超伝導量子ビットのリセット、励起を抵抗へ逃がす小さな回路

白い陶器の小さな穴から金色の光が多孔質の青緑の器へ移り、内部で薄れていく。励起を移して散逸を待つリセットを抽象的に表す。

量子計算を繰り返すには、使った量子ビットを出発点となる状態へ戻す必要があります。超伝導量子ビットなら、余分なエネルギーを持つ励起状態から、基底状態の「0」へ戻す操作です。自然にエネルギーが抜けるのを待つ方法は簡単ですが、待ち時間がかかり、冷却された装置の中でも小さな熱励起は残ります。

北京量子信息科学研究院などの研究チームは2026年11月4日、量子ビットのそばに小さな散逸回路を置き、励起をそこへ移して逃がす実験をプレプリントで報告しました。回路は二つのトランズモンモードと薄膜抵抗で構成されます。ポイントは、励起を移す時間と、抵抗側で失わせる時間を分けること。繰り返すことで、移し切れなかった励起も減らしていきます。

簡単にまとめると?

  • 量子ビットの周波数を一時的に散逸回路へ合わせ、励起を移した後に元へ戻す。移動と散逸を交互に行うリセットです。
  • 温度に換算した指標の改善と、10回繰り返したリセット過程の誤差評価は、別の条件で得られた結果です。
  • 反復はパルスのずれを和らげますが、待ち過ぎると熱励起が増えます。通常の計算中にエネルギーが漏れない周波数配置も必要です。

必要なときだけ、励起の逃げ道へ近づける

トランズモンは、超伝導回路で量子ビットを作る代表的な方式です。今回の散逸回路にもトランズモン由来の振動の仕方、つまり「モード」が二つあります。薄膜抵抗と組み合わせることで、受け取った励起のエネルギーを失いやすくしています。

ただし、逃げ道へ常につながり過ぎていると、計算に必要な励起まで失われます。そこで通常は量子ビットと散逸モードの周波数を離しておき、リセット時だけ量子ビットの磁束を操作して周波数を近づけます。共鳴条件では励起が両者の間を行き来するため、量子ビットから散逸側へ移ったタイミングで周波数を元へ戻します。この交換操作がiSWAPです。

今回使う散逸モードの周波数は、量子ビットの待機時の周波数より低く設計されています。高い周波数の散逸モードを用意する方式とは異なる配置で、回路を小さくまとめる狙いがあります。散逸回路そのものに新しい制御線を加えず、量子ビット側の既存の制御を使います。励起が残っているかを毎回測って、その結果に応じたフィードバックを返す方式でもありません。

移す、待つ、もう一度移す

著者らは、励起を移すiSWAPと、その後の待機を一組のリセット単位としています。待機中は量子ビットを元の周波数へ戻し、散逸回路に移った励起が減るのを待ちます。この単位を何回か繰り返したものが、リセット全体です。

リセットの一単位。量子ビットの周波数を合わせて励起を移し、元の周波数へ戻して散逸を待つ。この二段階を繰り返す。
励起の交換と散逸を分けたリセット手順。論文の仕組みを基にQuantum Sea作成。装置の配線図ではありません。

待機が短過ぎると、散逸側に残った励起が次の交換で量子ビットへ戻ってきます。論文の測定でも、繰り返し回数が少ないところでは誤差が上下しています。回数を増やすと励起が徐々に失われ、測定した条件では低い誤差へ落ち着きました。

一方、待機を長くすればよいわけでもありません。全体の所要時間が延びると、環境からの熱励起が積み重なります。交換を十分に行うこと、散逸を待つこと、熱が入り直す前に終えること。この三つの兼ね合いで設定を選ぶ必要があります。

35ミリケルビンと0.0028は、違う評価を表す

結果を読む際には、何を測った数字なのかを分けると分かりやすくなります。まず、0を準備してから1と読み出される割合は、リセットなしの1.60%から、リセットありの0.66%へ減りました。ただし、この値には初期化の失敗だけでなく、読み出しの誤りも含まれます。

研究チームは、読み出し誤差が一定という仮定のもとで、この割合を「有効温度」へ換算しています。繰り返した測定で、リセット時の中央値は約35ミリケルビン、リセットなしでは約49ミリケルビンでした。これは量子ビットの状態分布を温度で表した指標であり、冷凍機の実温度を49から35ミリケルビンへ下げたという意味ではありません。読み出し誤差の影響も残る換算値です。

評価 設定・結果 読み取れる範囲
0を1と読む割合 交換57 ns、待機1 µsを1回。1.60%から0.66%へ 初期化と読み出しを合わせた改善
有効温度 複数のリセット設定で測定。中央値は約49 mKから35 mKへ 測定誤差を含む状態分布の換算値
リセット過程の評価 交換57 ns、待機250 nsを10回。論文の指標で誤差0.0028 量子過程トモグラフィーによる、理想リセットとの比較

最後の行では、いくつかの入力状態に対する出力を測り、操作全体を推定する量子過程トモグラフィー(QPT)を使っています。理想的なリセットとの重なりを、論文で定義した方法で正規化し、そこから誤差0.0028を算出しています。通常の量子ゲートの誤差や、先ほどの0.66%と、そのまま同じ尺度で比較することはできません。

このQPT評価の設定は、57 nsと250 nsを合わせた一単位を10回繰り返すものです。記載された交換時間と待機時間だけを合計すると3.07 µsになります。論文が温度低下について述べる「2 µs以下」と、誤差0.0028を一つの最良条件としてまとめてしまうと、別々の実験条件が混ざってしまいます。

反復で緩められる校正と、残る周波数設計

反復には、励起を一度で完璧に移せなくても補える利点があります。著者らは磁束パルスの振幅や交換時間をずらし、測定した範囲では、回数を増やすと低い誤差に落ち着くことを示しました。交換時間を2 ns短くした条件などが含まれます。これは校正ずれへの耐性を示す結果ですが、周波数やパルスを何も調整せずに使えるという意味ではありません。

計算中への影響も、周波数をどう置くかに左右されます。選んだ量子ビットのエネルギー緩和時間T1は、周波数の変動に敏感でないスイートスポットで68±2 µsでした。散逸モードへ近づけた別の設定では49±3 µsとなり、約28%短くなっています。リセットを速める逃げ道が、通常動作時には損失源にもなり得るためです。

チップ全体は72量子ビットの配列ですが、今回の詳細なリセット評価は選択した一つの量子ビットについて行われています。複数の量子ビットが一つの散逸回路を時間分割で共有する案も示されていますが、多数の量子ビットを同時にリセットした実証結果ではありません。

この研究は、初期化の速さだけでなく、励起をどこへ逃がし、いつ量子ビットから切り離すかを考える具体例です。実装を比べるときは、誤差の小ささに加えて、測定条件、必要な制御線、通常動作時のT1、複数量子ビットへの拡張の実証範囲を見ると、設計上の違いが見えてきます。

出典