二つの光が同じ場所へ重なると、明るさの分布だけでは区別しにくくなります。それでも、光の波が空間の各点でどのような位相関係を持つかまで調べれば、別の成分として扱える場合があります。
2026年10月30日にNature Photonicsへ掲載された研究は、重なった光から「コヒーレンス・モード」と呼ぶ成分を見つけ、それぞれを光チップ上の別の出口へ導く方法を示しました。測定値から成分を計算するだけでなく、分けた光を、その後の光学処理へ使える形で残す点が特徴です。
簡単にまとめると?
- シリコン上の干渉計を調整し、部分的に位相の関係がある光を、互いに干渉しない成分へ分けました。
- 出口の光を強くするように回路を順番に調整すると、主要な成分を一つずつ取り出せます。実験では二つの主要成分を分離し、別の回路で三成分も検証しています。
- 分かれるのは光の相関が決める成分です。元の二本のレーザー光を、そのまま復元できるのは、入力の空間的なパターンが直交する条件などに限られます。
同じ明るさでも、光の関係は違う
光の位相は、波の振動がどの段階にあるかを表します。空間の各点の位相が一定の関係を保っていれば、光を重ねたときに明暗の干渉模様が現れます。その関係が時間とともに揺らぐと、干渉は弱くなります。完全に関係がそろった状態と、関係が失われた状態の間にあるのが、部分コヒーレンスです。
光の強さを測るだけでは、各点の間にある位相の関係をすべて知ることはできません。研究では、それらの相関をまとめたコヒーレンシー行列を扱います。行列を適切な成分へ分けると、空間的に直交し、互いの間には干渉が現れない組を得られます。これがコヒーレンス・モードです。
ここでいう直交は、二本の光が直角に進むことではありません。測定する複数の位置で、光の振幅と位相を合わせて比較したとき、重なりが打ち消し合う関係を指します。明るく見える場所が重なっていても、位相の分布によって直交することがあります。
出口の光を最大にして、成分を一つずつ取り出す
研究チームが使ったのは、光を二つの経路に分けて再び重ねるマッハ・ツェンダー干渉計(MZI)を並べたシリコン回路です。各経路の位相をヒーターで少しずつ変えることで、光がどの出口へ進むかを調整できます。
まず、最初の層の出口で光の強さが最大になるように、位相の設定をまとめて最適化します。すると、もっとも強いコヒーレンス・モードが、その出口に集まります。次の層は、最初の成分と直交する残りの空間を受け持ち、その中から次に強い成分を選びます。最初の層を固定してから次へ進むため、同じ成分を繰り返し取り出すことを避けられます。
調整の方向を知るため、各ヒーターに異なる低い周波数の小さな揺らぎを与えました。出口の光がそれぞれの揺らぎへどう反応するかを読むと、どの設定をどちらへ動かせば光が強くなるかを、一度の測定で並行して推定できます。今回の装置では、一つの層の最大14個の位相調整器をこの方法で扱っています。
設定が決まった後は、成分が別の導波路へ物理的に分かれています。毎回、光を検出して数値から画像を作り直す必要があるわけではありません。検出器は調整と評価に使われますが、分かれた光そのものを、その先へ送れる構造です。
二成分の実験で、何を比較したのか
主な実験では、互いに時間的な位相関係を持たない、二台の独立したレーザーを使いました。波長は約1,535ナノメートルです。チップは九つの入力口を持つ設計ですが、本文の実験では一つを使わず、最後の干渉計を出力間の評価へ回したため、実質的には八入力・二出力の処理器として動いています。
比較の一つでは、レーザーを一本ずつ点灯してそれぞれの光を測り、その結果から行列を数値的に組み立てました。この参照結果と、二本を同時に入れたまま回路を最適化した結果を比較しています。四つの入力口に制限した比較実験で、モードの一致度は第1層が97.8%、第2層が99.9%でした。
この一致度は、チップへ入った光の何%が損失なく出てきたかを表す透過率ではありません。得られた空間モードが、同じチップ上の別の測定法から求めたモードにどれだけ近いかという指標です。元のレーザー光が別の出口へどれだけ混ざるかを表すクロストークとも、分けて読む必要があります。
元のレーザーを分けるには、もう一つ条件がある
コヒーレンス・モードは、光の相関が決める直交した成分です。入力した二本のレーザーの空間パターンが直交していなければ、取り出した一つのモードに、両方のレーザーの寄与が含まれます。成分分解ができたことと、元の光源を一本ずつ取り戻せたことは同じではありません。
研究チームは、二本の光がチップ上では重なったまま、一方の入射角を変える実験も行いました。各入力口へ届く位相の関係が変わり、二本のパターンがもっとも直交する条件では、元の光をそれぞれ別の出口へ導けました。その条件で報告されたクロストークは−13.0±2.6 dBです。これは特定の配置での分離性能であり、あらゆる重なり方で同じ値になるわけではありません。

回路の規模と、調整の速さは分けて考える
この方法は、入力の数をN、必要な成分の数をrとしたとき、物理的な部品数をおよそrNに比例させて構成できます。必要な成分が入力の数よりずっと少ない場合、すべての相関を一つずつ調べる構成より小さくできる可能性があります。
ただし、この部品数の見積もりから、調整時間まで同じ割合で短くなるとはいえません。必要な反復回数は、成分の強さの差や、測定信号と雑音の比に依存します。実際の更新速度も、制御回路、ヒーターの応答、揺らぎを読み取る時間で制限されます。論文が将来の高速な制御について述べる見通しと、今回の装置の速度実証を混同しないことが大切です。
三台のレーザーを使う高ランクの検証は、別の9×9の再構成可能な回路で行われました。二層の主装置で任意の数の成分を一度に分けた、という結果ではありません。
光通信や撮像へ応用するときには、明るさだけでは隠れていた位相の相関を利用できる点が魅力になります。一方で、何を分けたいのかが、元の光源なのか、情報を運ぶ直交成分なのかによって、評価方法が変わります。成分の一致度、光の損失、クロストーク、追従できる変化の速さをそろえて比べることが、実用性を判断する手掛かりになります。
出典
- Morほか、Automatic on-chip separation of partially coherent light into its mutually incoherent components、Nature Photonics(2026年10月30日公開)。本文、方法、図2・図4の説明を参照。三成分の検証は本文に記載された別回路での実験として扱い、補足資料全体の再検証は行っていません。
