Quantum Sea

OCP APAC 2026 | 高電力DCと液冷の安全設計、危険源と保護手段を結ぶHBSE

淡青の水を思わせる帯と青灰色の帯が、透明な曲面の左右に分かれて流れる抽象画

液冷の話では、まず「どれだけ熱を運べるか」に目が向きます。けれども、高い電力を扱うラックでは、冷却液の通り道と電源の近さも設計の一部です。冷却がよく効く配置でも、漏れや故障、保守の場面まで考えなければ、安全な配置とは言えません。

2026年のOCP APAC Summitで、Googleの安全設計エンジニアは、この組み合わせをHBSE(Hazard-Based Safety Engineering、ハザードベースの安全設計)から考える発表をしました。新しい製品の安全性を実証した報告ではなく、危険源と保護手段をどう結びつけて評価するかという提案です。[1・2]

危険源から、届く経路まで見る

HBSEでは、電気や熱、動く部品などのエネルギー源を見つけ、そこから人や可燃物へエネルギーがどう届くかを考えます。そして、その間に置く絶縁、覆い、隔離などの保護手段(safeguard)を確かめます。IEC 62368-1:2023も、情報通信機器などについてエネルギー源を分類し、保護手段を定める製品安全規格です。考え方だけで細かな要求事項の代わりになるわけではありません。[2・3]

たとえば高電力の直流配電では、電圧の数字だけを見ても、触れ得る場所や故障時の電流、アークが起こる条件までは分かりません。アークフラッシュは電気的な放電が熱や光を一気に放つ現象です。発表資料は、作業者が近づく保守の場面も含めて、電気エネルギーがどこへ届き得るかを評価するよう促しています。[2]

冷却液が加わると、何を見直すのか

冷却液は、それ自体を電気の危険源と同一視するものではありません。ただ、液体が漏れれば、絶縁物や通電部との関係が変わります。発表資料は、液体が電気的な異常につながる故障の連鎖を想定し、電源部の近くに置くコールドプレートの配置と絶縁の境界を一緒に考えています。漏れれば必ずアークが起きる、という意味ではありません。[2]

もう一つは、液が触れる部材との相性です。配管やシールなどの接液材(wetted materials)は、冷却液と組み合わせて評価する必要があります。UL SolutionsのCDU(冷却液分配装置)向け資料も、液体を使う部品や絶縁液の適合性を安全評価の項目に挙げています。冷却性能だけよくても、長く使う間に部材が傷み、漏れを招いては設計が成り立ちません。[2・4]

電気の側では、空間距離(clearance)と沿面距離(creepage distance)も論点になります。前者は導電部の間などの空気中の距離、後者は絶縁物の表面に沿う距離です。Googleの資料は、冷却液が近くにある電源部で、こうした絶縁の条件と機械的な隔壁を併せて考えるよう示しています。ただし、必要な距離をこの記事から一律に決めることはできません。[2・5]

故障が一つ起きたあとも、守れるか

安全設計を日常の正常な状態だけで終わらせないことも、発表の要点です。たとえば、液体の漏れが起きたとき、電気的な異常へ進む経路をどこで遮れるか。さらに保守で覆いを開けるとき、作業者とエネルギー源の間に何が残るか。漏れ、電気、作業の三つを別々に確認するだけでは、このつながりが見えにくくなります。[2・3]

資料は±400V DCや800V DCを例に挙げていますが、その数字だけで装置全体に適用する規格や試験方法は決まりません。IEC 62368-1は製品安全の規格であり、CDUについても冷媒を含むかなどの構成によって評価する規格が変わるとUL Solutionsは説明しています。ラック全体、冷却装置、保守作業を一つの規格名だけで片づけず、対象を分けて確かめる必要があります。[2・3・4]

液冷と高電力を両立させる鍵は、冷却液と電気を単に遠ざけることではなく、何が危険源になり、どの経路を通り、どの保護手段で止めるかを設備の境界ごとに描くことです。性能を伸ばす設計と、故障後も守る設計を、最初から同じ図面に載せる。今回の発表は、その順序を思い出させてくれます。

UL Solutionsの事業を知る

CDUの安全評価資料を公開しているUL Solutionsは、試験・検査・認証と関連ソフトウェアを提供する企業です。事業の構成や、認証後も続くサービスの仕組みは、cyclewaveでまとめています。

Googleを含むAlphabetの事業を知る

Googleは、検索やYouTube、企業向けクラウドなどを手がけるAlphabet傘下の企業です。cyclewaveでは、広告が生む収益と、クラウドや計算基盤への投資を、会社全体の数字から整理しています。

参考資料

2026年9月26日確認。本文は公開スライドと規格・認証機関の公開説明に基づきます。発表動画の発言・質疑は確認対象に含めていません。

[1]Open Compute Project「2026 OCP APAC Summit」発表一覧。イベントと資料の掲載元。

[2]Yulianti (Dessy) Darmanto「Hazard Based Safety Engineering (HBSE) Concept with Coolant and High Power」公式掲載スライド。全12頁。HBSEはpp.3–5、直流と保守はpp.6–7、冷却液と電源の統合はpp.8–9。

[3]IEC「IEC 62368-1:2023」公開説明。対象分野、エネルギー源と保護手段の考え方。

[4]UL Solutions「Certification of Coolant Distribution Units」。CDUの構成、液体・接液材と適用規格の説明。

[5]UL Solutions「How Insulation Is Coordinated: Clearances, Creepages and Distances Through Insulation」。空間距離・沿面距離の用語定義。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です