うという問題が残ります。実際の設計では、関数が単純な多項式とは限らず、数値計算をして初めて値が分かることもあります。

著者らは、全領域を一つの式へ正確に変換する代わりに、現在の候補の周囲で元の関数を評価します。その結果に合うよう、各ビットに対応するスピンの項と、スピン対の結合項からなる二次の代理モデルを作ります。これは、良い候補を低いエネルギーとして探せる、スピングラス型のハミルトニアンです。

ただし、近傍の評価点に合うことは、まだ調べていない点でも元の関数と一致することを意味しません。そのため、代理モデルから得た低エネルギーのビット列を実数へ戻し、元の目的関数を改めて評価します。モデルの中だけで良い値が出たことを、元の問題の改善と取り違えないための段階です。

今回の数値実装では、代理モデルを木構造テンソルネットワーク(TTN)で解いています。大きな状態を小さなテンソルのつながりで表す方法で、ここでは古典計算機上の数値手法として使われています。符号化に128量子ビット分を用いることと、実際の128量子ビットプロセッサで計算したことは別です。

ビットを増やすと、モデルを作る費用も増える

細かい値を一度に多く表すには、変数あたりのビット数を増やせます。しかし、この研究の全結合の代理モデルでは、その分だけ決める係数も増えます。総ビット数をQとすると、一次の項と二次の結合の係数はQ(Q+1)÷2個です。提案手順は、この数に合わせて近傍の関数を評価してモデルを作ります。

8変数を2ビットずつ表すならQ=16で136個、4ビットずつならQ=32で528個になります。候補の表現力を増やす一方、外側の探索を一回進める前に必要な関数評価が、約3.9倍になる計算です。これは式から数えたモデル構築の負担であり、実行時間が同じ倍率になるという測定結果ではありません。

論文でも、8変数と32変数の試験で、変数あたり2ビットから4ビットへ増やしても、同じ関数評価回数の下では改善しませんでした。評価の予算が決まっているなら、精密な一回の探索に費やす分と、探索を更新できる回数との両方を見る必要があります。

比較する手法 何を解くか 比較から分かる範囲
TTN 各反復で作る二次の代理モデル 今回提案した符号化とモデル構築を含む数値探索
Simulated Annealing TTNと同じ代理モデル 同じ写し方の下での、解法による違い
Best Neighbor モデル構築時に評価した近傍から最良の点を選ぶ 代理モデルを追加で解くことの効果
Particle Swarm 元の連続変数の目的関数 別の古典最適化手法との、問題全体としての比較

数値実験が示した改善と、まだ残る差

試験では、局所的な谷が複数あるGramacy–Lee関数を、8、16、32、64変数で調べました。主な設定は変数あたり2ビット、初期値を変えた10回の実行です。同じ問題サイズでは初期条件をそろえ、関数を評価する回数を共通の予算として比較しています。

この試験でTTNは、近傍から選ぶだけの方法や、同じ代理モデルを使うSimulated Annealingより良い結果を示しました。元の関数を直接探索するParticle Swarmに対しても、初期段階で目的値が下がりやすい傾向が見られ、次元が大きい設定で差が広がりました。一方、制約を加えた試験では、最終的な解の質はParticle Swarmと同程度でした。特定の関数と設定で得た比較であり、すべての最適化問題に共通する順位ではありません。

もう一つの例は、放射線治療の照射強度を決める逆計画の概念実証です。標準的な試験用ファントムの前立腺ケースを使い、向かい合う二方向の照射を合計64本の小さなビームに分け、その強度を2ビットずつ、合計128ビット分で表しました。患者への治療試験ではなく、目的関数の条件も臨床プロトコルから採ったものではありません。

この例では、TTNとParticle Swarmが得た線量と体積の関係は近いものでしたが、低いほどよい最終目的値は、最良の設定でTTNが1033、Particle Swarmが755でした。ここではTTNが勝ったとは言えません。少数ビットの適応的な符号化でも、非多項式の条件を含む問題へ対応できることを示す結果として位置付けられています。

次に確かめたいのは、写し替えを含む総費用

今回の提案の価値は、連続した値を有限のビットへ写すときに、最初の格子だけに探索を閉じ込めない点にあります。さらに、関数全体を扱いやすい式へ変形しきれなくても、局所的な代理モデルを繰り返し作るという入口を用意しています。

実用性を比べる次の段階では、解の良さと関数評価回数に加え、係数を決める計算、代理モデルを解く時間、候補を再評価する費用も必要です。量子ハードウェアへ移すなら、全結合に近い相互作用を、その装置でどう実現するかも課題になります。ビット数の小ささだけでなく、問題の写し替えと実行まで含めた負担を追うことが、提案を評価する手掛かりになります。

出典