ナイマルクの定理、三つの測定結果を広い空間で再現する

小さな乳白色の角すいを包む大きな白い空間に、ミント、ラベンダー、桃色の三つのくぼみが並んでいる。

一量子ビットの測定といえば、0か1の二つの結果を思い浮かべるかもしれません。それでも、量子状態から三つのラベルのいずれかを返す測定は定義できます。一般化測定を表すPOVMと、より大きな空間で行う射影測定の関係を見ると、結果の数が増える仕組みを整理できます。

簡単にまとめると?

  • POVMでは、各結果に対応する正半定値の行列を足すと単位行列になります。各行列が射影である必要はありません。
  • ナイマルクの定理は、一般化測定の結果確率を、空間を広げた射影測定で再現できることを示します。
  • 結果確率の一致は、測定後の状態や実装コストまで同じことを意味しません。数学的な構成と装置での実現を分けて読みます。

結果のラベルと、状態の次元は別に考える

量子状態を密度行列ρで表し、測定結果jに対応する行列をEjとします。結果jの確率はTr(Ejρ)です。各Ejが正半定値で、すべて足すと単位行列Iになる組を、ここでは有限個の結果を持つPOVMとして扱います。正半定値は確率が負にならないこと、和がIであることは確率の合計が1になることに対応します。[1]

射影測定は、このうち各Ejが射影、つまりEjの二乗が自身に戻る場合です。同じ空間での射影測定では、異なる結果の射影は互いに直交します。一量子ビットの二次元空間なら、ゼロでない射影を三つ並べることはできません。[1、命題2.40]

一方、一般のPOVMは射影という条件を外しています。したがって、一量子ビットに対して三つのゼロでない結果を持つ組を作れます。これは一回で状態の全情報を読み出せるという意味ではありません。一回の実行で得るのは一つのラベルであり、準備した状態と各行列に応じて、そのラベルが確率的に出ます。

三つの行列を、具体的に作ってみる

二成分の実数ベクトルをv0=(1,0)、v1=(−1/2,√3/2)、v2=(−1/2,−√3/2)とします。いずれも長さ1ですが、互いに直交してはいません。それぞれからEj=(2/3)|vj⟩⟨vj|を作ります。係数2/3を付ける点が大切です。

三つの外積を足すと、対角以外の成分は打ち消し合い、対角成分はどちらも3/2になります。そこへ2/3を掛けるので、E0+E1+E2=Iです。各行列は0と2/3の固有値を持ち、正半定値という条件も満たします。

ただしEjの二乗は(4/9)|vj⟩⟨vj|です。元の係数2/3とは違うため、これらは射影ではありません。合計がIであることと、個々が射影であることを別に検査すると、POVMと射影測定の違いが具体的に見えます。

入力を|0⟩にすると、三つの結果確率は(2/3,1/6,1/6)です。|1⟩なら(0,1/2,1/2)、最大混合状態I/2なら(1/3,1/3,1/3)となります。同じ測定の組でも、入力によって分布は変わります。以下の図は、これらの理想的な行列から独自に計算した値です。

三結果POVMと拡大空間の射影測定を比較。入力0の確率は3分の2、6分の1、6分の1、入力1は0、2分の1、2分の1で両方法が一致。
独自の三結果POVMによる計算例。拡大空間の構成で同じ分布を再現した。装置での測定回数や性能を示す図ではない。

空間を広げると、射影測定として読める

ナイマルクの定理は、こうした測定を、より大きな空間への等長写像と、その先での射影測定で表せることを示します。等長写像とは、ベクトルの長さや内積を保って別の空間へ写す操作です。行列AについてA†A=Iが成り立つと書けます。†は複素共役転置です。[1、定理2.42]

今回の例では、√E0、√E1、√E2という三つの2×2行列を縦に積み、6×2行列Aを作ります。平方根は行列の正の平方根で、成分を一つずつ平方根にする操作ではありません。この例では√Ej=√(2/3)|vj⟩⟨vj|です。

A†Aを計算すると、三つのEjの和になります。先ほどその和がIだと確認したので、Aは等長写像です。二成分の入力が、三つのブロックからなる六成分の出力へ移ります。各ブロックには入力と同じ二成分が入ります。

拡大後は、どのブロックに属するかを区別する射影Pjを使います。P0は最初の二成分、P1は次の二成分、P2は最後の二成分を選びます。これらは互いに直交し、合計は六次元空間の単位行列です。入力側へ戻して比べるとA†PjA=Ejになるので、結果確率も一致します。

独自計算では、各Eの固有値、和がIであること、A†A=I、三つのA†PjA=Ejを確認しました。さらに|0⟩、|1⟩、I/2を入力し、元の式Tr(Ejρ)と拡大後の式Tr(PjAρA†)で同じ分布が得られることを照合しました。六次元はこの説明で選んだ構成であり、最小限の次元だとは主張していません。

確率が同じでも、測定後まで同じとは限らない

POVMのEjが指定するのは、入力から各結果が出る確率です。それだけでは、結果jを得た後の状態変化まで一意には決まりません。たとえば測定を表す操作Kjに対してEj=Kj†Kjとし、結果に応じたユニタリ操作Ujを後から加えても、(UjKj)†(UjKj)は同じEjです。しかし、残った状態は一般に変わります。

したがって「同じ測定を実現した」という報告では、結果の分布を一致させたのか、測定後の状態を含めた操作まで比較したのかを確かめます。後段でも量子状態を利用する処理では、この違いが次の操作の予測に関わります。

参照した定理は、有限次元での数学的な存在と構成を示しています。補助系の準備、制御する相互作用、読み出しの誤差、必要な資源が、特定の装置で実用的かまで保証するものではありません。本稿も小さな行列の数値計算であり、量子実機での実装や、測定の最適性を検証したものではありません。

測定を読むときは、入力の次元、結果の数、各行列の成立条件、拡大する空間、測定後の状態の扱いを分けて記録します。POVMという抽象的な確率の規則と、射影測定による構成をつなぐと、何が一致し、何がまだ装置側の課題として残るのかを説明しやすくなります。

出典

  1. John Watrous, The Theory of Quantum Information、2018年の著者公開・刊行前稿。第2章§2.3、測定の定義、命題2.40(本文107–108頁)、定理2.42・系2.43(本文109頁)。2026年10月23日に取得した同版を参照。三結果の行列例、比較図、数値照合は独自作成。