量子状態の忠実度、各部分の近さを全体へ掛け合わせられる条件

白い二本の台に薄緑の透明な四角い板が並び、片方の列は徐々に向きが変わり、上に桃色の帯が浮かぶ。

一つずつ調べると、どの量子ビットも目標に近い。それなら、多数を合わせた全体も同じくらい近いのでしょうか。量子状態の近さを表す忠実度では、部分ごとの値と、全体についての値を分けて読む必要があります。各部分の小さな違いが積み重なる場合もあれば、部分だけの検査では全体の違いが見えない場合もあります。

本稿では、まず各部分に相関がない積状態で忠実度を掛け合わせる規則を使い、100個に増やしたときの値を計算します。その後、相関のある二量子ビットを比較し、掛け算の前提が欠けると何が起きるかを確かめます。[1]

簡単にまとめると?

  • 比較する両方の全体状態が同じ分け方の積状態なら、全体の忠実度は各部分の忠実度の積になります。
  • 平方根側の定義で各部分が0.99でも、同じ条件の100個の積では約0.366です。局所の値をそのまま全体の値にはできません。
  • 相関やもつれがある状態では、各部分の状態が完全に同じでも全体が直交する場合があります。掛け算を使う前に、独立な積で表せる根拠を確認します。

「0.99」が何を比較した値かをそろえる

密度行列は、量子状態から測定結果の確率を計算するための表現です。正規化された二つの密度行列ρ、σについて、この記事では忠実度をF(ρ,σ)=Tr√(√ρ σ √ρ)と定めます。Trは対角成分の和、平方根は行列としての平方根です。Fは0から1で、同じ状態なら1になります。

文献によってはFの二乗を忠実度と呼びます。ここでF=0.99なら、二乗側では0.9801です。以下の掛け算の式はどちらの定義でも一貫して使えますが、各部分でF、全体でF²という混ぜ方はできません。数値の比較を始める前に、定義を固定します。

さらに、対象は状態の忠実度です。ゲート操作そのものの平均忠実度、読み出しの正答率、アルゴリズムが正解を返す確率ではありません。各ゲートの仕様に0.99と書かれていても、本稿の式へ並べて入れるだけで回路全体の成功率が得られるわけではありません。

積状態なら、部分ごとの近さを掛け合わせられる

AとBという二つの部分があり、比較する全体状態をそれぞれρA⊗ρB、σA⊗σBと書けるとします。⊗はテンソル積で、ここでは各部分の状態から相関のない全体を組み立てています。この条件の下で、次の関係が成り立ちます。[1、命題3.16]

F(ρA⊗ρB, σA⊗σB)=F(ρA,σA) × F(ρB,σB)

両方の全体状態が、同じ部分の分け方で積になっていることが条件です。各部分は純粋状態でも混合状態でもかまいません。また、すべての部分が同じ状態である必要はありません。部分ごとの忠実度がf₁、f₂、…なら、全体はそれらの積です。

純粋状態なら、掛け算になる理由を内積から見ることができます。全体の内積は各部分の内積の積に分かれ、その絶対値がFになります。混合状態を含む一般の場合も、テンソル積に対して行列の平方根とトレースノルムが対応するため、同じ関係が成り立ちます。単に平均を取る規則ではありません。

一個の0.99を、100個の0.99と読み替えない

具体例として、一個の目標を|0〉、比較する状態を|ψ〉=0.99|0〉+√(1−0.99²)|1〉とします。係数の絶対値の二乗を足すと1なので、正規化された純粋状態です。この二状態のFは、内積の絶対値から0.99になります。

目標も比較対象も、この状態を独立にN個並べた積状態にします。目標は|0〉をN個、比較対象は|ψ〉をN個です。全体の忠実度はF全体=0.99Nになります。N=10で約0.9044、N=50で約0.6050、N=100で約0.3660です。各部分の0.99は変わらなくても、全体の数値は同じにはなりません。

各部分の平方根側の忠実度を0.99に固定した積状態。個数1、10、50、100に対し全体Fは0.990、0.904、0.605、0.366。100個のFの二乗は0.134。相関のある状態への適用はできない。
同じ一量子ビット状態を独立に並べた場合の独自計算。緑はF、桃色はF²。両方の全体状態が積であることを仮定した値で、装置や回路の性能測定ではない。原寸画像を開けます。

100個のF²は約0.1340です。この純粋な目標の場合、F²は目標全体への射影で得られる確率です。今回の例なら、全量子ビットを0・1で測ってすべて0になる確率に一致します。一方、Fそのものを「100個の処理が成功する確率」と読むのは誤りです。確率として読むには、何を測り、どの結果を成功と呼ぶかが必要です。

この関係を逆向きに使うこともできます。積状態で各部分のFが等しく、100個の全体でFを0.9以上にしたいなら、各部分に必要なのは0.91/100≒0.998947以上です。もし全体の目標がF²で0.9以上なら、平方根側の各部分は約0.999473以上となります。目標の定義を取り違えると、要求する局所の値も変わります。

相関があると、局所の一致から全体の一致は言えない

次は、二つのベル状態Φ+=(|00〉+|11〉)/√2とΦ−=(|00〉−|11〉)/√2を比べます。どちらも二量子ビットがもつれた純粋状態で、違いは二成分の間の相対位相です。状態全体に共通の符号を掛けただけではありません。

片方だけの状態を部分トレースで取り出すと、どちらのベル状態でもI/2になります。Aについて比較しても、Bについて比較しても、密度行列は完全に同じです。したがって局所のFは両方とも1です。

しかし、全体の内積は〈Φ+|Φ−〉=(1−1)/2=0なので、全体のFは0です。局所の1と1を掛けて1とする計算は使えません。全体状態が局所状態の積I/2⊗I/2ではないからです。局所の表へまとめる際に、二部分を一緒に見たときの相関の違いが落ちています。

この例では、各量子ビットをX基底、つまり|+〉と|−〉で測り、二人分の結果を比べると違いが見えます。Φ+では二つの符号が同じ、Φ−では反対になります。片方の結果はどちらも半々ですが、組にした結果の関係は異なります。本稿の小さな例ではこの相関測定で区別できますが、任意の多体系を同じ一種類の測定で判定できるという意味ではありません。

局所の検査値を全体の評価へ使う前に

まず、状態をどう分けたか、何と比較したか、FとF²のどちらかを記録します。次に、比較する二つの全体が、その分け方で積状態だと言えるかを調べます。各部分を別々に測ったという手順だけでは、元の状態に相関がない証明にはなりません。共通の雑音や部分間の相互作用も、積状態の仮定を外す理由になります。

積状態というモデルを採用できるなら、部分ごとの値を掛けて全体の目安を計算できます。ただし、実測から推定した値には不確かさがあり、単一の小数だけを掛けた結果を保証値と呼ぶことはできません。推定方法や誤差範囲、モデルの妥当性は別に評価します。

相関を含むなら、全体の状態や必要な相関を捉える観測が要ります。局所の検査は、その部分だけの予測を確かめるうえでは有用です。そこから全体の忠実度まで結論を広げる際に、何の仮定を追加したかを明示すると、個々の「近さ」と全体の品質を混同せずに読めます。

出典

  1. John Watrous, The Theory of Quantum Information, Chapter 3: Similarity and distance among states and channels(2018)、命題3.13・式3.81(純粋状態の忠実度)、命題3.16・式3.90–3.91(テンソル積に対する乗法性)、印刷ページ142–143。著者の書籍案内。数値例、ベル状態の部分トレースとX相関、比較図は、本稿で明示した理想状態からの独自計算です。