フィッツの法則、ボタンまでの距離と狙う幅を一緒に比べる

手前の広い薄紫の皿と奥の小さな緑の皿の間に、桃色の先が細い形と曲線の道がある。

同じ大きさのボタンでも、いまのポインターから近い場所と遠い場所では、押す動作の条件が変わります。逆に、遠くても十分に広いボタンなら、近くの細いボタンより狙いやすいかもしれません。こうした比較を、距離だけ、大きさだけで終わらせずに考える手がかりが、フィッツの法則です。

フィッツの法則は、目標へ素早く移動して選択する動作を扱う経験的なモデルです。ここでは距離と幅の比から計算する「難しさの指標」を使い、配置案を比較します。計算値が同じでも、実際の操作時間まで同じと保証されるわけではない点が大切です。

簡単にまとめると?

  • シャノン形式の難易度指標は log₂(距離÷幅+1)。目標までの距離と、動作が収まる幅を組み合わせます。
  • 距離を半分にする案と、幅を2倍にする案は、この指標では同じになります。画面全体を同じ倍率で拡大しても、比は変わりません。
  • 指標は操作時間そのものではありません。実測から係数を求め、誤操作や利用する機器も別に確かめる必要があります。

距離と幅で、動作に要求する精密さが変わる

まず、ポインターを左から右へ動かし、長方形の目標を選ぶ場面に絞ります。開始位置から目標の中心までの距離をA、動く方向に沿った目標の幅をWとします。Wは、その範囲で動作を終えれば目標に入るという位置の許容幅です。遠くへ動かすことと、狭い範囲へ収めることを、一緒に扱います。

よく使われるシャノン形式では、難易度指標IDを次のように書きます。IDは英語のIndex of Difficultyの略です。式には複数の形式があり、以下の計算はこの形式に統一しています。

ID = log₂(A / W + 1)
MT = a + b × ID

二つ目の式のMTは移動・選択の時間、aとbは実験データへの回帰から求める係数です。距離と幅を同じ単位で入れるとA/Wは単位を持たず、IDは慣例的にビットで表します。ここでのビットは動作の難しさを表す指標で、通信したデータ量や、画面に表示した文字数ではありません。人の動作を情報伝達になぞらえたモデルであり、この式だけが身体の内部の仕組みを証明するものでもありません。[1][2]

「半分の距離」と「2倍の幅」を同じ土俵で比べる

独自の説明例として、同じ画面座標でA=240、W=24の配置を考えます。ここでの数値は架空のレイアウトの長さで、実際の画面や利用者を測定した結果ではありません。比は10、IDはlog₂(11)で約3.459です。

配置を変える二案を計算します。第一案は幅24を保って距離を120へ縮めること、第二案は距離240を保って幅を48へ広げることです。どちらもA/Wは5となり、IDはlog₂(6)で約2.585になります。幅を広げる場所がない場合にも、動作の開始位置との関係を変えるという別の検討軸が見つかります。

基準は距離240・幅24で難易度3.459。距離120・幅24と距離240・幅48はともに2.585。距離480・幅48は基準と同じ3.459。
シャノン形式から独自に計算した四つの配置。長さは同一の仮想座標単位。図の横線は開始点から目標中心までを示します。人による操作実験ではありません。

二案のIDは等しくても、画面に与える影響は違います。幅を広げれば隣の部品を押しのけるかもしれません。近づければ、関連する項目から離れて探しにくくなるかもしれません。指標を使う意義は、一方を自動的に正解とすることではなく、移動動作について同等の案を見つけ、その後の比較に残すことです。

さらに距離と幅を両方2倍にして、A=480、W=48とすると、比は再び10です。IDも基準と同じ3.459に戻ります。「部品を大きくした」ことだけでは、難易度が下がったとはいえません。この式が見ているのは相対的な大きさです。ただし、同じ比ならどんな画面サイズや身体の動きでも同じになる、という普遍的な保証へ広げることもできません。

難易度が下がっても、時間が同じ割合で縮むとは限らない

上の例ではIDが約0.874ビット減ります。同じaとbが適用できる範囲なら、予測時間の差はb×0.874です。係数bが未測定なら、何ミリ秒短くなるかはまだ計算できません。仮に説明専用の値としてa=100ミリ秒、b=100ミリ秒/ビットを置けば、基準は約446ミリ秒、二案は約359ミリ秒です。これは式の使い方を示す仮定で、端末の性能値や一般的な人の反応時間ではありません。

この例では距離を半分にしても、予測時間は半分になりません。対数を通してIDが変わるうえ、時間の式には切片aも含まれるためです。数字を読むときは「距離の変化」「IDの変化」「同じ係数で予測した時間の変化」の三つを分けると、誇張した改善率を避けられます。

実際に二つの配置を比べるなら、何を開始と終了にするかを先に決めて測ります。たとえば移動開始から選択までを測る場合と、画面が出てから目的の項目を探して選択するまでを測る場合では、含まれる作業が違います。本稿の距離と幅の計算から、探索時間や選択後の画面応答時間まで短くなったとは判断できません。

横幅だけで、縦から狙う動作を説明しない

細長い長方形へ横から近づく場合と、上から近づく場合では、進む方向に沿った許容幅が変わります。二次元の目標に一次元の式をそのまま使うときの問題として、MacKenzieとBuxtonは1992年の論文でこの点を検討しています。進入方向に沿う幅や、縦横の小さい方を使う案などが比較されており、画面の横幅をいつもWへ入れれば十分という話ではありません。[2]

今回の四つの図は、横方向の同じ動作という条件をそろえています。斜めから近づく実画面、動く目標、途中で指やカーソルが隠れる場面へ、そのまま数値を移すことは避けます。使う機器や操作姿勢が変わる比較でも、同じ係数を使えるかを改めて確認する必要があります。

速さ、誤操作、最低条件をそれぞれ確かめる

速く押せても、外してやり直す回数が増えれば、利用者にとって改善とは限りません。実測では操作時間に加えて、選択位置や目標を外した割合を残します。フィッツの法則を用いた評価には、選択位置のばらつきから実効的な幅を求め、速さと正確さを一緒に扱う方法があります。本稿は名目上の幅Wによる配置比較に限定しており、計算したIDをそのまま実測スループットと呼んでいません。[1]

また、WCAG 2.2のターゲットサイズは、最低限の大きさや所定の間隔などを確認する基準です。W3Cの解説は、間隔の例外を満たしていても、小さくて狙いにくい目標があり得ることを述べています。フィッツの法則でIDが低いことと、WCAGの条件を満たすことは、別に確認します。[3]

設計では、まず実際に選択を受け付ける領域と、よく使う動作の開始位置を把握します。次に、距離を縮める案と幅を広げる案を同じ条件で比較し、候補を実際の利用者・機器で確かめます。今回の計算は、その比較を始めるためのものです。式による予測と、操作を観察して得た結果をつないで使うことで、数値の意味を保ったまま設計へ生かせます。

参考資料

  1. I. Scott MacKenzie, Fitts’ Law, Handbook of Human-Computer Interaction, 2018, pp.349–370。著者公開版。予測式、シャノン形式、実効幅と評価方法を参照。
  2. I. Scott MacKenzie and William Buxton, Extending Fitts’ Law to Two-Dimensional Tasks, CHI ’92, 1992, pp.219–226。著者公開版。式(3)、一次元と二次元の幾何条件を参照。
  3. W3C WAI, Understanding SC 2.5.8: Target Size (Minimum)。規範そのものではない解説資料。Intentの限界説明を参照。各ウェブ資料は2026年10月23日確認。