光ファイバーで大量の情報を運ぶとき、その両端には、光を生み出し、情報を載せ、進む道を整える部品が必要です。光の接続を半導体の近くまで持ち込むには、こうした部品を小さくするだけでなく、電気の回路と組み合わせて動かせるようにする必要があります。
JSTの『研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2026年)』は、この領域を「フォトニクス材料デバイス」として整理しています。通信の距離やラックの形から少し離れ、光に働きかける材料と、それを部品へ仕上げる製造技術を見てみます。[1]
簡単にまとめると?
- 光源・導波路・光変調器は役割が異なり、材料だけでなく、電極や回路との組合せで性能を引き出します。
- シリコンフォトニクスでも、光の機能をそろえるために異なる材料を同じ基盤へ組み合わせます。
- 新材料の発見と使える接続の間には、加工・集積・製造基盤や、システム全体での評価が必要です。
光を作る材料と、情報を載せる材料
光源は光を発生させ、導波路は光が進む道を作ります。光変調器は、電気の信号に応じて光の状態を変え、情報を載せる部品です。それぞれの働きが違うため、同じ材料を小さく加工すれば全部がそろう、というわけではありません。
報告書は、InP(リン化インジウム)系の化合物半導体を使う、光変調器を組み込んだレーザーを紹介しています。一方、光変調器の材料としては、薄膜のニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウム、有機材料などの研究も挙げています。光を発する働きと、電気信号に応答して光を変える働きでは、材料に求める性質が異なります。[1]
ここで大切なのは、材料名だけで完成品の速さを決めないことです。報告書が高速な変調に向けて挙げるのは、新材料に加えて、素子の小型化や電極の構成です。電気の信号を光変調器へ届ける部分も、光の応答を引き出す設計に含まれます。材料の特性と、それを駆動する回路・電極を一緒に見る必要があります。
シリコンを土台に、異なる材料を組み合わせる
シリコンフォトニクスは、電子回路の製造で蓄積してきた技術を光の回路にも生かす方向です。報告書は、小型化と低コスト化の可能性に加え、化合物半導体などを組み合わせる異種材料集積を重要な課題として扱っています。「シリコン」と呼ぶ技術でも、すべての機能をシリコンだけで担わせるとは限りません。[1]
組み合わせの対象には、化合物半導体、原子に近い薄さの二次元材料、状態を変えることで性質が変わる相変化材料などがあります。光を制御する微細な構造と、材料そのものの性質を、共通の基盤の上で利用する研究です。異種材料集積は、材料の候補を増やすだけでなく、それぞれの働きを同じ回路の中で使えるようにする課題でもあります。
| 見る対象 | 主な役割・問い |
|---|---|
| 光源・導波路・光変調器 | 光を作り、通し、情報を載せる機能を、どの材料と構造で担うか。 |
| 回路・電極 | 光の部品へ電気信号を与え、材料の応答をどう引き出すか。 |
| 異種材料集積 | 異なる材料の機能を、共通の基盤の上でどう組み合わせるか。 |
| 設計・製造基盤 | 作りたい光回路を、利用できる製造工程へどう結び付けるか。 |
この四つは、別々に完成してから足し合わせるだけの関係ではありません。欲しい光の機能に合わせて材料を選んでも、その材料を狙った場所へ形成できるか、電気回路とともに動かせるかが次の問いになります。報告書は、高品質な材料に加え、原子レベルの制御や異なる材料を積み重ねるプロセスの重要性も示しています。[1]
設計図を、作れる部品につなぐ
研究室で一つの素子を作ることと、多くの素子を組み合わせた光回路を設計・製造することには隔たりがあります。その間をつなぐ仕組みの一つが、PDK(Process Design Kit)という設計用の情報・道具のまとまりです。
報告書は、化合物半導体やシリコンフォトニクスの製造技術とPDKが整い、製造を請け負うファウンドリーを通じて、複雑な光回路を設計・製造できるようになってきたと述べています。材料や加工の研究を、回路を作りたい人が使える基盤へつなぐ動きです。[1]
ただし、既存の基盤が整うことと、すべての新材料を同じ工程で使えることは別です。報告書が今後の研究として挙げるのは、ナノ材料を必要な場所に形成する技術や、異なる材料を大面積・多層に組み合わせるプロセスです。優れた性質が分かった後にも、配置と加工、集積に関する問いが残ります。
部品の速さから、つないだときの性能へ
光の部品と電子回路を近づける例に、同じパッケージへ組み込むCPOがあります。ここでも、光変調器など一つの部品の性能と、接続全体の性能は分けて読む必要があります。報告書は、光と電子の大規模な集積に加え、システム全体の構成も課題に挙げています。[1]
接続を評価する指標には、単位長さ当たりに確保できる通信帯域を表す帯域密度や、1ビットを運ぶためのエネルギーがあります。前者は限られた実装の幅をどう使うか、後者は情報を運ぶ際にどれだけエネルギーを要するかを見るものです。単に一つの部品を速くするだけでは、どちらが改善したかまでは分かりません。
光でつなぐ技術を材料から読むと、性能を伸ばす場所がいくつも見えてきます。光に応答する材料、その応答を使う微細構造、電気信号を与える電極、そして複数の機能を作り込む製造工程。新しい材料の発見と、使える接続の実現との間を埋める仕事が、フォトニクスの開発を支えています。
参考資料
[1]JST 研究開発戦略センター『研究開発の俯瞰報告書 ナノテクノロジー・材料分野(2026年)』。CRDS-FY2025-FR-06、2026年1月刊行。N3.03「フォトニクス材料デバイス」、印刷157–160頁(PDF174–177頁)。本稿は同報告書の整理を基にしており、情報の基準時点は2025年12月です。研究対象として挙げられた材料や構成を、すべて量産・実用化済みとは扱っていません。表は本文の論点を整理したものです。


