物質を冷やして超伝導になると、その状態はさらに低い温度でも強まるように思えます。ところが、ウランとテルルの化合物UTe₂では、二つの超伝導成分が共存した後、冷却によって一方の成分が消える境界が見つかりました。コーネル大学などの研究チームは、超音波で測った弾性の変化から、この境界を捉えています。研究は2026年10月30日にNature Physicsで公開されました。以下の実験条件と図は、公開されている著者原稿第2版に基づきます。
簡単にまとめると?
- UTe₂に圧力をかけると、異なる二つの超伝導成分が共存する領域が現れます。
- ある狭い圧力範囲では、さらに冷やすと片方の成分が消えます。超伝導そのものがすべて消えるという結果ではありません。
- 弾性の跳び方と熱力学を結びつけて、隠れていた相境界を特定しました。トポロジカルな性質や量子ビット動作を実証した段階とは分けて読む必要があります。
「二つの成分」は、材料が二種類あるという意味ではない
超伝導では、電子が対を作った集団として振る舞います。その集団の状態を表す量が「秩序変数」です。大きさだけでなく位相も持ち、どのような電子対の状態が成立しているかを記述します。
UTe₂では、常圧・磁場なしで現れる状態をSC1、圧力や磁場によって現れる別の状態をSC2と呼びます。二成分という言葉は、この二つに対応する秩序変数が同じ試料の中でともに存在することを指します。ウランとテルルという元素の数や、二種類の超伝導材料を貼り合わせた構造を指すわけではありません。
従来の圧力と温度の相図では、SC1とSC2の境界が一点で合流するように見えていました。しかし、関係する転移がすべて連続的な二次相転移であるという既存の測定結果と、三つの相だけが接する描像は、熱力学上うまく両立しません。見えていない境界があるのか。それを調べることが、今回の実験の出発点でした。
音の速さから、電子の秩序が変わる境界を読む
研究チームが使ったのは、試料へ短い超音波を送り、反射して戻る信号を追うパルスエコー法です。音の速さは、材料が変形にどれほど抵抗するかを表す弾性率と結びついています。電子の状態が結晶のひずみと相互作用していれば、超伝導の相転移も弾性率の跳びや折れ曲がりとして現れます。
弾性率は、自由エネルギーをひずみで二回微分した量です。比熱が温度に対する自由エネルギーの変化を捉えるのと同じように、物質全体の相転移を調べる手がかりになります。ただし、音で秩序変数そのものを撮影しているわけではありません。測定された変化の向きと、熱力学が要求する関係を合わせて解釈します。
今回の測定では、0〜1 GPaの圧力範囲で、圧縮に関わる弾性率c₁₁、c₃₃と、せん断に関わるc₅₅を調べました。特に詳しく調べたのは、二つの転移が近づく約0.20 GPa付近です。c₁₁の下向きの跳びに加え、さらに低い温度で上向きに跳ぶ新しい変化が見つかりました。
0.213 GPaの測定で、冷却中に起きた三つの変化
著者原稿にある、磁場をかけず圧力を0.213 GPaとした測定を追ってみます。冷却すると、まず約1.63 KでSC2に入ります。約1.58 KではSC1も現れ、二成分が共存するSC1+SC2になります。この二つの転移では、c₁₁が下向きに跳びました。
そのまま約1.0 Kまで冷やすと、今度はc₁₁が上向きに跳びます。著者らは、この境界をSC2成分が消えてSC1だけが残る転移と特定しました。通常状態へ戻るのではなく、超伝導の内部で構成が変わるのです。この冷却順序は、約0.20〜0.22 GPaという狭い領域で見られます。

上向きの跳びが鍵になる理由は、圧縮の弾性率の跳びと比熱の跳びが、符号を逆にして結びつくためです。通常の超伝導への転移では、冷却時に比熱が上向き、弾性率が下向きに跳びます。今回の低温側ではその向きが逆になり、秩序の一部を失う境界という解釈を支えます。相図の形だけを見て名前を付けたのではなく、この符号の情報が加わっています。
なお、原稿は圧力の絶対値に最大約0.05 GPaの不確かさがあることも説明しています。同じ装置で圧力を変えたときの相対的な変化はより精密に追っていますが、0.213という値を、どの試料・装置にもそのまま当てはまる厳密な境界圧力と読むことはできません。
共存していても、二つの秩序は競合する
新しい境界を加えると、通常状態、SC1、SC2、SC1+SC2の四つが接する「四重臨界点」として相図を整理できます。さらに、二つの秩序変数が互いに影響するギンツブルグ・ランダウ理論で、低温側の境界が折り返す形を説明しています。
二つの成分が共存できることと、互いを強めることは同じではありません。相互作用によって共存にはエネルギー上の負担が生じ、冷却に伴ってSC1が成長すると、SC2が存在し続ける方が不利になる条件があります。この競合を組み込むと、途中までは両方が存在し、さらに冷やすとSC2だけが失われる順序が再現されます。理論中の秩序変数の曲線は、この解釈を表すモデルであり、測定器が直接読み出した値ではありません。
研究は磁場を変えた測定にも広がっており、結晶のb軸方向の磁場が二成分の共存領域を安定化させることを示しています。一方、二成分があるだけで、時間反転対称性が破れている、あるいはトポロジカル超伝導であると決まるわけではありません。相対位相の状態など、今回の測定では決め切れない性質が残ります。
この結果の価値は、極低温のUTe₂でどの状態がどこに存在するかを、隠れた境界まで含めて絞り込んだことにあります。今後の報告を比較するときには、圧力の校正、磁場の向き、測った弾性率、二成分の共存を示す証拠と対称性を決める証拠を分けて見ると、何が新しく分かったのかを追いやすくなります。
出典
- Kamatほか「Thermodynamic discovery of tetracriticality and emergent multicomponent superconductivity in UTe₂」Nature Physics、2026年10月30日公開。出版日・要旨を確認。
- 同研究の公開著者原稿 arXiv:2603.17905v2、2026年7月9日版。本文I〜V、図2、Methodsの圧力校正。具体的な実験条件・数値・図はこの版に基づきます。
- コーネル大学「Two flavors of superconductivity: Material has right ingredients for a twist」、2026年10月30日。同じ研究の解説であり、独立した追試ではありません。
