二つの量子状態を比べる回路から、0という結果が返ってきました。これだけで「二つは同じ」と言えるでしょうか。SWAPテストでは、同じ純粋状態からは理想的には必ず0が出ます。しかし、その逆は成り立ちません。異なる状態でも、0が出ることがあります。
SWAPテストは、二つの状態を入れ替える操作を使って、状態どうしの重なりを測定確率へ変える方法です。本稿では、独立に用意した二つの純粋状態と、雑音のない理想回路から始め、1回の結果、繰り返した頻度、混合状態の場合を分けて読みます。[1]
簡単にまとめると?
- 理想的なSWAPテストでは、二つの純粋状態の重なりの絶対値の二乗をsとすると、補助ビットが1になる確率は(1−s)/2です。
- 1が出れば同じ純粋状態という仮説を排除できます。一方、直交する二状態でも0は半分の確率で出るため、0が一度出ただけでは一致を証明できません。
- 繰り返すには毎回の入力を用意し、許容する違いと試行数を決めます。混合状態や装置誤差がある場合には、同じ判定の読み方をそのまま使えません。
入れ替えた場合と、そのままの場合を干渉させる
比較する二つのレジスターをA、Bと呼び、状態をそれぞれ|φ〉、|ψ〉と書きます。レジスターは量子情報を保持する部分で、ここでは同じ次元を持つものとします。SWAPは、|φ〉|ψ〉を|ψ〉|φ〉へ入れ替える操作です。単に両方を入れ替えるだけなら、比較結果を読み出すビットは生まれません。
そこで、|0〉に準備した補助ビットを加えます。最初にアダマール操作Hをかけ、補助を0と1の等しい重ね合わせにします。次に、補助が1の成分だけでAとBを交換する制御SWAPを行い、補助へもう一度Hをかけてから0・1を測ります。[1、3–4ページ]
二回目のHの直前には、「入れ替えない」|φ〉|ψ〉と「入れ替える」|ψ〉|φ〉という二つの成分があります。Hによって、補助0の側には両者の和、補助1の側には両者の差が現れます。補助1に対応する成分は、(|φ〉|ψ〉−|ψ〉|φ〉)/2です。
同じ純粋状態なら、この差は消えます。異なる場合には差が残り、その大きさが1の出やすさを決めます。名前のSWAPだけでなく、条件付きの交換と、前後のHを合わせて読むことが大切です。毎回交換するかどうかを古典的なくじで選ぶだけでは、この和と差による干渉にはなりません。
重なりと、一回の0・1は別の量
正規化した状態の内積を〈φ|ψ〉と書き、その絶対値の二乗をs=|〈φ|ψ〉|²と置きます。sは0から1で、物理的に同じ純粋状態なら1、直交する状態なら0です。全体に共通の位相だけが違う二つのベクトルも、同じ物理的状態としてs=1になります。
補助1の成分の大きさを二乗すると、P(1)=(1−s)/2です。[1、3ページ] したがってP(0)=(1+s)/2となります。回路から直接出るのは確率の小数ではなく、0か1という一つの記録です。sを推定したければ、同じ条件で試行を重ねて1の頻度を調べます。
独自計算の例では、Aを|0〉に固定し、Bを三通りに変えました。Bも|0〉ならs=1で、1の確率は0です。Bが|+〉=(|0〉+|1〉)/√2ならs=1/2で、1は1/4です。Bが|1〉なら直交してs=0ですが、それでも1は1/2にとどまります。

直交する|0〉と|1〉で0が出ても、回路の失敗ではありません。このテストがもともと持つ確率です。一度の0を「同じ」という確定結果に読み替えると、異なる入力を見落とします。逆に、理想回路・純粋な独立入力という条件の下で1が出たら、同じ状態ではありません。
繰り返しは、何をどれだけ排除するのか
毎回新しく同じ二状態を準備し、独立にk回試すとします。全部0になる確率は、[(1+s)/2]kです。直交状態なら10回すべて0は1/1024、約0.098%です。s=1/2なら(3/4)10で約5.63%になります。これらは指定した入力がある場合の確率であって、観測後に「同じ状態である確率」を与える数字ではありません。
さらにs=0.99なら、10回すべて0になる確率は約95.11%です。非常に近い異なる状態まで、少ない試行で確実に排除できるわけではありません。原論文の量子指紋では、異なる入力に対応する状態の内積が一定の値以下になるという条件を設けて、反復の誤り確率を抑えています。[1、3–5ページ]
この条件を使うなら、例えば「sが0.5以下の状態を見落とす確率を1%以下にしたい」と先に決めます。その場合、すべて0になる確率の上限は0.75kです。独自計算ではk=16で約1.002%、k=17で約0.752%となり、17回ならこの条件を満たします。任意に小さな違いまで同じ17回で保証できる、という意味ではありません。
反復の資源には入力の準備も含まれます。未知の状態が一個ずつしかないのに、測定後の同じ二個をそのまま使い続け、独立な試行が増えたと数えることはできません。この回路は一般に入力側も変えます。同じ準備手順から新たな入力を作る条件と、一個の未知状態を複製する要求を分けます。
同じ混合状態でも、1が出る場合がある
ここまでの「同じなら1は出ない」は純粋状態についての話です。混合状態では、独立な入力の密度行列をρ、σとすると、同じ回路の確率はP(1)=[1−Tr(ρσ)]/2になります。Trは行列の対角成分の和です。この式は交換演算子SについてTr[S(ρ⊗σ)]=Tr(ρσ)となることから求められ、本稿では回路行列でも確認しました。
例えば両方が1量子ビットの完全混合状態I/2なら、ρ=σでもTr(ρσ)=1/2なので、1が出る確率は1/4です。同じ密度行列であっても、純粋状態のように必ず0になるわけではありません。Tr(ρσ)を、一般の混合状態についての忠実度と無条件に同一視することもできません。
この例の前提は、二つを独立に準備して全体がρ⊗σであることです。入力間に相関がある場合は、その全体の状態を使って計算します。二つの部分だけを別々に記述した情報では、同じ結論に足りないことがあります。
実際の比較で、結果と一緒に残すもの
まず、比べた入力の準備方法、純粋状態を仮定できるか、独立な入力を何組用意したかを記録します。次に、制御SWAPを含む回路と、0・1のどちらを何回観測したかを残します。理想式からの換算だけで、装置の誤差が取り除かれるわけではありません。
例えば同じ純粋状態を準備したつもりでも、準備・ゲート・読み出しの誤差により1が現れることがあります。その値をすべて入力状態の差へ帰属させず、比較用の基準試験や誤差評価と分けて扱います。本稿は小さな行列による理想計算で、特定の装置の精度や優位性を実証するものではありません。
SWAPテストの結果を読むときは、「0を見た」「0の頻度を測った」「指定した大きさ以上の違いを、一定の誤り確率で排除した」を分けます。この区別があれば、短い0・1の記録から、結論だけを大きくしすぎずに状態を比較できます。
出典
- [1] Harry Buhrman, Richard Cleve, John Watrous, Ronald de Wolf, Quantum fingerprinting, arXiv:quant-ph/0102001v1(2001年2月1日版)。3ページの制御SWAP回路と出力確率、4ページ図1、3–5ページの入力条件付き反復を参照。原図は転載せず、三入力の確率、16・17回の境界、同じ混合状態の例、数値図を独自計算しました。原論文の通信量の優位性を、この小規模計算の性能結果としては扱っていません。
