フォン・ノイマンエントロピー、測定結果のばらつきと状態の混合を分ける

桃色の円盤に青と紫の半透明パネルの影が重なり、右側の白い台に三つの緑色の小石が置かれている。

量子ビットを何度も同じ方法で準備して測ると、0と1が半々に現れた。この結果だけで「準備した状態は半分ずつの混合だった」と言えるでしょうか。実は、純粋な重ね合わせ状態でも、同じ測定結果になります。測定結果のばらつきと、測定する前の状態の混合の度合いは、分けて考える必要があります。

簡単にまとめると?

  • フォン・ノイマンエントロピーは、密度行列の固有値から状態の混合の度合いを表す量です。純粋状態なら0になります。
  • 測定結果のエントロピーは測る基準にも依存します。純粋状態でも、測り方によって結果は半々にばらつきます。
  • 1つの測定方法で得た0と1の比率だけでは、状態のエントロピーは決まりません。何を準備し、どの基準で測ったかを併せて読むことが大切です。

結果の分布と、状態そのものに付く量

0と1がそれぞれ確率pと1−pで出るとき、その分布のシャノンエントロピーは H=−p log₂p−(1−p) log₂(1−p) です。必ず片方が出れば0 bit、半々なら1 bitになります。ここでのbitは、確率分布の不確かさを表す単位です。個々の測定で未知のメッセージを必ずその量だけ読み取れる、という意味ではありません。

一方、量子状態を表す密度行列ρには、S(ρ)=−Σᵢλᵢ log₂λᵢ というフォン・ノイマンエントロピーを定めます。λᵢはρの固有値で、すべて0以上、合計は1です。0 log₂0は極限の値0として扱います。式の形は似ていますが、代入するのは任意の測定で得た確率ではなく、状態の密度行列の固有値です。

固有値は、密度行列を対角形に書き直したときに残る重みと考えると見通しがよくなります。同じ状態の表記に使う基底を変えても、固有値とSは変わりません。有限のd次元系ではSは0からlog₂dまでで、1量子ビットなら0から1です。純粋状態は固有値が1と0、最大混合状態は1/2と1/2になります。

半々に見える3つの状態を比べる

0と1を区別する測定をZ基底の測定と呼びます。これに対し、|+⟩=(|0⟩+|1⟩)/√2 と |−⟩=(|0⟩−|1⟩)/√2 を区別するのがX基底の測定です。両者は、同じ量子ビットに対する異なる読み取りの基準です。

まず|+⟩を毎回準備した純粋状態を考えます。密度行列は、対角成分だけでなく非対角成分もすべて1/2です。その固有値は1と0なのでS=0。それでもZ基底で測れば0と1が半々になり、結果のHは1 bitです。X基底で測れば必ず+になり、結果のHも0になります。Z測定のランダムさを、そのまま準備状態の混合と読み替えられない理由がここにあります。

次に、|0⟩と|1⟩を半分ずつ選んで準備し、どちらを選んだかの記録を使わない最大混合状態を考えます。密度行列は対角成分が1/2、非対角成分が0のI/2です。S=1で、Z基底でもX基底でも測定結果は半々になります。先ほどと同じZ測定の棒グラフでも、X測定での振る舞いは異なります。

その中間として、対角成分は1/2のまま、非対角成分を1/4にした状態も比べます。これは|+⟩を3/4、|−⟩を1/4の割合で混ぜた状態です。固有値は3/4と1/4なので、Sは約0.811 bit。Z測定の結果はやはり半々でH=1ですが、X測定の結果は3対1となり、Hは約0.811 bitです。

純粋なプラス状態、中間の混合状態、最大混合状態のエントロピーを比較。Z測定の結果はすべて1 bitだが、状態のSとX測定のHは順に0、約0.811、1 bit。
3つの理想的な密度行列を独自に計算した比較。Sは状態の固有値、Hは指定した測定結果の確率から求めた。実機の測定データではない。

測定の不確かさが最小になる基準

上の例でX測定のHがSに一致するのは、X基底が各密度行列を対角化する基底だからです。より一般にも、完全な正規直交基底の各方向を1つずつ区別する測定なら、結果のエントロピーHはS以上になり、ρの固有ベクトルの基底で測れば等しくなります。状態の表し方を変えるだけならSは不変ですが、実際に測定する基準を変えればHは変わり得ます。

この関係を「どんな測定でもHはS以上」と広げることはできません。例えば、すべての結果を1つのラベルにまとめて報告すれば、報告結果のHは0です。これは状態が純粋になったことを意味せず、区別できる結果を捨てただけです。結果をまとめる測定や、より一般の測定へ式を使うときには条件を確かめる必要があります。

測定結果を読むときに確認したいこと

量子状態の評価で「エントロピーが大きい」と書かれていたら、まず密度行列から求めたSなのか、特定の測定結果の分布から求めたHなのかを確かめます。次に、測定基底と、結果をどこまで区別して記録したかを確認します。同じ0と1の比率でも、非対角成分に表れる重ね合わせの関係は異なり得るからです。

未知の状態のSを実験から見積もるには、1つの基底の出現頻度だけでは一般に足りません。同じ準備を繰り返した多数の試料について複数の測定を組み合わせるなど、密度行列を推定できる情報が要ります。有限回の測定誤差や、準備の変動も見積もりに影響します。この記事の値は密度行列が既知の理想計算であり、装置の雑音量や量子計算の性能を実証する数値ではありません。

出典

  • John Preskill, Quantum Information, Chapter 10: Quantum Shannon Theory(2025年6月版の講義草稿)。§10.2、本文14–17頁、式10.59–10.61と10.74。状態のエントロピー、固有値、正規直交基底での測定結果との関係を参照。比較図と数値例は独自に作成。